第13話 ダンジョンの中、実況は止められない
「暗い……思ったよりずっと」
岩の裂け目を抜けると、空気が一変した。
湿気。獣臭。冷たい空気。
街の喧騒とはまるで別世界だ。
私とガルドさんは、肩を並べて洞窟の奥を進んでいた。
魔導石に取り付けたスタビライザーが淡く光り、視界を安定させてくれる。
その映像は、魔導通信を通じて世界中の誰かに届いている。
> 《うわ、けっこうガチな洞窟》
> 《光の当たり方リアルだな》
> 《ASMR助かる(違う)》
> 《今のところ平和だなー》
「こちら、リオナ・アメシス。現在、草原地帯のDランクダンジョン“亜種ボアの巣”に潜入中です。
映像・音声ともに良好、同行者はベテラン冒険者・ガルドさん!」
「よろしく頼むよ、視聴者さんたち」
ガルドさんは落ち着いた声でカメラに向かって軽く頭を下げた。
それだけでコメントが増える。さすが場慣れしてる。
> 《ガルドさん渋い!》
> 《この人安心感あるな》
> 《耳フリちゃんもがんばれー》
> 《前より配信慣れてきてるな》
私も息を整えながら、カメラに顔を向ける。
「今回は配信案件ということで、戦闘が発生しても基本的には私は補助に徹します。
なので、戦いの臨場感や現場のリアルさを中心にお届けしていきたいと思います!」
> 《こういう解説助かる》
> 《実況付き冒険レポート、斬新》
> 《ほんとに異世界ストリーマーじゃん》
(……緊張はしてる。でも、今のところ悪くない)
その時、奥の壁の影から、ゴソゴソと音がした。
「っ……きた」
岩陰から現れたのは、灰色の毛並みを持ったボア――
亜種らしく、目が赤く光っている。
大きさは中型犬くらい。だけど、突進力は相当らしい。
「カメラはそのままでいい。俺が仕留める」
ガルドさんが前に出る。
私は息を殺して、実況モードに切り替えた。
「現在、敵性個体を視認! 目視での種別確認――ボア、亜種!
サイズやや大きめ、挙動は……はい、突進来ました!!」
ガルドさんが一歩前に出て、盾で受け止める。
ゴッという重たい衝突音。
それだけでコメントが一気に湧き上がる。
> 《音すご!》
> 《臨場感あるわこれ》
> 《ガルドさんやば…動きキレッキレ》
> 《実況つき戦闘いいなこれ!》
私はその場で状況を中継しつつ、周囲の安全を確認する。
自分ができるのは、伝えること。
“ちゃんと見てる人に届くように”って、意識して。
戦闘は数分で終わった。
ガルドさんがボアを押さえ、トドメを刺すと、魔導石が自動で“記録完了”の音を鳴らした。
「おつかれさまでした……!」
「おう、まだ序盤だ。気を抜かずにな」
私は胸に手を当て、深呼吸。
と、その時だった。
――ピピッ、ピピッ。
魔導石の通信欄が赤く点滅した。
《警告:通信安定度 低下中》
《地形要因により映像ラグの可能性あり》
(えっ……?)
> 《画面ちょっとカクついた》
> 《音声落ちたかも?》
> 《リオナちゃん大丈夫?》
「こ、こちらリオナ、通信状況が……っ」
その瞬間――
地面が、崩れた。
「きゃっ――!」
次の瞬間には、私は小さな落とし穴の底で、
ひとり土埃に包まれていた。
(やば……これ、マジで配信中なんだけど!?)
……続く。
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