第21話 コラボのあとで
「かんぱーい!」
木製のジョッキがぶつかる音が、酒場の片隅で響いた。
コラボ配信が終わったあと、リュミと二人で軽くお疲れ会。
ここはギルド御用達の“冒険者もストリーマーも集まる飲み処”。
「マジで今日、楽しかったね~! あたし、ああいう配信またやりたい!」
「私も……テンポとかちょっと不安だったんですけど、なんとかなって良かったです」
焼いた肉をつまみながら、私たちは笑い合う。
明るくて勢いのあるリュミの隣で、私はほんの少しだけお酒が入って、気が緩んでいた。
「なんか、さ。こうやって誰かと打ち上げとかするの、変な感じだけど……いいよね」
「……うん。こういうの、好きかもです」
グラスの中身が少し減った頃、リュミがふと真顔になった。
「またやろうね、リオナ」
「……はい」
その一言だけで、
コラボが“ちゃんと成功した”ってことを、じんわり実感した。
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部屋に戻って、魔導石をスタンドに置く。
さっきまでの喧騒が嘘みたいに、静かになった。
「……はぁぁあ~~、緊張した……!」
ベッドに倒れ込み、クッションを抱きしめながら小さく叫ぶ。
笑ってたけど、声も表情も、けっこう張り詰めてた。
でも――楽しかった。
起き上がって、魔導石を再起動。
通知一覧を見ると、コラボ配信の切り抜きがすでに投稿されていた。
《話題の耳フリ×陽キャコラボ、街紹介がプロすぎる件》
《話題の“分配投げ銭”機能! 初導入の実践例がこれ》
(……分配投げ銭。最近追加されたって聞いたけど、
それまではどうやってたんだろ。配信者同士で手動で分けてたのかな)
自分の名前と、誰かの気持ちが結びついた金額。
それが通知で可視化されるのって、なんかまだ実感ない。
でも、たしかに“そこにいた”って証拠みたいで、
ちょっとだけ胸があったかくなる。
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昼過ぎ。ギルドに立ち寄ると、カウンターにフィーネさんがいた。
「あら、お帰りなさい。コラボ、上手くいったみたいですね」
「はい……って、なんで知ってるんですか?」
「リュミが、昨日からずっと楽しみにしてたんですよ。
“絶対うまくいく!”って言ってましたから」
「……そうだったんですね」
ギルドのフィーネさん――つまり、リュミのお姉さん。
あまり口数は多くないけど、実はちゃんと見てくれてるタイプの人。
「あなた、少し変わりましたね」
「えっ」
「最初に来たときより、顔が明るくなった気がします」
そう言われて、自分の頬を触ってみる。
……たしかに、ちょっと笑ってるかも。
「ありがとうございます。……また配信、頑張ります」
「ええ。期待してますよ、“ストリーマー・リオナさん”」
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その夜。
簡素な部屋の片隅で、魔導石を見つめながら私は考える。
次の配信――今度は、ひとりでやってみようかな。
誰かと一緒にやるのも楽しいけど、
私が“何を見て、どう伝えるか”をちゃんとやってみたい。
(今の私は、ひとりでもちゃんと喋れる。伝えられる。たぶん)
配信ボタンに指をかけて、小さく息を吐く。
「よし。……今夜も、実況始めます」
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