『旅する小舟』――ただ、開いてみて。
『旅する小舟』
ペーター・ヴァン・デン・エンデ/著
求龍堂/発行 (2021.11出版)
◇ ◇ ◇
お久しぶりです。あっという間に八月ですね。暑いです!
私は絶賛体調不良更新中です。本調子にはなかなか戻りませんね……。
まあ、エッセイくらいはいけるか、と更新してみます。
夏になったら紹介したい本があったのですが、そちらは次回に回して、先にこちらを。素敵だったので、ぜひご紹介したくて。
今回はグラフィック・ノベルです。
いわゆる字のない絵本、とでも言いましょうか。とても好きなジャンルでございます。
この作家さんはこの本で初めて知りました。
『旅する小舟』がデビュー作だそうです。
翻訳家・岸本佐知子さんの関わっている本にとりあえず外れはないはず、という安心感で手に取りました。編集はエドワード・ゴーリーの編集で知られる田中優子さん。推薦文にショーン・タン、装幀はクラフト・エヴィング商會と来ればもう私の好きな要素が詰まっているに違いないのです。
白と黒だけで描かれる世界、満天の星の広がる夜空で魚たちの目が光る広い夜の海に頼りなく漂う折り紙の小舟――その表紙からもう引き込まれて、ページを開くのがもったいなくなるくらい。
わくわくしながら本を開きました。
物語はおそらくアメリカ沖の太平洋に浮かぶ船上で大きな紙から折られた小舟が大海原に放たれるところから始まります。
小舟は心もとなく漂いながら世界を旅していきます。
そこで出会うさまざまな不思議な姿をした生き物たち。
グロテスクで、どこかユーモラスで可愛らしい彼らがひっきりなしに語りかけてきます。
ページをめくるごとに飛び込んでくる絵から、文字は一切ないのにまるで言葉が溢れ出すようです。
南米の突端へ向かって南下、南極を経て、大西洋を北上しイギリスの北をぐるりと回り、おそらくは作者の故郷、ベルギーへと至るルート。
文明による汚染や戦い、深海の世界や、仲間との出会い。
さまざまな冒険を経て、小舟はまるでひとりの人のように成長していきます。
最後に小舟がたどり着いたのは……?
――というのが私の想像したストーリーなのですが、文字がないので見る方によって別のストーリーがあるのかもしれません。
この本に多くの言葉は不粋です。
ただ、とにかく開いて見てほしい一冊です。
うっとりと、そして息を呑んで小舟の旅を見守ってしまうに違いありません。
こういう本、大好き。
本屋さんで、図書館で、もし見かけたらぜひ、ちょっとだけでも覗いてみてください。
エドワード・ゴーリーほどの毒はないので、大人でも子どもでも大丈夫。ショーン・タン好きさんには特にお勧めです。
※ちなみにこれは蛇足情報ですが、求龍堂のホームページを覗くと、現在「私の小舟物語作文コンクール」というコンクールが開催中です。『旅する小舟』から好きな一ページを選び、800字以内で物語を作文する、という公募です。なんと岸本佐知子さんが審査員! 読んでもらえた上に、最優秀賞は受賞作と選んだページをデジタル版画にして額装してプレゼントという豪華賞品が! おおおぅ……なんと羨ましい……。
ご興味ある方はどうぞ。締め切りは8月末なので、まだ間に合いますよ!