第034話 おじさんを害することはできない
すでに一般的な店は開店し始める時間。
「何を買うの?」
「うーん、家具とかかなぁ」
亜理紗の質問に曖昧に答える。
子育ての経験があるわけじゃないので何が必要なのかさっぱり分からない。
とりあえず、一緒に寝ることになるので使うかは定かではないが、念のため召喚獣&獣魔の部屋に子供用の寝具や家具は必要かと思う。
それ以外だと、専用の食器や日用品、おもちゃとかを買ってやりたい。
「あれってもしかして……」
「ホントだ。リサが居るし、あのおじさんの顔も間違いない」
「マジでシャイニングミーを連れてる」
「あの幼女たち耳と尻尾生えてる。可愛い!!」
ただ、なんだかさっきから周囲から視線が集まっている気がする。
「騒がしいけど、祭りでもあるのか?」
「そりゃあ、おじさんがいるからね。動画沢山の人に見られてるから皆おじさんのことを知っていると思うよ」
「はははっ。亜理紗がそんな冗談を言うなんてな」
亜理紗から意味不明な返事が返ってきたので思わず笑ってしまった。
プレイヤーになったばかりのおじさんの動画なんてそんなに沢山見られているはずがないだろうに。
「冗談じゃないんだけど……」
「気を遣わなくていい。皆が騒いでいる理由が分かった。マヒルとヨルが人気なんだな。これだけ可愛いなら仕方ない」
「きゅう」
「きゅん」
何かを言おうとする亜理紗を制して、手をつないでいるマヒルたちを見下ろした。彼女たちは俺が見ているのに気づいて、見上げてニパーっと笑う。
それだけで心が洗われるような気持ちになる。こんなに可愛い子たちが動画に映っていたら人気が出て当然だ。いや、人気が出ない方がおかしいな。
「いや、それもそうなんだけどね?」
「気にするなって。中年が映っててもしょうがないんだから。それよりもこんな風に騒がしくなってしまうと買い物ができなくなってしまうな」
亜理紗の話よりも周りの行動に俺は顔をしかめた。
――パシャパシャッ
周りでスマホのカメラのシャッター音が聞こえ始めたからだ。
これには俺も嫌悪感を隠せない。可愛くて写真を撮りたくなる気持ちは分かるが、まず許可を取るのが礼儀だろう。
この子たちが可愛いのは分かるけど、外に出たら毎回こんな騒ぎになるようだとおちおち買い物にもいけなくなる。
俺は羊たちが住んでいたような場所で暮らしたいという気持ちが強くなった。
「え、あれ? おかしいな?」
不愉快な気持ちになっていると、困惑の声が聞こえてきた。見てみると、手に持っていたスマホらしきものを一生懸命操作している。
「え!? スマホの画面がいきなり真っ暗なったんだけど!?」
「電源が入らなくなった? 昨日買い替えたばっかりなのに、そんなバカな!?」
そして、次々と同じように叫び声が上がった。その声の主を確認する限り、皆スマホを構えていた人たちのようだ。
よく分からないが、多くの人たちが慌ててこの場から離脱していった。そのおかげで道が開ける。
この子たちを勝手に撮ったバチでも当たったのかもしれないな。
「今のうちに店を回ろう」
「そうだね」
俺たちはショッピングモールを歩き始めた。
「こういう家具いいんじゃない?」
「どうだ?」
「きゅんっ」
「きゅう」
亜理紗が二人が欲しがりそうな物を紹介してくれたおかげですんなりと買い物が済んだ。
これで必要な物は大体揃ったか?
「あっ。肝心な物を忘れていた。食料を買わないと」
数日家でのんびりしていたからそろそろ食材の買い足しが必要だ。
「久しぶりにおじさんの料理が食べたいな」
「そういえば、美味しそうに食ってくれてたな」
思い出して呟くと、亜理紗が期待するような眼を向ける。
兄貴の家で留守番をした時に食べさせてから、家に行くたびに料理をせがまれたのを思い出した。
小さな亜理紗が頬にご飯粒を付けながら口の中一杯に料理を頬張っている姿はとても可愛かったな。
「うん、おじさんの料理美味しいから好きぃ」
「はははっ。そんなに大層な物じゃないけど、喜んでくれるなら作るか」
ニッコリと笑う亜理紗の顔を見ると、なんだか嬉しい気持ちになる。
一肌脱ぐのも悪くない。
俺は料理を作って振る舞うことにした。
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