【097】その日のパーティー会場にて
数多の功績により人々を救い続けてきたアルスが勇者として認定された、その日の夜。
魔法大国ルーランスの王城ではこの日の為に各国から集まった貴族、もしくは要職に就く重鎮達が、非公式ではあるものの一千年の時を経て再びこの世に現れた勇者を祝い、盛大なパーティーを開いていた。
「ただいまより、我ら南大陸の国々が認めた世界の救世主、勇者アルス誕生の記念パーティーを行う! 皆の者、杯を前へ……。乾杯!」
乾杯!
乾杯なのよ、FHOOOOO!
若干一名テンションの壊れた幼女がいたりしたが、会場にいる者たちは杯を合わせてそれぞれが笑い合う。
きっとこれから先、人類は勇者を旗印として躍進し一つとなって、魔族の侵攻にすら負けない力で世界を守り抜き、自らの手で平和を勝ち取るのだと、人々はそう信じてやまなかった。
「勇者の祭りに便乗したタダ飯はうまいの。この会場にあるものは、全て食べ放題なのよね~。あたちってば、ついに報われちゃったのかちら?」
「ふっはっはっは! これは大したレディだ。まさかこの国王の前でこうも堂々と腹を満たすとは。うむ、大いに結構! それでこそ勇者の仲間足り得る器の持ち主である!」
などなど。
なぜかこの国の王である、ハレイド・ルーン・リア・ルーランスの膝上に座り、集まった貴族たちから高級料理をちびちびと得ては、小さなお腹に収めるちびっこ天使が一名。
どうやら図々しくも、しかし決して嫌味の無いメルメルのことを大層気に入ったのか、まるで自らの孫であるかのように頭を撫でて溺愛する国王の姿があった。
いままで他人から食事を恵んでもらって旅を続けていたので、本人としてもこの状況を特に違和感なく受け入れているところが恐ろしい。
きっとこのちびっこ天使は、これからも勇者が功績をあげればお腹いっぱい美味しい料理を食べられるのだと、少しだけ知恵をつけ学習していることだろう。
「う~ん。どれも美味しいのよ。こんなに恵んでもらっちゃうなんて、罪な女なのね~」
「いいや、それは違うぞレディ。そなたらは貢がれているのではなく、今までの功績が認められた上で、正当な評価として歓待を受けているのだ。それは誇りに思う事ではあれ、決して卑下するようなことではない。履き違えてはいけないよ?」
人生経験から来る重みのある国王の言葉に、「おお~」と声を上げて感心する。
思いやりに溢れつつも冷静で正しい評価にちょっと気をよくしたメルメルは、国王の膝上から飛び降りると「それなら、これは歓待のお礼なのよ」ということで、どこからか集めて来た野営セットを広場の中心に置くと盛大なキャンプファイヤーを始めたのだった。
しかも今回のキャンプファイヤーは、ただの炎ではない。
歓待してくれる人々へのお礼バージョンということで、天使の力で色とりどりの炎を出現させるパフォーマンスとしたのだ。
ある意味、これはこれでパーティーの催しとしてはアリだった。
「おいおい、あいつこんなところでも焚き火してるぜ。というか、誰も止めずに魅入ってるのがすげぇな……。人間ってこういうのが好きなのか?」
「あはははは……。まあ、悪くないアイデアではあると思うよ。これはお祭りみたいなものだしね。確かイーシャちゃんの誕生日会でも、色々と大道芸人がパフォーマンスしてたし」
「へぇ~」
そう語るのは勇者となったアルスに寄り添い、彼氏の腕をガッチリホールドして他の貴族令嬢への牽制としているハーデス。
今もなお微動だにしないバストサイズのせいか、あまり柔らかくない胸で好き好きアピールするもアルスには効果が薄いようで、普通に真面目な答えを返されてしまっていた。
また、ガイウスとアマンダはそんな二人の甘酸っぱい青春を遠目で見て笑いつつ、あと一月もしないうちに成人するものの、一応まだギリギリ未成年である勇者の保護者ということで貴族達の対応をしているようだ。
「でも、本当に僕が勇者だなんて夢みたいだ……。ちょっと、実感ないよ」
「そうか? 俺様は、きっとこうなるんじゃないかと思っていたぜ。なにせあの黄金の力は、こう、なんというか。触れると肌がピリピリして、刺激が強かったからな。ま、まあ、全然、嫌じゃなかったけど?」
少しやせ我慢しつつも、それに、と言い彼女は続ける。
「それにな。お前とずっと旅を続けることで、俺様にも色々と変化があったぜ。でもそれはみんな同じで、この世界で出会った奴らの生き様にも、仲間達にも、ついでにあの邪悪なおっさんにも何か変化があったはずなんだ。いまは上手く言葉にはできないが、みんなお前が居たからこそ救われてきたんだ。自信を持てよ、アルス」
にししっ、と満面の笑みで語るハーデスの心にはいつもアルスがいて、常に全力で肯定してくれるのであった。
そんな最高の女性に愛され、様々な人々との繋がりに恵まれたアルスは、救われているのは自分自身の方だと心の中で独白する。
「ああ、分かっているよハーデス。ちょっとだけ、ここに父さんと母様が居ないのが寂しかっただけさ」
できれば自分がこうしてみんなに認めてもらっているところを、父や母にも祝福してもらいたかったなと、そういう感情があるのは否定できない。
いくら強い心を持つアルスとて、いまはまだ十四歳を間近に控えている程度の子供でしかない。
もっと両親から褒められたいし、自分のことを見てもらいたいし、甘えたいという気持ちだってあるのだ。
ただそんな感情に流され家族の愛に頼りきりになり、日々進歩していく仲間達との成長、旅を疎かにしてしまえば今の時間がもったいないなと、そう思っているからこそ前を向き続ける。
だが、ハーデスの意見は少し違ったようで、アルスの想いに首を振って別の観点から答えを出す。
「いいや? 確かに姿は見えねぇが、それでもきっと、どこかで隠れてお前のことを見守っているんだと思うぜ。あの邪悪なおっさんが、自分の息子の晴れ舞台を見逃す玉だとは思えないしよ」
「ははは! 確かにそうだね。あの父さんだものね。あり得るよ」
そんな時、どこかで「ぶわっくしょい!」という謎のくしゃみが聞こえてきたことで、二人はクスクスと笑い合うのであった。
そうして、それぞれが意味ある時間を過ごしている中、もう良い頃合いだろうと見計らったルーランス王が立ち上がり、会場に集まった者たちへ向けて語り出す。
一つ目は、明日から再び旅立つ勇者たちへ向けて、この南大陸の国々は最大の支援を約束するということ。
二つ目は、どうやらここからさらに南へ下った灼熱の大地、砂漠の国で魔族のものと思われるきな臭い動きがあるということ。
できれば勇者一行にはそちらへと赴いてもらい、再び騒動の発端となり得る魔族の情報を掴んできて欲しいと語るのであった。
「そなたらにも事情はあるだろうが、可能か、勇者よ」
「はい。どちらにせよ僕たちはこの騒動をこのままにはしておけません。砂漠の国に何かがあるというのであれば、自ずとそちらへ向かうことになるでしょう」
力強いアルスの判断に周囲の仲間達も頷き、ちょっと食べ過ぎて寝ちゃっているメルメルはさておき、新たな旅の目的地として砂漠の国への訪問を承諾するのであった。
明日から毎日更新に戻ります(`・ω・´)!




