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悠久の魔女は心臓を喰らう。  作者: あきゅう
7/7

7 傀儡


それから、ヘイゼルの修行のような日々は始まった。

魔法は主にティールから、時折ソウカやエルティナの力を借りながら着々と扱えるようになっていった。

ティールも驚いていたが、彼女は有している魔力量がかなり規格外らしい。

そもそも魔法を使うにあたって、使用者の使用される魔力量は完全才能に左右される。つまりどれだけ練度が高くなろうと、持っている魔力の量は成長もせず変わらないのである。

魔力量は増えないが、一度の魔法に使われる魔力量を節約する事は出来る。魔力量は努力でも増やせないが、使用する魔力量を減らす事はできる、という事だ。

魔力量が多いということは、消費する魔力量が同じだった場合、相手よりもより多く魔法を使う事が出来るということ、つまり魔法を使う上で魔力量が多いということはメリットしかないのだ。


「風刃っ」


店の裏庭でヘイゼルが魔法の練習に励んでいるのを、ティールが短剣の手入れをしながら眺めていた。

ヘイゼルの手から放たれた風の刃は、何度もその攻撃を受けている的代わりの丸太を真っ二つに両断した。


「おおお、威力も上がって来てるじゃん。いいね」

「先生が良いのかな。アドバイス通りにやってるだけだし」


ヘイゼルが魔法を撃った右手をブラブラさせ、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「そこはセンスの問題かな。いくら先生が優秀でも教わる側が上手いことそれを飲み込めないと上達しない訳だし」


ティールは立ち上がり剣の手入れ用具を腰掛けていた木の椅子に置くと、軽くストレッチをして体を解し始めた。


「んじゃ、模擬戦してみるか。俺は剣だけ使うから、ヘイゼルは色々と使ってみな」


上達してのは魔法だけでなく、武術もである。剣を握れぬティールは教えるのに不得手だと言い、ヘイゼルをヴィオラの元へ預け修行に付けてもらっていた。

ヴィオラの元に行かせたのは、そこであれば短剣以外の武器の扱いにも慣れることが出来るだろうという理由もある。槍や弓、長剣など様々な武器を相手に戦うことを想定しておけば、いざと言う時に役に立たないということは無いだろう。

ヘイゼルがヴィオラの元で気に入った武器は短槍、そして弓。短槍は通常の槍よりも短くリーチを押し付けるのには向いていないが、全身を舞うようにして動かし爆発的にそして継続的な火力を出す事が出来る。


「じゃあ、私は槍で」


先端に動物の毛皮で作った鞘を付けた短槍を手に取り、重心を下に下げ構えを取るヘイゼル。

それとは正反対に何の構えも取らず、短剣を宙にへと放るティール。軽く腕を組み、短剣へ魔力を流し自身の周りを浮遊させる。


「人間相手に使う戦術が通用するとは限らねーからな。注意しろよ」

「もちろん、重々承知してるよ」


ヘイゼルが一歩を踏み出し、場の空気に緊張が走る。ティールが牽制がてらヘイゼルに向けて放った短剣を後方へ弾き飛ばし、その隙に一気にティールとの距離を詰める。

そうなる事はティールも想定内であり、弾かれた短剣をヘイゼルの背後へと向かわせ、その背中を狙う。


「流石に甘いですよ?」


ヘイゼルはその短剣に目もくれず、石附の部分で更に弾く。


「ほんの小手調べだよ、この程度」


弾かれた短剣を自分の脇へと戻し、斬りかかって来たヘイゼルの懺悔をすんでのところで止める。

短剣と短槍で押し合いになった所を、ティールは横に抜けヘイゼルに肉弾戦を押し付ける。短槍をティールの方へ向ければ、ノーマークになった短剣が襲い来る。しかし、ティールを自由にする訳にも行かない。

ヘイゼルは左腕で短剣を受け止め、短槍をティールの方に振るう。一度避けられても攻撃を止めない、舞うように彼女に向かって連撃を放っていく。


「やるねえ、流石」


ティールもその程度でやられるような玉では無い。武器を交えて分かる、彼女の戦いの跡が。

槍先で突く度、ひらりと躱される。動いた先に攻撃を置いても、二手三手を読んでいるかのようにして軽く受け流されてしまう。

感じる、巨大な差。彼女は短剣を操っているだけで、特に何か体を動かして攻撃を仕掛けてくる訳でも無い。


「『風刃』」

「っ、と。流石に魔法まで使われちゃ厳しいかもな」


ヘイゼルが槍を脇に挟み込み、空いた左手から風魔法を放つ。威力はある程度抑えてはいるが、それでも直撃したら怪我は免れないだろう。

……到底、当たるとは思えないが。


「肉弾戦なんて久しぶりだぜ。血が滾る」


振り下ろされた槍を手刀で受け流し、力を外側へ受け流す。大きく起動をそれた槍は深々と地面を抉る。しかし、その勢いのまま槍を一回転させティールに向けて振るう。


「甘いっ」


すかさず引き戻した短剣を槍とぶつけ、勢いを相殺させる。大きく体勢の崩れたヘイゼルに向けて、懐に潜り込むようにして一気に距離を詰める。


「『散雷』っ」


ヘイゼルは咄嗟に手の中に魔力の塊を作り、それを小さな形に圧縮する。そしてティールの目の前で手を開き、魔力を一気に放出させる。


「……っ、くっ」


圧縮された魔力は散弾のように飛び散り、その攻撃をもろに喰らったティールは痛そうな顔を浮かべながらバックステップで一度大きく距離を取る。


「そんな魔法、教えてないんだけど?」

「ソウカさんから、『ティアと戦う練習するなら』って密かに……。もう少し隠し球として残して起きたかったんだけど…」

「いってぇ……。予想外過ぎて心臓に悪いわ」


あまり彼女を傷つけたくは無いのだが、こちらが手を抜けば恐らく敗北が確定する。こちらは実戦と同じように立ち回らければ、完膚なきまでに叩きのめされるだろう。


「いいねえ、人に魔法を使う時も躊躇いが無い。センスあるよ」

「吸血鬼、だから」

「っ、鋭いねえ」


人に対してであれば、相当威力を抑えて魔法を使うはずだが、今相手にしているのは吸血鬼。余程のことが無ければ大抵の傷も素早く修復してしまう高度の自然治癒能力を有している。

ヘイゼルもそんな相手だからこそ、出し惜しみせず存分に力を振るえるという訳だ。


ティールは軽く息を吐き数度その場で跳ねると、今度は姿勢を低く構え、その紅玉のような瞳がギラリと輝いた。

ヘイゼルは槍を構え、唾を飲み込んだ。

彼女の様子を見るに、多少なりとも本気を出させる事に成功したのかもしれない。ただ、本当に良かったのだろうか。先程まででもギリギリだったというのに、これ以上の力を出されたらどうなってしまうのか。


「ちょっと本気になろうかなっ!?」

「っ……!」


先までとは比べ物にならない程のスピードで、彼女の短剣が迫り来る。もちろん鞘が付けられているので攻撃を食らっても死にはしないが、この勢いのまま攻撃を当てられたらひとたまりも無いだろう。

半ば反射的に首の動きだけで短剣を躱す。短剣によって巻き上げられた空気が風となって首の傍を吹き荒れる。

は、とティールのいた方向を目をやるも既にそこに彼女の姿は無い。


「くっ」


まるで時が止まったかのようにその一瞬は長く感じられた。背後からただらぬ気配を感じ、咄嗟に振り返りながら槍の柄を突き出すと槍に重い衝撃が走り思わずそれを取り落としてしまう。

拳を握り締めたティールが目前に迫る。今から槍を拾いに行く時間は無い。

ヘイゼルは魔力の手に流し、『散雷』を放とうとする。


「俺相手に2度同じ手は通用しねーよ?」


しかし、ティールに手を掴まれその手を開かせられる。

圧縮していた魔力が解放され、力もさほど溜まっていなかったそれは空気中に四散していく。


「しまっ……」

「チェックメイト」


そして飛んできた短剣の鞘を首にあてがわれ、ヘイゼルは敗北を喫した。


「……強いなあ」

「伊達に長い間生きてないよ。でも、めちゃくちゃ良かったよ。お世辞抜きで」


ヘイゼルの首元でふよふよと浮かぶ短剣を手に取り、腰のベルトに刺すティール。そしてそのまま地面に横たわった槍を手に取り彼女に手渡した。


「俺の友達にも短槍を持っている奴はいたけど、やっぱり厄介だな。余程の至近距離でもない限り有利な距離がねぇ」

「でもティールさんの圧勝だったよ……?」

「そりゃ、お前、俺は一応根っからの戦闘狂だぞ?そう簡単に負けちゃ顔が立たんだろうが」


ティールは苦笑いを浮かべた。


「それでと俺が肉弾戦に持ち込んだのは相当久しぶりだぜ?そこら辺の奴らよりは全然強って、誇っていいよ」


でも練習はサボるなよ、と付け加えティールはヘイゼルの肩をポンと叩いた。




――





「じゃ、行ってきます」

「ん、気を付けて」


ティールに見送られ、ヘイゼルは布に包んだ槍を片手に店を出て行った。今日もヴィオラの部下たちと共に訓練に励むのだそう。


「今日は?何か仕事?」


扉を閉めると、背後から声がかけられる。眠そうに目元を擦り、寝巻き姿のまま起きてきたソウカである。


「お、おはよ。今日は特に予定も無いよ。店手伝おうか?」

「ううん、こっちは大丈夫。何も無いようなら少しゆっくりしたら?ここ最近、ヘイゼルに付き合ったりで忙しかったでしょ?」

「……そだな」


ティールは少し視線を下げ、何か考える素振りを見せた。


「じゃあ軽く墓参りでも」





ティールは花屋で拵えた花を片手に、手製の線香に火を付け静かに佇む墓の前に供えた。

街を少し外れた位置に作った小さな墓。そこには彼女が家族として暮らしていた三人が静かに眠っている。


「ご無沙汰、三人とも」


この場所からは街が一望できる。三人が生きていた時とは比べ物にならない程大きくなった街を見て、彼女らは一体何を思うのだろうか。

ティールは墓標に向けて静かに手を合わせ、目を閉じた。

()()()()でこのように故人を扱う事は無い。けれど、ティールは三人が生きた証をこの世に残そうと墓を建てたのだ。

しばらくそうしていた後彼女は瞳を開き、持って来ていた手抜くで汚れた部分を掃除していく。


「……うん、しばらく来てなかったけど綺麗だね。汚れを寄せ付けない程の覇気でもあるのかね」


ティールは自分の言った独り言にクスリと笑い、静かに腰の短剣へ手を伸ばした。


「面倒な客は寄ってくるみてーだけど」

「……気付いているとはな」


ティールが振り向くと、そこには木陰から彼女をじっと見詰めている人影があった。

その人影はそう呟きながら彼女の前に躍り出ると、その容姿を晒した。

カールのかかったブロンド色の髪に引っかかった木の葉を手で叩き落とし、()()はティールを睨み付けた。見かけは十代前半ほどの少女にしか見えないが、その口調と雰囲気からそうではない事が想像できる。


「人が墓参りしてる時くらいそっとしておいてくれよ。感傷にも浸れねえ」

「……」

「また、()()()()か?残念ながらヘイゼル……いんや、『悠久』ならここにゃいないぜ?」


ティールがニヤリと口角を持ち上げると、その少女は眉をピクリと動かし目を細めた。


「ほう……、気づいていたのか。我々の存在に」

「そりゃな、この短期間にあれだけ立て続けに来られちゃ関係性を疑うよね。……で、てめーは何なんだ? 」


少女は顔を持ち上げ、目を見開いて口を動かした。


「『傀儡』。……『傀儡』のオーステン」

「ご丁寧にどうも。……念の為聞いておくけど、俺たちの仲間っつー訳では無いんだろ?」

「無論、我は君たちの敵だ」


そう言うと、オーステンは右腕を持ち上げ人差し指をティールの方へと向けた。

刹那、一閃の光が空間を切り裂き彼女の左肩を貫いた。


「……っ!?」


反応できなかった、というより気づくことができなかった。手を動かしていたから何か仕掛けて来るのだろうと身構えていたが、それでも何をされたのか認識できなかった。


「おや、心の臓を貫こうとしたのだが。上手く避けたようだね」

「……何かしてくる予感はしてたからな。流石に棒立ちはしねえよ」


ほんの少し体を動かしていたのが幸いし、大きな怪我になる事は避けることが出来た。しかし同じ攻撃を何度もされるようなら不利なのは明らかにこちらだろう。


「やるっきゃねえって訳だ。丁度いい、最近ヘイゼルの特訓の付き合いで体がウズウズしてたんだ」


ティールは鞘から短剣を抜き、魔力を流して宙に浮かせる。彼女が短剣を手に持たないのは、昔に受けた傷によって手に入る力が不安定だから。故に握っていた短剣を取り落とす事だってあるし、戦闘中にそんな事が起きれば最悪命は無い。

現在の浮く短剣は彼女の友人が作った特別製のもの。魔力を流すと自由自在に操る事ができる。


「浮く短剣、珍しい武器を使っているのだな」

「俺の友人の特別感さ」


ティールが大地を蹴り、オーステンとの距離を一気に詰める。


「っ」


彼女が咄嗟に指先から打ち出した攻撃は、構えから発射までのディレイがほぼ無かったにも関わらずティールに躱されてしまった。


「指の向きを見れば避けるくらい訳無いさ」

「……ちっ」


オーステンは舌を打ちつつ背後に生える木の枝に猿の如く飛び移り、別の木、別の枝と瞬く間に位置を変えていく。


「猿か」


ティールはそんな彼女の移動先を目で追い、短剣を向かわせる。魔力を推進力として進むそれはオーステンが次に掴もうとしている枝を叩き折り、彼女の動きを一瞬止めることに成功する。

すかさず太腿に巻き付けているベルトから数本のダガーナイフを手に取り、投げナイフの容量で投げ付ける。

しかし彼女の指先から放たれる攻撃によりそのナイフは全て撃ち落とされ、軌道を変えられ力なく地面に落下していった。

だが追い打ちとして『風刃』を放つと、流石に行き場を無くしたのか躱しながらふわりと地面に着地する。

その隙を逃すはずも無く、ティールは己の魔力を背後に放ちその反動で体を前方に吹き飛ばし、空中で短剣を掴み切りかかる。


「浮遊する剣、思ったよりも面倒な……」


オーステンはティールの脳天目掛けて指先から攻撃を放つ。しかしそれも読まれていたようで最低限の首の動きだけで回避され、目前にまで迫った彼女は短剣を振るう。


「ちっ」


腕を盾にして攻撃を防ぎ何とか距離を取ろうと画策するも、次々と斬撃を放ち近付いてくるティールからは逃れる事は出来そうに無い。


「がっ……」

「はあ……、終わりだよ。諦めて投降しろ」


オーステンが反撃しようと指を突き出した所にティールはすかさず短剣を振るい、指先を切り飛ばす。

鮮血が舞い、彼女の顔が痛みに歪む。

喉元に短剣を押し付け、少しでも動いたら殺すという意志を突き付ける。


「ヘイゼル……いや、悠久を狙うヤツらの目的は何だ?()()()()は何故そこまでしてアイツを狙う?」


オーステンがしらばっくれようとしたのを見て、ティールは短剣を持つ手に力を込める。


「答えろ、さもないと殺す」

「……君は、そうするだろうね。人を殺す事に躊躇いを感じない」

「……」

「その墓は、君の家族か?敵は殺せても、家族は守れないんだね」

「……答えろ」

「動揺してるのかい?あの戦いぶりはどうしたんだい?君は戦いに生きがいを感じている。久しぶりに力を出した感覚はどうだい?さぞ気持ちが良いだろう?自分の中で凝り固まっていた物が溶けていくだろう?」

「……黙れ」

「血肉に塗れて生きればいい!それが君の歩む道だ!邪魔をするものは全員殺してしまえばいい!その剣で、その力で、その腕で!君にはそれをできる力があるだろう!」

「っ、首ごと吹っ飛ばすぞ……っ……!?」


短剣を押し、首の皮に刃を押し付ける。

刹那、ティールはオーステンの顔を見た。見てしまった。


「……な、んで?」

「……どうして、私に、剣を向けるの?」

「……っ、卑怯だぞ……」


目の前にいるのは、自分が剣を突きつけているのは。

ずっと昔にこの世を去っている、最愛の妹。くりりとした丸い瞳に艶のある栗色の髪の毛を後ろで二つに纏めている。

ティールの中でまるで時が止まってしまったかのようだった。呼吸もろくに出来ず、心臓の動悸が止まらない。

違う、目の前にいるのはオーステンだ。妹じゃない。

頭では分かっているのに、それを視界に入れてしまった瞬間に思考が停止した。


「……やっぱり、君のような力はあるけど過去に縛られているような人物は簡単だ。容易く利用出来る」

「っ……」


手首を握られ、ティールは短剣を取り落とす。


「君も、今日から我の駒だ」


視界いっぱいに、彼女の手が迫る。

ティールはその最中、彼女の名前が『傀儡』である事を思い出す。


(魂、だけは)

「ようこそ、こちらへ」

「……っち、俺もまだ、甘いってか」


視界が閉ざされ、意識が深い深い闇の中に堕ちていく。

疲れきった日に、布団に入ったような感覚。沼の中へ体が沈んでいく。


ヘイゼル……、悪い。迷惑かけちまうかもしれねえ……。


抗いようもなく消えていく思考で、静かにティールは呟いた。











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