話し合い
会談は科研の会議室で行われた。
タカシは建物に入るのを拒んだが渋々了承した。
緑川博士はなんで夏子とタカシが一緒にいるのかという疑問よりもタカシの変身した身体に興味津々の様でまじまじと身体を観察すると「後でCTスキャンを取らせてくれ。」と言った。
科研側は緑川博士と東博士と念のため警備の小出康夫が出席し夏子とタカシは机を挟んで向かい合った。
今までの経緯と現在起こっている事態をどうしたら良いか話し合われた。
最優先にするべき事は行方知れずの甲武ヒロシの捜索をする事という結論が出た。
東博士はマシンにはWifiなどのワイヤレス接続機器はあえて搭載していないので外部から乗っ取られたのでは無いと結論づけた。AIが暴走しているとしか考えられないがあのメモリーのスペックではありえないとも言った。甲武氏の身が心配だ。
警察と協力しないとならない。空き巣常習犯のタカシの身の処遇について問題になった。強化STAP細胞の研究に協力する事を交換条件に科研の上層部に政治力を発揮してもらう事になった。
もう病室に戻りたくないと申し出たタカシの身はとりあえず科研の警備チームに預けられる事になった。小出康夫が申し出てくれた。
東博士はかろうじて残っているタカシの声帯から信号を拾うボイススピーカーをプレゼントしてくれた。「爆弾は仕込んでいません。」と冗談めかしたが居場所がわかる様発信機は付けてあった。
夏子はとりあえず非常勤勤務で菓子職人と兼任となった。
タカシは研究所のIDパスを発行してもらった。前より行動範囲は増えたが完全に自由となったわけでは無い。
あれだけ研究所に戻るのが嫌だったのに結局戻った自分の心境の変化は何なのだろう。これが空気を読むという事か。
小出康夫に前職は何をやっていたのか聞かれ
「バイク便です。」
と答えた。とっさに口をついて出た自分の言葉に驚いた。本当にバイク便をやっていたのかもしれないと思った。
敷地内の宿直室に案内され今夜はここに泊まれと言われた。
洗面台の鏡に映る自分の首に付けてもらったボイススピーカーを見て犬の首輪みたいだなと思い、気持ちが下がった。