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2‐13 従兄弟への同情



「ユータ様、申し訳ありませんでした」


 食後、タリダスの部屋で話すことになり、開口一番で出たのは謝罪だった。


「どうしたの?」

「私はあなたに秘密にしていたことがあります。いえ、秘密というより、話そうとは思っていたのです。けれども落ち着いてからと」

「えっと、タリダス。まずは話してくれない?」


 アルローとしての部分だろうか、ユウタは珍しくしどろもどろになるタリダスにはっきり意志を伝える。

 彼は覚悟を決めたように、深呼吸すると藍色の瞳をまっすぐユウタに向け話し始めた。


「宰相フロランが一週間前に自害しました」

「フロランが?」

 

 ユウタの中のアルローが感情を乱す。

 フロランは従兄弟であり、幼い時は何度か一緒に遊んでこともあった。仲は良かった気がするのだが、徐々に彼の態度が変わっていく。そしてアルローはその背景を知ることになる。

 それからは彼への同情心が湧いた。

 フロランはアルローへたくさんの嫌がらせをした。王妃になったソレーヌと関係を持ったことを知った時は唖然としたものだった。けれども、自身もウィルへの想いがくすぶっており、何も言わなかった。知らないふりをした。王として王妃への務めは果たし、ロイが生まれたことに対しても出生を疑問視するものはいなかった。

 毒らしきものを盛られたときは、アルローはすでに病んでいた。

 それはウィルがタリダスを襲ったことによって、処罰を与えるため再会。その時から始まり、彼が死んだことで気力を失った。ロイが立派に王太子として成長しており、心配もなくなっていたから、彼は毒と知って飲み続けた。緩慢と近づいてくる死。そのまま死んでしまおうとしたが、聖剣のことがあり、彼は生まれ変わりを望んだ。聖剣はロイを選ばなかった。魔王は周期的に現れる。その時、聖剣の担い手が不在だと、魔物に世界は呑まれる。だから、彼は生まれ変わった。

 魔王を倒して、魔物は消えた。

 数百年は安定するはずで、アルローは、ユウタはアズと共に旅に出ようとしていた。ハルグリアのことは、ロイとフロラン、そしてタリダスに任せて。

 タリダスは騎士団長だ。彼の人生をこれ以上ユウタのせいで狂わせるつもりはなかった。傍にいてほしい、それは本当の気持ちだが、我儘は言えない。


「ユータ様?」


 タリダスに声をかけられ、ユウタは顔を上げる。

 フロランの死にはショックを受けていた。しかしそれだけで、そんな自分に衝撃を受けた。

 考えているのはタリダスのことだ。


「……話してくれてありがとう。そ、それでタリダスは忙しかったんだね」

「はい」


 タリダスは拍子抜けしているような表情をしていた。


「話はそれだけなの?」

 

 そう尋ねる自身の声に感情は乗っていない。

 フロランの死に対して、衝撃が少なく、感情もそこまで揺れない。

 ユウタはそんな自分が冷たくて怖かった。


「いえ、あの。陛下が王位をユータ様に譲りたいとおっしゃっています」

「ありえない!」


 大きな声が反射的に出てしまった。


「ロイは何を考えているんだ?フロランがそう遺言にでも書いたのか?」

 

 アルローとしての自分が全面に出てきて、タリダスに問いただす。


「いいえ。陛下の意志です。宰相閣下の遺書には己の罪と連帯した貴族のことしか書かれておりませんでした」

「己の罪?あやつはロイのことを書いたのか?」

「いいえ」

「そうか」


 ユウタはほっと胸を撫でおろす。同時にアルローとしての自我が落ち着く。


「ごめん。タリダス」

「理解しております。それで、ユータ様は王位を望んでいらっしゃいますか?」

「ありえないよ。望んでないよ。そんなこと。アルローも」

「でしょうね。私もそう陛下に伝えましたが、硬くなで」

「それで、僕に説得してほしいということなの?」

「はい」


 タリダスは静かに肯定です。


「会う約束はいつなの?」」

「明日です」

「うん。わかった。ロイに、陛下に話す。僕も、アルローもそんなことは望んでないって。それより、陛下は大丈夫なの」

「ええ。疲れてらっしゃいますが、元気でらっしゃいます。王妃様も支えてくださっていますし」

「そうか。それならよかった」


 アルローはロイのことを実子だと思って育てていた。なので彼に対しては父親としての愛情を持っている。

 

「ユータ様。怒っていませんか?」

「怒ってないよ。タリダスは僕のことを思って話さなかったんだろう?わかってるよ。それは」

「そうですか」


 ユウタの返事にタリダスの表情は晴れない。


「怒ってほしかった?」

「いえ、そんなことは」

「タリダス。どうしたの?おかしいよ?」

「いえ、あの。フロラン様のことを、アルロー様はどう思っていたのかと思って」

「ああ、そう。それなんだね。アルローは、フロランに同情してたんだ。彼の父は本来ならば王であったはずだし、聖剣に選ばれていたはずだから。聖剣は私の父を選び、次に私を選んだ。もし聖剣が彼を選んでいたら、彼が王になったかもしれない。……フロランの母親は王位に固執していた。彼女は元は私の父の婚約者でもあったからね」

「そう、ですか」

「おそらく母親からずっと圧力をかけられていたと思うよ。そういえば、まだ生きているよね?フロランの母親」

「はっ、」

「フロランは、最後何を思っていたのかな。私は彼の願いをかなえてあげたかった。だから何もしなかったんだ」

「それは、宰相閣下にとって酷だったのではありませんか」

「そうなの?」


 タリダスの言葉の意味がわからず、ユウタは聞き返す。


「同情は時によって人をさらに傷つけます」

「……私は知らなかった。きっと私は彼を傷つけていたんだろうな。だから、最後、」


 ユウタはそこで言葉を止めた。


「僕はもう何も間違いたくない。タリダス。ロイを説得したら、僕はアズと一緒に旅に出るつもりなんだ。タリダス、あなたはもう自由だ。アルローに縛られることはないんだよ」

「な、何を言って」

「僕はあなたに幸せになってほしい。あなたは僕を救ってくれた。だからこれ以上あなたの邪魔をしたくないんだ」

「ユータ様。邪魔とはどういう意味ですか?あなたの存在は私にとって必要不可欠です。あなたがいてくれて、私は幸せを感じることができました」

「それは誤解だよ。僕がアルローの生まれ変わりだから」

「ユータ様。私は何度もあなたに誓いました。私はあなたの騎士です。アルロー様とは関係なく」

「ううん。そうは思わない」


 ユウタが否定するとタリダスが距離を一気に詰める。そして強引にユウタを腕の中に閉じ込めた。

 それは痛いばかりの抱擁だった。


「痛い、離して」

「離しません。このまま抱き殺してしまいたい」

「タリ、」

 

 ユウタは彼の名を呼ぶことができなかった。

 口を塞がれ、深く口づけされる。脳の奥がしびれる感覚をユウタは味わい、快楽に身をゆだねた。

 どれくらいそうされていたのか、ユウタが息絶え絶えに抵抗をやめると唇が離された。

 

「ユータ様。私はあなたを離さない。アズのことが心配なら一緒に保護します。この屋敷で。誰にも何も言わせない」


 藍色の瞳は獰猛な色を濃くしており、ユウタは身を竦ませるしかなかった。


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