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実況02 全く最近の若い奴らは。ターン制バトルについて教えてやろう。(解説:KAI)

 おれも落ちぶれた。

 本当にそう思う。

 わけわからんゲームでヤンチャしてたような奴ら。

 現状のおれが入れるパーティは、この程度のレベルが関の山だ。

 このゲームは、そして、この国は、一度レールから外れた奴には慈悲がない。

 それも、目に見えて苛烈な仕打ちではないのが、ある意味で厄介なものだ。

 ともあれ。

 話をする前に、前提として知ってもらう事がある。

 このゲーム、HEAVEN&EDENの戦闘システムについてだ。

 

 このゲームは、VRMMOでは珍しい“ターン制バトル”を採用している。

 いや、歴史を紐解くと、RPGとはターン制バトルから始まったと言える。

 ウィザードリィだとか、ドラゴンクエストだとかの古典タイトルは誰しも耳にした事があるだろう。

 敵味方の両陣営が一度ずつ行動し、全員がそれを終えたら“1ターン”とされる。

 行動順は、“素早さ”だとか“アジリティ”と言ったステータスで決められる。

 プレイヤーが、そのターンにおける自分の(キャラクター)全てにコマンド選択で命令するまで時間は進まない。

 ある意味で将棋やチェスに近いとも言えるか。

 ゲームの映像技術が発展し、システムの多様化が進み、媒体がテレビからVR空間へと進化して。

 いつしか、現実と寸分違わない世界で行われるRPGとは、リアルタイムで戦うアクションゲームが主流となっていた。

 商売の新規開拓として“主流”との差別化をはかるというのは、歴史上よくあるパターンだ。

 より、戦略的な戦闘システムとは何か?

 現代のヒトとAIも考えに考え抜いた挙げ句にたどり着いた一つの結論。

 それが、ターン制バトルへの先祖返りだった。

 

 では、現実と同じリアルタイムで生活するVRMMOで、どうやってそのターン制バトルが成立しているのか、と言う事だ。

 結論から言えば、人やエネミー自体はリアルタイムで行動している。

 それぞれが思い思いのタイミングで剣を振るい、パンチを繰り出し、盾で受け止める。

 お行儀よく、交代交代で動く、なんて事は断じてあり得ない。

 だが。

 現実の条理から外れた、魔法や必殺技についてはこの限りではない。

 具体的には、パーティ単位でそれらを発動する為の“ポイント”が共有されている。

 大抵、他のゲームでは魔法を放つためのMPだとか、銃の弾数は、個人個人の持ち物だろう。

 しかしこのゲームでは、技のコストが仲間全体で同一のリソースとされているのだ。

 ちなみに残量は★マークのグラフィックで表示されているので、口頭で呼ぶ時はそのまんま“★”だとか“星”と言われている。

 基本的に、1ターンに与えられる★は10ポイントぽっちだ。

 この★を使い切った時が“1ターンの経過”とされるのだ。

 実例を挙げてみよう。

 とある老勇者と、その部下である小娘の二人パーティがあったとする。

 そのターンでは10ポイントのコストが与えられる。

 ★★★★★★★★★★

 頭のパーな小娘が、空気を読まずに、し、しそ……?

 まあとにかく、カーネイジ・シュテルンなる大魔法をいきなりぶっぱなしたとしよう。

 この魔法のコストは★9だ。

 ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 老勇者の攻撃。

 彼の持ち技には色々ある。

 ★1の“スライディング”と言う小技から、★3の“燕返し”から、★9の“断罪黒怨剣”なる秘奥技まで。

 だが、先に小娘が野放図に★9を使ってしまったせいで、このターンの老勇者は、スライディングと言うセコい小技しか使う余地が無くなるのだ。

 そして、老勇者が泣く泣く妥協して繰り出したスライディングによって、そのターンの★は使い果たされる。

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 すると10秒のクールタイムを経て、★が補充される。

 これが1ターンの経過だ。

 死んだおれの親父が古物商だった。

 プレイステーション6だの7だのと言うレトロゲームだとか、更に原始的な遊戯(ゲーム)だった、トレーディングカードゲームだとかも扱っていた。

 おれも、それで遊ばせてもらった事がある。

 その観点から、HEAVEN&EDENの戦闘システムは、レトロゲームのサガ・スカーレットグレイスだとか、更に遡って、あれやこれやのトレーディングカードゲームにおける“マナコスト”の概念に近いと思う。

 繰り返すが、技を放つ為のコストはパーティ単位でシェアされている。

 なおかつ、★10与えられたなら、10使いきるまで補充がされない。つまり、そのパーティにとっての次のターンに移れない。

 赤の他人同士で組んだ徒党が、口頭でやり取りする暇もない戦闘状態の中、共有財産の運用を秒単位で忖度し合わないといけない。

 

 また、目立たないようで致命的な、タチの悪い要素がある。

 基本的に1ターンで与えられる★が10であるのに対して、“★の消費が最大で9どまり”である事だ。

 大した事の無いように聞こえるだろう?

 だが、よく考えてみてくれ。

 仮に★10を消費する技があったなら、それはかなりの大技だろう。

 なおかつ、そいつを一発放てば1ターンは終わる。

 つまり、クールタイムの10秒後には、また、カーネイジ・シュテルンのような技がぶっぱなせるわけだ。

 だが、どんな大技を放っても★が1つ残ってしまうと、どうなるか?

 そのコストを共有する、他のパーティメンバーが、何かしらの小技で消費しないと、次のターンに移れない。

 言い換えれば、誰も一切のスキルが使えない。

 つまり、どうやっても、赤の他人であるパーティメンバーの行動がなければ、★が補充されないことを意味する。

 つまり、毎ターン必ず、残った★を空消費する判断が必要となる。

 この“パーティ内の誰かの判断に依存せねばならない”僅かな時間差は、戦闘中には大きな障害となる。

 このゲームでの連携が重要視される所以だ。

 

 全く。

 解説のためとは言え、あのイキった小娘(ルナ)の事を思い返すと、苛立ちがぶり返してきたではないか。

 本当に、おれも落ちぶれたものだ。 

 これだから、最近の若いもんは……。 

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