第16話 はじめて稼いだ、その日の帰り道
「――こちら、Dランク依頼の完了報告です!」
ギルドのカウンターで、私は少し緊張しながら報告書を提出した。
応対してくれたのは、フィーネじゃなく別の受付スタッフ。
けど、手続きはスムーズだった。
魔導石を端末にかざすと、すぐに通知が来た。
《ギルド報酬:基本報酬10リル+危険手当2リル》
《配信ボーナス:視聴者反応優良につき+3リル加算》
《合計:15リル 支給》
(うわ、ちゃんとお金……入った……!)
配信で得た収益。
あの世界の向こうにいる誰かが、自分を見て、応援して、くれたお金。
ただの数字じゃない。
これだけで、胸が少し温かくなる。
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ギルドを出てから、私はその足で商業通りへ向かった。
防具屋の横、焼き菓子屋の手前に、小さな屋台がある。
「これください、1つ」
「へい、毎度! フルーツ包みパンだよ、焼き立て!」
焼きたてのパンを両手で受け取り、香ばしい香りを胸いっぱいに吸い込む。
中には果物のジャムがたっぷり詰まってて、
いつもはちょっと高くて手が出ない“ご褒美パン”だ。
(……これが、自分で稼いだお金で買う初めての“ちょっと贅沢”)
口に入れた瞬間、ふわっと甘くて、思わず笑みがこぼれる。
「うん、うま……っ」
> ※これは配信中ではありません
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パンをかじりながら、私は“家”へ向かう。
ギルドが紹介してくれた、提携住居施設。
冒険者やストリーマーが使える、簡易な宿舎みたいな場所だ。
個室には小さなベッドと机、収納。
魔導通信回線も通っていて、配信環境も最低限は整ってる。
「ただいまー……って言っても誰もいないけど」
部屋に入って荷物を置く。
そして魔導石を充電スタンドにセットして、
窓辺に座って、もうひと口だけパンをかじった。
配信して、見てもらって、
その結果、お金がもらえて、好きなパンが食べられた。
たったそれだけだけど、
たったそれだけが、めちゃくちゃ嬉しかった。
「……うん、明日もがんばろ」
次のネタはどうしよう。
次の配信、どんなふうに話そう。
そんなことを考えながら、私は魔導石の光が淡く瞬くのをぼーっと見つめていた。
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