2020年 日本のある場所で
はじめまして。趣味で書いた小説を投稿させていただきました。残酷暴力描写は控えめとなっております。よろしくお願いします。
ルームランナーの上を走っている。いや歩いているのか。
酸素マスクが邪魔だった。首の後ろに付けられた箱から常に小さな刺激を受けていて不快だった。
何十分、何キロ走ったのかどのくらいのスピードだったのかよく分からない。
ランの後は握力や跳躍力や反射神経などのテストを指示された通りにこなしていった。
毎日この繰り返しだ。
「いつからやってるんだっけ。」
三、四ヶ月、いやもっと、半年ぐらいか、一年は経っていないと思った。
思考を巡らそうとしても集中が続かず、記憶もぼんやりしてはっきりしない。脳にフィルターを掛けられているようなそんな感覚だ。
「ここはどこかの病院か研究所なのかな。」
体力測定の後、自分の病室に戻る通路で考えた。ここに来てから建物の外に出た事は一度もない。ここが普通の病院で無い事は厳重な扉や実験測定機器を見れば明らかだった。
「外に出たいな。」
自分がここに来た経緯を必死に思い出そうとしたが無理だった。
本郷タカシはバイク事故で死亡した。死の直前、救急車の中で実験の検体になる事を承認するサインをした。意識を失っていたから本当にサインしたのか不明だ。
救急車は病院に向かわず、ここ科学技術研究所 通称「科研」に直行し心電図がフラットになった瞬間から実験が始まった。
人体を使った強化STAP細胞による再生医療実証実験の第一号になったのだ。
「倫理的にはセーフだよな。サインもらってるし、一回死亡してるし。」
担当の緑川博士は自分に言い聞かせるように呟いた。
コンプライアンスにうるさい昨今、成果が未知数の人体実験など社会的に許されるはずがない。しかし研究者としての使命感と己の興味を満たすためにもやらないわけにはいかなかった。
「科研」は国から予算を得ている日本政府直属の研究所で日本の頭脳が集結していると言っても過言では無い。数百もの研究が平行して行われそのため予算が逼迫していた。
成果が期待できそうもない研究には予算が降りず規模も縮小、消滅の可能性もある。
「これが認められれば医療に革命が起きるぞ。」
緑川は独り言を言いながら実験データに目を通していた。今まで不可能とされてきたSTAP細胞による再生医療、予算獲得のため苦労した日々を思い返した。
不可能と嘲笑した奴らを見返す日はもうすぐだ。研究成果をプレゼンする日は間近に迫っていた。