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第053話 届け出

「あの、すみません」

「あ、はい。どうされましたか?」


 警察署について受付に話しかける。


「ちょっと落とし物を拾ったんですが」

「あ、あなたは……!! しょ、少々お待ちください」


 顔を上げた受付の女性が目を見開き、パタパタと奥へと消えていく。


 しばらく待っていると、奥から大分髪の毛が薄い、五十代くらいの男性がやってきた。汗をハンカチで拭っていて、苦労性な表情をしている。


「私は小糸と申します。よろしくお願いします」

「私は稲上です。よろしくお願いします」

「あ、あの、何か拾い物をされたとか……」


 男性と女性が順番に自己紹介をして早速本題に移る。


「あ、はい、そうです」

「ここで出していただけますか?」

「ここだとちょっと……」


 警察署に入ったばかりの沢山の人の目がある所で、百両箱に入った小判がザックザックのシーンを見せるわけにはいかない。


 そんなことをしたら、目立ってしまうし、変な輩に目をつけられてしまうかもしれない。


「そうでしたか。こちらへどうぞ」

「分かりました」


 小糸さんも最初から分かっていたかのように自然に奥へと案内してくれた。なぜか稲上さんもついて来ている。


 よく分からないけど、そういうものなんだろう。


 稲上さんはとても気分が良さそうにニコニコと笑いかけてきた。俺はその理由が分からなくて苦笑いを浮かべるしかなかった。


「それで拾得物ですが……」

「はい。私はプレイヤーなので、驚かないでいただきたいのですが――」

「存じております」


 インベントリから取り出すのは一般人が見たら驚くべきこと。そのため、あらかじめ断りを入れたら、食い気味に返事をされた。


 えっと、俺は自分がプレイヤーだと言った覚えがないけど、この人たちはなんで知ってるんだ? もしかして亜理紗の配信を見ていたとか? いやいや、そんなまさかな……亜理紗の配信なんてそんなに認知度はないはず。たまたまだろう。

 

「そうですか。それでは出しますね」


 俺は地面を掘って出てきた千両箱をテーブルの上に置いた。


「こ、これはもしや……!?」

「しゅごい……」


 小糸さんは千両箱を見て目を見開いた後、顔を上げて俺を見る。その顔には「小判ですか?」と分かりやすく書いてあった。


 一方で稲上さんは千両箱に視線が釘付けになっている。


「はい、ご想像の通り、地面を掘ったら小判が出てきまして……」

「流石はハピおじ……」

「何か?」

「いえ、なんでもありません」


 説明の後に稲上さんが何か呟いた気がしたんだが、小糸さんがきっぱりと否定した。


 俺の気のせいだったらしい。


「一応、こういう物が出た時は警察に届け出するものだと知っていたので、本日は伺った次第です」

「承知しました。こちらの用紙にご記入いただけますか?」

「分かりました」


 この後、俺は小糸さんの指示に従って必要な手続きをして、発見した時の状況などを説明した。


「これで手続きは完了です。持ち主が名乗り出てくる可能性もありますので、その際はまたお越しいただくかもしれません」

「分かりました」


 元々別の人が持っていた土地。その所有者が名乗り出る可能性は十分にあり得る。


 俺はすでに宝くじが当たってお金に困っていないし、モンスターも順調に狩れるので、お金に困ることもないはずだ。


 だから、無理に何かしようとは思わないし、仮に文化財認定されて所有権が都道府県に帰属するのならそれでいい。


 ただ、これだけの大発見。もしかしたら、偽って名乗り出る人もいるかもしれない。そういう人にだけは渡らないことを願うばかりだ。

  


 ◆   ◆   ◆



 関内巫光が去った後の警察署の一室。


「ねぇねぇ、見ました? 見ましたか、課長!!」


 巫光を最初に担当した職員の稲上が興奮気味に上司の小糸に話しかける。


 彼女はハピおじチャンネルの動画を見て以来、ハピおじ一家のファンになってしまった一人で、生の巫光に会えたことを大いに喜んでいた。


「知ってるよ。動画見てるからね」

「それにしてはテンション低いですね。生ハピおじですよ。生ハピおじ!! なんか芸能人に会うよりも嬉しいですよ」


 小糸も確かに時の人に会えたことは嬉しいが、彼女ほどではない。


 ただ、稲上が興奮気味に自分を呼びに来た時は本当に驚いた。まさかあのハピおじが警察署に来るとは思っていなかったからだ。


 一生会うことはないだろう、そう思っていた。


「はぁ……そんなもんかね。それより、私情を持ち出し過ぎだよ。おかしなことを呟いた時は肝を冷やしたよ」

「あははは……それは、すみません」


 小糸は真面目な話の途中でふざけたことを呟いた稲上を叱る。そのことは稲上も分かってて困ったように笑ってから頭を下げた。


「それより、流石だと思いませんか?」

「そうだね。これだけの小判だ。おそらく徳川の埋蔵金とか、そういう類の物の可能性がある。価値が認められれば、歴史的な大発見となるだろうね」


 二人は目の前にある複数の千両箱を見つめながら呟いた。


「まさか、今までずっとあるあると言われていたにもかかわらず、誰も見つけられなかった埋蔵金をこうもあっさり見つけてしまうなんて、本当にハピおじは幸運は凄いですね」

「そうだね。それよりも分かっていると思うけど……」


 嬉しそうに語る稲上に含んだ言い方で視線を送る小糸。


「はいはい。分かっていますよ。勿論誰かに吹聴したり、掲示板に書いたりしませんよ」

「分かっているのならいい」


 流石に稲上もその程度のことはわきまえていた。ただ、そのはしゃぎように小糸は上司としてひとこと釘を刺さざるを得なかった。


 何も言わなかったら、もしかしたら、どこかで言っていた可能性も否定できない。


「あぁ~、生ハピおじに会えたって皆に自慢したかったなぁ」


 彼女はソファーに背中を預けてぼやく。


 稲上の呟きは空気に溶けて消えた。

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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