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『きのこ文学大全』――何、そのマニアックジャンル!






『きのこ文学大全』(平凡社新書)


 飯沢耕太郎/著 

 平凡社/発行 (2008.12出版)




◇ ◇ ◇ 



 

 秋も深まってきましたので、今回はこちらの本をご紹介します。


『独学大全』(※1)がベストセラーになったので、最近『○○大全』という本がよく出版されているような気がします。しかし、こちらはそれらが流行るずっと前に出版された本です。


『きのこ文学』……、文学にそんなジャンルが? 知りませんでした。何、そのマニアックジャンル! ということで、読んでみた一冊です。


 きのこには、その色形の可愛らしさ、味の美味しさのほかに、間違うと猛毒に当たり幻覚に襲われたり、下手をすると命を落としたりもする危険性もあります。黒かったり毒々しかったり、ぬるぬるしていたりと、グロテスクな容姿のものもありますね。植物なのか動物なのか――菌類、という実はよくわからないものでもあります。不思議な妖しさとエロティックさを兼ね備えた存在です。


 その魅力に取りつかれたのが著者、飯沢耕太郎さんです。無類のきのこ好きですね。もともと日芸の写真学科卒、そこからさらに筑波大大学院研究科博士課程修了という経歴を持つ写真評論家。それがなぜ「きのこ」なのかは本書からは詳しくはわからないのですが、きのこが好きなことだけはひしひしと伝わってきます。


 この本では、あいうえお順に辞書のごとく、きのこに関する本がひたすら紹介されていきます。きのこに関する、といっても学術書ではなくタイトルにあるように主に小説や漫画など古今東西に渡る「文学作品」を扱っているのです。

 きのこが一冊まるまるテーマの物語、というのはあまりないようですが、著者のようなきのこ好きにはやはりきのこ好きを嗅ぎ取る感性が備わっているのか、たとえ一シーンであってもきのこを扱ったシーンにきのこ愛が感じられればよいようです。


 これはただきのこについて描写してあればよい、というものではないようで、著者の目から見て、きのこ愛が見られなければそれは「きのこ文学」ではないと断じています。

 例えば言わずと知れた有名作家、村上春樹の作品であっても、そこに愛がなければそれはきのこが登場しても「きのこ文学」とは認められないのです。「ま行」【村上春樹は「きのこ文学者」に非ず】に書かれています。詳しくはそちらをお読みいただきたいのですが。


 ……恐ろしいですね。そして、厳しい。


 ただなんとなく必要だから登場させたきのこと、必要もないのに愛が溢れちゃって異常に詳しい描写をされてしまうきのことは、やはり読む人が読めばわかってしまうのです。小説を書く上で、心しておきたいことでもありますね。


 きのこ、といえば『ムーミン』に出てくるニョロニョロが私は好きです。……いえ、ニョロニョロははっきり「きのこ」だとは言及されていないのですが、いかにもエノキっぽい見た目。北欧ときのこは深い関わりがあるのか、この本でも『ムーミン』は紹介されています。


 ニョロニョロって、嵐の日に丘に登って、みんなで雷にあたったりするじゃないですか(すみません、うろ覚えですけど)。子どもの頃からその見た目でなんとなくエノキの仲間かな、と思っていましたが、数年前ニュースで電気刺激できのこの生育がよくなる(※2)、というのを見て、ああ、ニョロニョロやっぱりきのこじゃん、とすごく納得したのを覚えています。


 ちなみに私はそこまできのこ愛は深くはありません。祖父が椎茸栽培もしていましたので、ほだ木からどうやってシイタケを栽培するかくらいは知っていますが、しかし、自ら栽培したりましてや「山へきのこ狩りへ!」というほど好きなわけではありません(間違えて毒きのこを採ってきてあたる、みたいなことになりそうで怖い)。小説にきのこ狩りシーンを書いてもおそらく著者にはきのこ文学認定されないことでしょう。


 きのこ、食べるのはすごく好きなんですけどね。きのこは全般好きです。肉厚のシイタケは、焼くだけで美味しいし、きのこを数種類レンジでチンしてポン酢と和えるだけでも簡単で美味しい副菜になります。映画化されて再人気となっている『きのう何食べた?』(※3)でシロさんが作っていた豆腐にあんかけなめこをかけて食べるのも、読んで以来簡単でよくやりますし、美味しい。――何が言いたいかと言えば、きのこは簡単調理でもすごく美味しい、ということ!


 ……きのこ、食べたくなってきましたね。


 結構マニアックで、途中でお腹いっぱいになるかもしれませんが、よろしければ『きのこ文学大全』、どうぞ。きのこの怪しげな魅力に取りつかれることになるかもしれませんよ。



※1 『独学大全』 読書猿/著 ダイヤモンド社/発行 (2020.9出版)


※2 『きのこ文学大全』の中でも「か行」【雷ときのこ】で紹介されていますが、世界各地で雷できのこが生じる、という伝承があるそうです。調べてみたら電気刺激による植物の栽培促進に関する研究は1960年代頃には既に行われており、1987年に発表された研究(金子周平,シイタケほだ木の電子刺激に関する研究,林業試驗場時報,33号,p.1-34,1987-03)では、実際にどんな条件下で子実体(所謂食べる部分)がどのように増えるか実験しています。結構前から実験はされていたんですね。


※3 『きのう何食べた?』13巻 (モーニングKC) よしながふみ/著 講談社/発行(2017.9出版) #97のエピソードです。なめこをぬめりをとらずにめんつゆと合わせて沸かしてあんかけ状にし、レンチンした豆腐の上にかけるだけ。すごく美味しい。



※著者、飯沢耕太郎さんの別のきのこ本 おすすめ


『世界のかわいいきのこデザイン 紙ものきのこ図案帖』

 飯沢耕太郎,北川公子/著 DU BOOKS/発行 (2016.2出版)


 可愛いきのこデザイン満載。これ見ると、ベニテングタケのビジュアルの強さは際立っており最強なんだな、とわかります。赤に水玉、最強。毒感すごいのに、デザインとして可愛い。絶対下に妖精いそうだもん。



※※あと、書き切れなかったけど、今回の本には「か行」【ケージと菌類学】で現代音楽家にしてきのこ音楽家であるジョン・ケージも当然紹介されていました。ああ、へんな人! この部分もぜひお読みください。



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