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第10話:最強騎士

 かがり火が灯る洞窟―――。


 手足の縄をほどかれ、数時間ぶりに解放されたローレンス。


「ローレンス、おまえの剣を持ってきた。やれるか?」


 コールマン団長が、王国の紋章が入ったローレンスの剣を目の前にかざす。


「問題ありません」


 ローレンスは、手首をさすりながらゆっくり立ち上がる。コールマン団長から奪い取るように剣を手にした。馴染みのある柄を右手で握ると同時に、彼の呼吸は波ひとつない湖面のように変わる。髪の毛が逆立った。ひとまわり大きく見開いた目は異様な光を帯び、その中心に命が吸い取られるかのごとく瞳孔が収縮する。


 ゆう子の細胞に戦慄が突き抜けた。


 鞘からピカッと光る筋がローレンスの顔の前をゆっくり通過する。バーリンは、ローレンスに向かって、なりふり構わず分厚い筋肉のかたまりごと大きく斧を振り下ろした。


「・・・ったく、またそれか。振りかぶることしかできないんだな」


 そう言ったローレンスの姿が、ゆう子の視界から消えた。


 次の瞬間、バーリンのからだが宙を舞い、甲冑が花火のように砕け散る。三日月の軌道を描き天高く静止した剣は、踏み込んだ地面すれすれの体勢のローレンスからすべてのエネルギーを搾取し破壊力に変えていた。


 バーリンは、すでに地面でうつ伏せになって動かなくなっている。


「へ?」


 ゆう子は、なにが起こったのかわからなかったが、ローレンスがバーリンを倒したのは理解できた。


(よ・・・よくやったわよ、ローレンス!)


 気がつくと、からだを押さえられていた感覚がない。ローレンスがバーリンを討ちとっている間に、コールマン団長がゆう子の背中に乗っていた子分の首を跳ね飛ばしていた。ゆう子は、ドサッと落ちた首と目が合う。


(ひいぃっ・・・! コールマン団長、容赦ないわね・・・)


 縄をほどき、からだを起こしてくれる。


「大丈夫かい?」


 彼は、ゆう子とはじめて会った日の笑顔を見せて言った。


「あ、はい。ありがとうございます」

(こんな状況でも、その顔ができるんだ・・・)


 ローレンスは目にも止まらぬ速さでバーリンの子分たちに向かっていった。第1騎士団兵たちが手をこまねいているところを、一刀両断、ムダな動きひとつなく、なぎ倒していく。天から降りる1本の光の筋が、ローレンスの頭からからだの中心を通って、足元から地面の深いところまで突き抜けている。まるで、一寸先に起こることが見えているかのように、どんな攻撃も紙一重でローレンスには当たらない。


「あれが、うちの最強騎士さんだ」


 コールマン団長が、ぽんとゆう子の肩をたたいた。


「なんで・・・あんなひどい怪我をしてたのに動けるの?」


 ゆう子は、目の前で繰りひろげられる惨劇にあとずさりしてしまう。


「ときに精神は――っと、大丈夫かい?」


 ゆう子は、足元が揺らぎ、体勢が崩れてしまった。コールマン団長は、ゆう子の上半身に両手を添えて支える。そして、ゆう子の顔の近くで甘い笑顔を見せて言う。


「限界を超えた肉体を呼び起こし、苦痛、恐怖、孤独、絶望さえも超越する」


(ちがう・・・っ! そうかもしれないけど、ローレンスは、こんなことしたいなんて思ってない! それがわかってて・・・なんで!)


 ゆう子は、手を震わせながら怒りと切なさが混じった目でコールマン団長をにらむ。


「まあ、そんな目で見るな。もう少し、ここでじっとしておいてくれ」


 コールマン団長は、いっしょに侵入した第1騎士兵たちに指示を出しに行った。



「団長、あいつ、やっぱバケモンすね」


 ローレンスの戦いぶりを見ていたユトは、胸のどよめきをごまかし、自分をなぐさめるように言った。


「ふっ、おまえも訓練次第だが、やってみるか?」


 コールマン団長は、笑みを浮かべていたずらに返す。


「いっ・・・いえ、わたしはもう少し人間でいたいと思います!」


 ユトは、背筋を伸ばして即答した。


「ここはローレンスに任せて、おまえらは残党の捕獲にあたってくれ。深追いはするな。死傷者の数も把握したい。ロイドに伝達を。日没までにここを出る」


 コールマン団長は、歯切れよく指示を出した。


「はい!」


 兵たちは、一斉に指示に従って散っていった。



 ローレンスが最後のひとりにとどめを刺した。しばらく血の海の真ん中で、だれも近づけさせないオーラを放つ。あたりは、荒れくるった大波がピタッと止んだ凪ような静けさに包まれた。ローレンスは、剣をゆっくり鞘におさめる。


(あれだけの数をひとりで・・・)


 糸がプツンと切れたように、ローレンスがガクッと片ひざを地面に落とした。剣に寄りかかりながら、乱れる呼吸を整えている。



「ローレンス!」


 ゆう子は、ハッとしてローレンスの元に走っていった。


「エイミー・・・」


 ローレンスは、肩で息をしながら、ニコッと笑顔を見せた。いつものローレンスだ。


「よかった! 生きてる!」


 ゆう子は、胸をなでおろし、ローレンスを思いきり抱きしめる。


「エイミー、大丈夫?」


 ローレンスも片手でゆう子の後頭部に手をまわして抱きしめた。ローレンスはゆう子にそっとほおずりをする。血と汗の匂いがした。ほおにあたる彼の吐息が、ゆう子をこれ以上になく安心させる。


「オッホン。おとり込み中すまないが、出口はこっちだ」


 コールマン団長がいたことをすっかり忘れていた。ゆう子の顔が赤くなる。


「さっさと帰るぞ」


 コールマン団長は、出口に向かって歩きはじめた。


「立てる?」


 ゆう子は、ローレンスに手をかそうとした。


「問題ない」


 ローレンスは自力で立ち上がった。足元がゆらぐ。


「いやいや、問題あるから」


 ゆう子はとっさにローレンスのからだを支えた。



 ドーン―――。



 耳のこまくが破裂するような音が、内臓に振動を与えながら洞窟内を駆け抜けた。


 ゆう子の意識は、この瞬間に斜め上からの映像に切り替わる。


「銃声だと⁉︎」


 コールマン団長が、瞬時に身を低くして、音が聞こえたほうに注意を向ける。


 ローレンスに寄りかかりながら、ひざから崩れおちるエイミー。大量の血がべっとり、ローレンスの茶色のブーツを赤黒く染める。


 コールマン団長は、数メートル先のバーリンの銃口が、ローレンスに向けられていることに気づく。ローレンスは、倒れ込んだエイミーを見て固まっていた。


「ローレンス、なにをしている! 伏せろっ!」


 コールマン団長が叫んだ瞬間、もう1発の銃弾が発射された。


 血が飛び散り、地面に転がるローレンス。


「へっ・・・」


 バーリンは、腹ばいになったまま、悪魔のように口元を裂いて笑っていた。銃を持つ毛深い手が細かく震えている。さらに次の銃撃を試み、起き上がろうとするローレンスを狙う。


「この・・・っ! 死に損ないが!」


 そう叫んだコールマン団長は、こげた匂いを両断するかのように、銃を持ったバーリンの腕を切り落とし、背中にとどめを刺した。バーリンの猛獣のような断末魔が洞窟内に響きわたる。


「ローレンス! エイミー!」


 コールマン団長が素早く剣を鞘に戻し、ふたりの元に駆け寄る。エイミーの背中からおびただしい出血があった。仰向けにし、首にそっと手をそえる。コールマン団長は目をつぶり、グッと奥歯を噛み締めた。


(うそ・・・。こんなことって・・・)


 ゆう子の胸が張り裂ける。


 ローレンスは、だれのものかわからなくなった血の海の中を、手足がもげた昆虫のようにもだえる。


「エイ・・・ミー・・・!」


 ピクリともしないエイミーに手をのばすが届かない。声がうまく出せない。からだが言うことを聞かない上に、目がかすんできた。


「動くな。左の太ももを撃ち抜かれている。出血がひどい」


 コールマン団長が静かに話しかける。ローレンスのシャツを切り裂き、傷口に巻いて力の限り締めつけた。


「ぐうっ・・・!」


 まともに息ができない。まるでそこに心臓があるかのように、ズキンズキンと、怒濤の痛みが全身を襲う。


「すまない、我慢してくれ。おまえを運ぶ」


 コールマン団長は、胸をかきむしってもがくローレンスを担いで起こす。


「だっ・・・団長・・・待ってください。エイミーにも止血を・・・」


 ローレンスは、痛みに狂いながら、声を振りしぼる。


「しゃべるな。傷にさわる」


 コールマン団長は、ローレンスのからだを半分引きずりながら、洞窟の出口の方に歩きはじめた。


「エイミーを・・・、エイミーを助けないと・・・!」


 かすれる声。ローレンスは、コールマン団長の腕の中で、蜘蛛の巣に絡まったばかりの蛾のようにもだえ抵抗する。


「おとなしくしろ。おまえの救出が先だ」


 コールマン団長は足を止めない。ローレンスは、必死にあがいて、とうとう団長の腕を振りほどいた。地面にビシャッと倒れ込み、使いものにならない左半身を引きずりながらエイミーの元に向かう。


「コールマン団長! いまの音は⁉︎」


 洞窟の出口のほうから、ホセの緊張した声が響いた。


「大丈夫だ。撃たれたローレンスを運ぶ。手を貸してくれ」


 コールマン団長は、姿の見えないホセに言った。


「はっ、はい! いますぐ担架を持ってきます!」


 ホセは、コールマン団長の声が聞こえるなり、全力で走っていった。


 コールマン団長は、まっすぐ天を仰ぐ―――。



 絶望へ引きずり込んでくるような洞窟の闇がすぐそこに迫る。胸の灯火がいまにも消滅していくところで、冷んやりした微々たる風を感じた。その瞬間、コールマン団長の目に閃光が走った。そして、はいつくばってもがくローレンスの元に、つかつかと歩いていく。そして、ローレンスの髪の毛をつかみ、上半身をひねり起こした。そして、いきおいよく彼の背中を壁に押しつけ、首根っこをつかんで動きを止める。


「クッ・・・クリスさん、なにを・・・っ!」


 ローレンスは、未知の恐怖を感じてすくんだ。


「いいか、よく聞け」


 コールマン団長は、目を見開いて、低い声で言った。


「エイミーはもう助からない! すでに息をしていない!」


 いつも氷のように冷静なコールマン団長が、烈火のごとく詰め寄る。


 はじめて目にするコールマン団長の怒号。雷に打たれたかのようなショックがローレンスの全身を貫く。


「コルネイユ王国・第2騎士団団長ローレンス・エドワード。おまえの果たすべき務めはなんだ」


 コールマン団長の、氷河に険しく切り立つ氷のような視線が突き刺さる。


「・・・っ! 陛下と、この国のために戦うことです・・・」


 ローレンスは消え入りそうな声で答えた。


 ツーッと、なにかが青白いほおをつたう。それは、ローレンスの首をおさえるコールマン団長の冷たい鉄の手首に、汗のようにしたたり落ちた。


 もう、エイミーがぼやけてよく見えない。


「そうやって、命をかけて戦って・・・っ! おまえは陛下や国は守れても、心に想う人ひとり守れないんだ!」



 心がえぐられて、胸がはり裂ける―――。



 ローレンスの乱れていた息は、はげしい嗚咽に変わっていた。


「その涙はなんだ? 悔しいのか? いや、むなしいんだろ? ああそうか・・・、それすらもわからないか」


 そして、コールマン団長は、にが虫を噛み潰したような顔で続ける。


「確かにおまえは、この国の最強騎士かもしれないが・・・、魂まで捧げてしまったら、本当に大切にしたいものは守れないんだよ!」



 ローレンスのからだに稲妻が駆け抜ける―――。



 そして、コールマン団長は硬い氷に刻み込むように、はっきり言った。



「わたしは、おまえを絶対に死なせない」



 ローレンスは、いまにも霧の向こうに消えていくようにおとなしくなった。



 コールマン団長は、担架を持って駆けつけたホセにローレンスをあずけた。


「エドワード団長、少し痛むかもしれませんが動かします」


 ホセともうひとりの兵が、なんの反応もないローレンスをゆっくり担架に乗せる。



「コールマン団長、こちら、死傷者の数です。あと、ロイド団長が、外はあらかた、片づいているとのことです」


 ユトが、コールマン団長にメモを渡して言った。ローレンスの姿を横目に、奥歯を噛み締めながら、自分の仕事に集中する。


「わかった。動ける第1は、この場に残ってあと始末だ。第3は、負傷者を連れて、ただちに王宮へ引きあげよ」


 コールマン団長は、速やかに指示を出す。


「はい」


 そう言って、ユトは洞窟の出口の方へ走っていった。


「ホセ、わたしはここに残る。ローレンスを頼んだ」


 コールマン団長は、静かにエイミーのいる方へ戻っていった。


「はい」


 ホセは、まっすぐコールマン団長の背中を見て返事をした。


「モリス・・・卿・・・です」


 蛍の光がいまにも消えていくような、弱々しい声が聞こえた。


「コールマン団長! 来てください、エドワード団長が・・・!」


 ホセがコールマン団長を呼び戻す。


「あの日の奇襲は・・・こいつらの仕業です。モリス卿が・・・関わっていました」


 ローレンスは、すべての力が底をついたように静かに言った。


「わかった。もう、しゃべらなくていい」


 コールマン団長は、振り返らずに言った。


 ローレンスの震える握りこぶし。奥歯を強く噛み締める口元。顔の半分しか隠せていない腕の隙間から、はっきりと光るものが見えた。ホセには、この国の最強騎士と言われた男の姿が、なんら自分と変わりないひとりの人間に映った。


 ゆう子の涙が、激しく打ち寄せる波のように止まらない。いまにも張り裂けて壊れそうな胸は、ゆう子のからだを締め上げ、精神を絶望の淵に突き落とす。


「ローレンス・・・」


 届かない声だとわかっていて、ローレンスの名を呼んだ。


 ゆう子の意識は遠ざかっていく。




 ドツドツドツと、静まり返った夜の草原に、馬の足音だけが響く―――。




「今夜も、星がきれいだな」


 コールマン団長は、王宮に戻る途中、馬に水を飲ませながら夜空を見上げた。輝く星々は、生き残ってしまったものに力を与えるかのように降り注ぐ。


「みんな、もう少しだ。王宮は、すぐそこだぞ」


 コールマン団長は、いっしょに残った兵に声をかけた。


「はい、団長」


 兵たちは静かに返事をする。




 騎士団屋舎―――。


 ロイド団長が正面入り口の階段に座っている。ウェーブのかかった赤髪を横に流し、長いまつ毛の下でキラリと光るセクシーな灰色の目がコールマン団長をとらえた。


「ロイド、遅くなった」


 コールマン団長は、馬をユトにあずけて屋舎の中に入る。


「みんなの様子はどうだ?」


 コールマン団長は、明かりが灯る通路を歩きながら聞いた。


「負傷したものは、みんな手当を受けた。問題ない」


 ロイド団長は、コールマン団長と肩を並べて歩きながら答えた。同じような身長だが、骨組みのしっかりしたからだは、鎧をまとったコールマン団長よりひとまわり大きく見える。


「ローレンスは?」


 コールマン団長は、前を向いたまま言った。


「命に別状はない。さっき、やっと落ち着いて眠ったみたいだ。ホセがそばにいる」


「そうか」


 コールマン団長は、表情を変えずに言った。


 足元のタイルから波勢するブーツの音と、その空間を小さく刻む深海の鉄の音だけが、しばらく通路に響く。


「クリス」


 ロイド団長が意を決したように立ち止まった。


 コールマン団長も立ち止まって、ロイド団長の顔を見た。


「ヒューバート先生を、わたしの部屋で待たせている」


 ロイド団長は、コールマン団長の目をまっすぐ見て、静かに言った。


「わかった。エイミーを講堂の奥の部屋に運ぶように言ってあるから、来てもらってくれ。わたしもすぐに行く」


 そう言って、コールマン団長は表情を変えず、自分の部屋に向かう階段をのぼりはじめた。


「おい、クリス」


 ロイド団長が、赤い外套の下で紫光る鎧を見上げて呼び止める。


 コールマン団長は、足を止めて、肩越しに、やわらかく光る灰色の目を見下ろした。


「大丈夫か?」


 ロイド団長は、幼馴染の顔でコールマン団長に言った。


「ふっ。だから、だれに向かって言ってるんだ?」


 コールマン団長は、薄い微笑を浮かべ、その場を去った。


「ばーか、おまえだよ」


 そう言って、ロイド団長は自分の部屋に向かった。




 騎士団屋舎1階―――。


 ヒューバートは、ロイド団長に連れられ、エイミーが運ばれた部屋に通される。窓のないエイミーしかいない部屋は、ろうそくの灯りで、あたたかいオレンジ色に包まれていた。


「エイミー・・・」


 ヒューバートが床に置かれたエイミーに向かって言った。ヒューバートは、ひざを折り、そおっと、やさしくエイミーのほおに手を当てる。ヒューバートの大きく空いた胸の穴に冷たい風が吹きつける。ロイド団長は、部屋の隅でじっとしていた。


 コツコツと、部屋に近づいてくる足音がした。


「ヒューバート先生、コールマンが来ました」


 ロイド団長は、静かにヒューバートに伝える。コールマン団長に部屋の外で待つことを伝え部屋をあとにした。



 鎧を脱いで白いボタンのついたシャツの姿で入ってきたコールマン団長は、エイミーの最期をヒューバートに伝えた。ヒューバートは、エイミーをやさしく見つめながら、ゆっくりうなずく。ろうそくの明かりは、ほおを伝って流れる光るものをとらえた。


「ヒューバート先生」


 コールマン団長は、あらたまってヒューバートの名を呼んだ。ヒューバートは、コールマン団長の方に顔を上げる。


「申しわけありませんでした」


 そう言って、コールマン団長は、ヒューバートに深々と頭を下げた。ヒューバートは立ち上がる。


「コールマン団長、頭を上げてください」


 ヒューバートは、正面にからだを向けて言った。


 コールマン団長は、頭を下げたまま動かない。


「わたしの力不足でした」


 鎖で縛られた手足。決めたはずの覚悟にのみ込まれ、血に染まったゆがんだ羽をばたばたさせる。


 ヒューバートは、コールマン団長をじっと見つめた。


 部屋の外にいたロイド団長は、壁にもたれながら腕を組み、静かに目を閉じていた。



 ただ、ただ、聞くつもりのない会話が耳を通過する―――。



「コールマン団長、ではそのままで聞いてください」


 ヒューバートは、コールマン団長を見下ろして続ける。


「エドワード騎士様を、エイミーに会わせてくれてありがとう。あなたがすべてを背負う必要はない。いや、背負えない。なぜなら、わたしの中で生き続けるエイミーとの幸せは、だれにも奪えないのだから。これまでも、これからも」


 そして、ヒューバートは一呼吸おいて、ひとまわりもふたまわりも若いコールマン団長に光の矢を放つ。


「たとえ、それが『氷の悪魔』と呼ばれる第1騎士団団長のあなたでもね」


 決して揺るがない、まっすぐした強い芯がヒューバートの真ん中を貫く。


 コールマン団長が目を大きく見開いた。沈んでいく身に手を伸ばし、手足に絡みついた鎖を自ら解き放った。羽にまとわりついていた血が沈殿したような鉛は、一斉にして金色に輝き、全身の細胞を一層高いところに持っていく。そして、コールマン団長は頭を上げた。


「ヒューバート先生、もう少し、ここでゆっくりしてもらって構いません。わたしは、これで失礼いたします」


 そう言って、コールマン団長は部屋をあとにした。


 ロイド団長は、目を閉じたまま、なにも言わなかった。すれちがいざまに彼のひとまわり大きくひろがった羽を見ただけで十分だった。

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