危機一髪
AIノバディはグラウンドでの演技中スタジアムの観客には見えない位置に狙撃手が待機しているのを確認した。要人警護に召集されたSAT隊だ。
狙撃手は10人。侵入者である自分を狙っているのが分かった。
要人観覧席は聖火台のすぐ近くだ。IOCのマイバッハ会長の姿が見える。
聖火台に点火すると観客は一斉に立ち上がり拍手をしたその瞬間だった。
AIノバディは自分を狙っていた狙撃手のうちの一人の動きを捉えた。
グラウンドをはさんで正面の観客席の更に上に位置する監視スペースから閃光を確認。同時にマシンは持っていたトーチを空中へ弾き飛ばした。
トーチの炎は飛ばした勢いで一瞬消え次の瞬間爆発した。
SPが反射的に要人をかばう。爆発は比較的小規模だったがスタジアムは騒然とした。警備員に囲まれるマシンと甲武ヒロシ。
ヒロシはたまらず叫び声を上げる。その瞬間マシンは警備員を飛び越え観客席に飛び移り通路を駆け抜けて行った。
一部始終がテレビ中継されていた。テレビでは混乱するアナウンサーがなんとか場を取りつくろうと必死だ。テレビを見ていたタカシが顔を上げたその時国立競技場の張り出し梁からヒロシを乗せたマシンが飛び降りて来たのが見えた。マシンは大型の猫科の動物の様な身のこなしで道路を飛び越え街路樹の間を駆け抜けて行く。反射的にタカシは車から出て後を追う。走って、いや跳躍してマシンを追う。跳躍しながら邪魔なミラーシルド付きヘルメットを脱ぎすてる。マシンは周辺の庭園を抜け首都高の塀を飛び越えた。タカシもそれに習う。
オリンピック開会式中でも物流は止まらない。首都高4号線はトラックが水牛の群れが川を渡っているかのように流れている。タクシー、自家用車などもちらほら混じっているが今の時間の流れを主導しているのは圧倒的に大型トラックだ。
マシンはそのうちの一台のパネルトラックの荷台屋根に飛び乗った。タカシもそれに続き後続のトラックの荷台にしがみつく。トンネルの縁が頭すれすれをかすめヒヤリとする。バイクとは違うのだ。見失わないように目を凝らす。しがみつくのに邪魔な長靴を脱ぎ捨てた。
トラックは首都高4号線上りの流れの中にいる。どこにいくつもりだろう。行き当たりばったりなのか。トラックはトンネル内の三宅坂ジャンクションを左に首都高環状線C1に入った。トンネル内のカーブが多い区間だ。しばらくパネルの屋根にしがみついていたマシンに動きがあった。北の丸トンネルを抜けて関越方面に進もうとしていたトラックから本線を走るトラックへ飛び移った。自分のトラックは本線のままだった。マシンとの距離が縮まってきた。マシンはどこかに向かっているのだと思った。
首都高の少し見開けたビル街が見通せるエリアに来た。都会のイルミネーションが夜空の星々と溶け合い宇宙空間を飛んでいるロケットにしがみついているような錯覚を覚えた。
次は江戸橋ジャンクション。トラックは2台とも左車線に入った。箱崎ジャンクションに向かう。車線が増え車線変更する車のため少々流れが遅くなる。マシンは湾岸方面に進むトラックから分岐中央の東北道方面に進むトラックに飛び移った。自分のトラックも湾岸方面に進んでいたので適当なトラックを見付けて飛び移った。緩い左カーブの緩い登り坂を進んでいるとスカイツリーが見えて来た。イルミネーションを生き物のように怪しく点滅させている。
両国ジャンクションを左車線に入り東北道方面に向かう。交通量が若干減ってきた。スカイツリーが正面に見える。
カーブや合流の連続のC1をに対して隅田川に沿った首都高6号は見通しの良い直線区間だ。対岸の都市の夜景が見下ろせ見晴らしが良い。スカイツリーが間近に迫って来た。
アサヒビール本社と墨田区役所を過ぎた時マシンはトラックから左にジャンプして高速道路の下に飛び降りて行った。
タカシもマシンを追いかける。マシンは両腕でヒロシの頭をガードしながら街路樹をクッション代わりに勢いを殺し地上に降り立った。高速道路下をくぐり抜け東武伊勢崎線の高架に沿ってスカイツリー方面へ走る。追いかけるタカシは東博士はなんであんなオーバースペックな物を作ったんだと思った。