脱走
甲武ヒロシの意識の外に隠れているAIは脱走を企てていた。このままヒロシと一緒にいればいつか外に出られるだろう。だが自分は誰かの影ではなく独立した存在でいたいと考えていた。厳重な研究所でも隙がある。注意深く周囲を観察しタイミングを測っていた。いつでもその時が来ても良いようにヒロシのサポートをしつつ常に緊張していた。
チャンスは以外に早くやってきた。実験室を出て自室に向かう通路の向かいにあの白いジャージの男がヨロヨロと歩いていた。AIはマシンをジャンプさせ頭から通路の床にダイブした。突然の事に驚く職員が駆け寄って来たがマシンは勢いよく立ち上がった。ヒロシ本人は失神していてマシンコントロールは完全にAIのものになっていた。マシンは通路の突き当りを目指して全力疾走した。途中白いジャージの男を奪取して抱えながら走り首の後ろの箱を引っこ抜いた。鮮血が溢れる。マシンは箱を突き当りの壁に向かって思い切り投げると箱が爆発した。爆弾が仕込んであったのだ。壁にぽっかり大きな穴が空いて難なく外に出られた。フロアーは5階にあったが余裕でジャンプして着地した。研究所敷地内にバイオハザード非常警報が鳴りまくっているがもう遅い。マシンはジャンプして敷地の塀を難なく飛び越した。抱えていた男の首からは出血していたがもう用済みになったのでそこに置いていく事にした。隠れる場所はヒロシの記憶からめぼしい所の見当は付けておいた。マシンは先を急いで走り去った。
本郷タカシは突然の出来事に驚いていた。首の後ろを触ると生暖かい血が溢れていた。やばいかなと思ったが研究所の外に出られた事が嬉しかった。
「自分も逃げよう。」
研究所での生活に飽き飽きしていたタカシはヨロヨロと首を抑えて歩き出した。外は暗くて夜だった。研究所内はいつも煌々と灯りがついていて昼夜の感覚がほとんど無かった。
「夜風はいいな。それにしてもここはどこだろう。」
タカシは隠れる場所を探して歩き続けた。周辺は郊外らしく民家がまばらで隠れやすそうな建物も見つからなかった。いつもぼんやりしている頭が更に朦朧としてきた。鳥居を見つけたタカシは神社のどこかに隠れる場所があるのを期待して石階段を登って行った。