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ぶっつけ本番

 とある都内マンション4階角部屋。

 潜伏中マシンはヒロシのために侵入した部屋をあさり、ストックしてあったインスタントラーメンを作ったり米を炊いたりして食べさせた。

 クーラーを付けたり水を飲ませたりヒロシの体調管理に気を使った。

 ヒロシはマシンに対してストックホルム症候群のような気持ちを抱き始めていた。


 決行日当日となった。

 家庭用AC100Vでは時間がかかったがなんとか満充電する事ができた。

 マシンは洗面所でヒロシの無精髭を剃り身だしなみを整えた。

 今日はオリンピックの開会式が国立競技場で行われる。

 時刻は昼を過ぎていた。

 例の特大サイズのシャツに袖を通しチノパンを履きヒロシにスポーツキャップを被らせ眼鏡を掛けさせた。

 マシンとマシンに乗ったヒロシは数日間世話になった部屋を後にした。

 競技場へは歩いて行くことも出来たがバッテリー節約のため地下鉄を使った。多様化社会推進のため少々怪しい格好をしていてもジロジロ見られる事は無い社会になっていた。

 オリンピック会場に侵入するルートはゴブリンに貰ったデータに添付されていた警備計画書から割り出した。

 駅を出て競技場裏手の搬入口付近まで来ると大道具搬入トラックが何台も入場待ちをしている。マシンはタイミングを見計らって荷台に飛び乗った。


 地下鉄の防犯カメラの顔認証システムによりヒロシの乗るマシンが国立競技場駅を通過した事がヒロシ捜索チームに連絡された。周辺を警戒中の警官に連絡が来たのはマシンが競技場に侵入した後だった。

 科研側にもヒロシ発見の一報が伝えられ警備チームも周辺に出向く事になった。警備チーム預かりの身のタカシも同行する事となった。タカシは外出できるので嬉しそうだ。


 マシンは大道具に紛れて侵入した後荷下ろしを手伝う振りをしたり裏方スタッフの振りをしたりして競技場の奥へと進んで行った。

 ヒロシは騒ぐと殺すと脅されていたので大人しくしていた。

 開会式の舞台裏は運営スタッフやボランティアや出番待ちの出演者でごった返していた。


 夏の長い夕暮れ時が終わり開会を告げる花火が上がった。祭りのスタートだ。


 マシンは会場の警備員の目を掻い潜りスタッフ用トイレの個室に入った。その時が来るまでここに隠れているつもりだ。スタッフ用に配られていたペットボトルの水をヒロシに飲ませるとマシンはポケットから紙切れを出して読ませた。

「もうすぐ本番です。」

「準備はいいですか?」

「笑顔を絶やさない様にお願いします。」

 マシンに対してすっかり無抵抗になり考えるのをやめていたヒロシは何の事かさっぱりわからない。疑問に耐えなければいけない時間が過ぎて行った。


 その時が来た。マシンは着ていた服を脱ぎ捨て本来の姿に戻った。それは人間とパワードスーツが融合したサイボーグだ。

 トイレのドアを開け通路に出て堂々とを歩く。「笑顔で。」と書いた紙切れをヒロシに見せながら出演者出入り口までやって来た。そこはもう開催中のセレモニーの空気が間近に感じられる。

 甲武ヒロシに気づいたスタッフや出演者が驚いている。あの甲武ヒロシが歩いている。あのロボットのような物は何だろう。

 警備スタッフは彼に気が付いたが人ごみですぐには近づけない。


 開会式は聖火ランナーが入場し聖火台への点火式を迎えていた。おもむろにマシンはグラウンド中央へ向かって走りだした。

 マシンは踏み切ると両手を床に付きハンドスプリングで勢いを付け捻りを入れた宙返りを飛び見事に着地した。片手を真っすぐ上げスタジアムの各方面の観客にアピールする。

 カメラが突然の侵入者を捉え競技場の大スクリーンに映し出された。甲武ヒロシのぎこちない笑顔が大写しだ。

 いきなりスタジアムの中央で観客に晒されたヒロシは、大勢に見られている、醜態を晒す事は出来ない、とにかく今は笑顔を作る事に専念しようと思った。

 マシンは踵を返すとまた宙返りの大技を二つ三つ決めポーズを決める。機械とは思えないしなやかな動きだ。

 退屈な開会式の演出に飽き飽きして盛り下がっていた観客は甲武ヒロシの突然の登場にに拍手喝采だ。


 開会式スタッフや警備員は混乱し予定外の事態に対応が追いつかない。

 科研のワンボックスカーの車内で開会式をポータブルテレビで見ていた警備チームは甲武ヒロシとマシンの登場に仰天した。とにかく競技場に入ろうと車外に出て出入り口に向かうが混乱する会場警備スタッフでは埒が明かない。

 スタジアムの歓声は場外にも溢れ出て来ていた。


 ひとしきり演技してスタジアムを湧かせた後マシンは聖火受け渡し場所まで近づいた。

 最終ランナーの女性アスリートが呆気にとられている。

 当然の様に聖火トーチを半ば強引に受け取るとお辞儀をし聖火台へ向かって歩きゆっくり階段を登り始めた。


 タカシは小出康夫からお前は車に残れと言われたので車内でテレビを見ていた。支給されたヘルメットのミラーシールドで顔を隠しているとは言え人前に姿を晒すのは良くないと判断しての事だろう。

 テレビは聖火台の階段を登る甲武ヒロシの乗ったマシンを映し出していた。

 マシンは階段を登りきると観客席に向かってうやうやしく礼をし聖火台にトーチを掲げ点火した。








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