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第4話:第1騎士団団長クリス・コールマン

 次の交代の時間まで休憩するように言われたゆう子。


 あたりはすっかり暗くなっていた。


 ゆう子は騎士団屋舎の外に出て、大きく息を吸いながらグ〜ッと背伸びをした。暑くも寒くもない、心地いい乾いた風が王宮の丘に流れ込んでくる。月の光をたよりに、どこか座れる場所をさがす。ちょうどいい石階段があったので、そこでひと休みした。


「星がきれい・・・」


 思わず声に出た。瞬く数々の星は、光の粒が落ちてくるようで、地上の端から端までひろがっている。


(すご〜い・・・)


 ぼ〜っと、しばらくの間、星空を見上げていると、急に、なにかに視界をさえぎられ、目の前がまっ暗になった。


「うちの最強騎士を片手で倒したというのは、君か?」


 うしろから顔をのぞき込まれ、至近距離で話しかけられた。


「うわーっ!」


 飛び上がって叫んでしまったゆう子。


(まったく気配を感じなかった・・・!)


「少し君と話したい。いいかい?」


 魂が吸い込まれそうな美しい声―――。


「え? あっ、はい」


 心臓をバクバクさせながら答えた。


(だれだろう・・・。でも、このシルエット、どこかでみたような気がする)


 まっすぐ鎖骨まで伸びたつやのある髪。ローレンスより背が高い。月明かりの下で、左胸のバッジがキラッと光る。


 ゆう子は、腰かけるよう言われた。その男も隣に座り、ゆう子の顔をのぞきこむようにして話しはじめる。


(きれいな瞳・・・。これまた暗闇でもわかっちゃうほどのイケメン。てか、そんな近くで見つめないで〜っ!)


「わたしは、第1騎士団団長のクリス・コールマンというものだ。君に、お礼を言いたい」


 ゆう子は、彼の微笑みで、全身が溶けてしまいそうになる。


「あ、エイミーと申します。わ、わたしに、お礼ですか?」


(第1騎士団団長・・・あ、思い出した! 立花さんの任命式のとき、列席してた人だ)


「ローレンスのこと、気がついてくれてありがとう。あいつは絶対に、自分の怪我のことをわたしに言わなくてね」


 コールマン団長は、ゆう子の目を見つめたまま言った。


(あばらのこと・・・)


 ゆう子の心臓の鼓動がおさまってきた。そして、今度は頭を追いつかせようとする。


「い、いえ、できることをしたまでです」


 ゆう子は、肩に力が入りながら答えた。


「いつも、なにもないように振るまってるから、あとになって知ることが多いんだ。でも、どうしてわかったんだい?」


 コールマン団長の顔がどんどん近づいてくる。


「あ、彼、少し冷や汗が出ていたんです。左の脇腹をかばうような仕草もしていたし、少し触っただけで激痛だったようなので、折れてるんじゃないかって」


 ゆう子は、あごを引いて、のけぞりながら答えた。


「そうか、君は観察力と知識があるのだな」


 コールマン団長がじっとゆう子を見つめ、やさしい笑顔で感謝を伝えてくる。このはずかしい状況から逃げだしたいゆう子。


「そうですかね、ハハハ」


 ゆう子は、引きつった笑顔で返すのがやっとだった。


 コールマン団長は、ふうっと息を吐いて、今度は降り注ぐ星空を見上げた。


「あいつは、もともと、わたしの第1騎士団にいたんだ。入団してきたころは目立たなかったが、訓練と実践を重ねるうちに一目置かれる存在になった。わたしも、何度も命を救われた」


(へぇ〜、やるわね、立花のり子)


「そんなローレンスを、第2騎士団団長に推せんしたのはわたしなんだ」




 1ヶ月前―――。


「うわーっ!」


 叫び声と共に、ひとりの兵がいきおいよく尻もちをついた。


 騎士団屋舎の外の稽古場で、第1騎士団兵80人が汗を流している。あごに木刀の先端が向けられて、身動きが取れなくなった兵。その視線の先には、紺色の兵団服を着たローレンスが仁王立ちしていた。


「ローレンス、おまえもう少し手加減しろよ!」


 その兵は、先輩騎士にも関わらず、実力の差がありすぎる相手と稽古をする理不尽さで開きなおっていた。


「ユトさん、それは、一番むずかしいです」


 ローレンスは、表情を変えず、ユトの腕を引っぱってからだを起こす。


「ったく、冗談だよ。おまえが味方でよかった。敵だと思うとゾッとするぜっ!」


 ユトは起き上がるやいなやローレンスの頭に腕をまわし、髪の毛をぐしゃぐしゃにしながら言った。


「おーい、ローレンス!」


 騎士団屋舎の3階からコールマン団長の声が聞こえ、ローレンスはユトの腕の中から見上げた。


「稽古が終わったら、わたしの部屋に来てくれ!」


「はい、わかりました」


 ローレンスは、窓から顔を出すコールマン団長に、視線だけ送りながら言った。


「おまえ、なんかやらかしたか?」


 ユトがにやけた顔で、ここぞとばかりにからかう。


「さあ・・・」


 ローレンスは、剣を交えないときは、いつも言われるがままに身を任せていた。




「失礼します、コールマン団長」


 ローレンスは、彼の部屋の扉をノックして入った。


 コールマン団長は、事務作業をする机の椅子に座り、背もたれにもたれながらローレンスを迎えた。


「稽古はどうだった?」


 リラックスした声で、正面で直立しているローレンスに聞く。


「はい、いつもどおりです。問題ありません」


 ローレンスは、微動だにせず答えた。


「そうか。調子がいい・・・とかではないんだな?」


 コールマン団長は、微笑しながら言った。


「調子のいい状態にしておくのがあたりまえなので」


 ローレンスは、表情を変えず、大まじめに答える。


「そうか」


 吹き出しそうになるのをこらえながら言った。そして、ふうっと息を吐いて本題に入る。



「実は、明日の陛下との会議で、おまえを第2騎士団団長に推せんしようと思う」



 コールマン団長は、目を細め、口角を上げながら言った。


「へ? おれを・・・いや、わたしをですか?」


 さすがのローレンスも目を丸くした。


「はっはっはっ。ふたりきりのときは、昔みたいに楽にしていいと言ったろ?」


 コールマン団長は、糸が切れたように、左手をおでこに当てて吹き出した。


「おれは、平民の出身ですよ。団長って貴族だけがなれるんじゃ・・・?」


 ローレンスは、冷静に、頭を整理するように言った。


「近隣諸国で一番強いおまえを、陛下は放っておかないさ。やりたいか?」


 結論を求めるコールマン団長の言葉に、地中のマグマが活発になるような興奮を覚える。


「やりますよ。おれは、クリスさんの言うことは、なんだってやりたい」


「ふっ、変わらないな。ただ、これだけは知っておいてほしい」


 コールマン団長は、ピンと氷が張った湖面のように空気を締める。


「第2騎士団は、前線を任されることが多い。死傷者が他の騎士団より多くなるのもその理由だ。それでもいいのか?」


「問題ありません」


 ローレンスは、姿勢を正し、落ち着いた声で返した。




 月明かりの下―――。


 ゆう子は、コールマン団長の行動が腑に落ちなかった。


「なぜ、そんな危険な役職だとわかっていて、彼を推せんしたのですか?」


 つい、言葉に刃を添え、低い声で言ってしまった。


「ふっ、なにが言いたい?」


 コールマン団長は、向けられた刃の正面に立ち、微笑して言った。


「お話を聞いている限りでは、彼をあまり出世させたくないとお見受けしましたが」


 ゆう子は、ストレートに振り下ろす。


「そうかもしれないね。やはり君は観察力がある」


 コールマン団長は、ニコッと笑顔を見せた。振り下ろした刃はスッとよけられた。


 ゆう子は、いまにも手を出したいほどカッとなった。コールマン団長の本音をおおい隠す氷の微笑が、血が煮えたぎるほどいやだった。そして、胸の穴に冷たい風が吹き抜ける。


(本当は、ローレンスをずっとそばに置いておきたいはずなのに)


 ゆう子はそのぐちゃぐちゃした感情をおさえきれず勝手に言葉が出てしまう。


「なぜそこまでして国のためなんかに―――」


 コールマン団長は、スッとゆう子の口を手でふさいだ。


「それ以上は言わない方がいい。わたしは君を拘束しなければならなくなる」


 コールマン団長の緊張が伝わった。パチっとスイッチを切り替えたように、鋭い眼光を向けられてゆう子は動けなくなった。王国に命を捧げた騎士団団長の地位と権力、覚悟を肌で感じ取った瞬間だった。


 ゆう子は涙目でコールマン団長をにらみに、グッと言葉をのみ込む。


「少し、話しすぎた。すまない」


 団長は、そういって立ち上がると、振りかえることなくその場を去っていった。


 ゆう子の胸には、最初の黄色い心臓の音よりも、胸の深いところで感じる恐怖の鼓動の方があとをひいていた。




 長い夜が明ける―――。


「エイミー、よくやったね」


 ヒューバートは、兵たちが介抱されている騎士団屋舎でゆう子に声をかけた。


「はい、お父様」


 ゆう子は、スッキリしない顔をして言った。達成感を感じる一方で、容体が安定しない兵のことが心配だった。


「やれるだけのことはやったさ。あとは、王宮の救護団員に任せよう」


 ゆう子とヒューバートを含む、要請を受けて招集された人々は、行きと同じ馬車に乗り、日が昇ると共に王宮をあとにした。

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