【074】宵闇の行方…
昨日、突然の投稿を行いました。
読む順番にお気を付けください。
「くそっ! 宵闇はまだ見つからないのか!」
「はっ! 申し訳ありませんフレイド殿下! セバスと名乗る大手の奴隷商人が宵闇を戦闘奴隷として入荷し、その後、赤ん坊を連れた黒髪黒目の優男に引き取られたところまでは足取りを掴んだのですが、それ以降はまるで……。も、もうしばらくお待ちいただければと……!」
亜人種と人間種が共に生きる南大陸でも、三本の指には入るであろう魔法大国、ルーランス。
そんなルーランス王国の王城にて、この国の第二王子であるフレイド・ルーランスは自らの部下を怒鳴つけた。
しかし部下から得られた情報はいつものように空振りで、第二王子フレイドは思い通りにならない現実に顔を歪める。
このことから分かるように、彼は相当に我儘で傲慢な性格のようであった。
「いいか? もう宵闇を陥れてから十三年だぞ? いくら数百年は優に生きる長命種、竜人種の俺とて、これ以上は待てん……。あの宵闇を奴隷として従順に躾け可愛がり、この俺を絶対と認識する従僕とするための計画に、いったいどれだけの財を費やしたと思っている? なあ、お前、それが分かってるのか?」
「は、ははぁ……!」
傲りと欲望、そして憤りに歪んだ顔で部下の頭を踏みつけると、そのまま腰に差していた剣を引き抜き首筋に当てる。
どうやら今回の失敗は相当腹に据えかねていたらしく、苛立ちのあまりこのままで済ますことはできないらしい。
そうして、いつまで経ってもまともな報告を上げてこない無能な部下を粛清するため、手に持った剣で首を落とそうと腕を振り上げた、その時。
第二王子の背後から音もなく現れた黒装束の男性ダークエルフが、彼の耳にとある情報を耳打ちした。
「常闇か。……なんだ、なにか収穫でもあったのか?」
「連絡が遅くなってしまい申し訳ありません、フレイド様。ようやく宵闇の痕跡と思われる情報を入手致しました」
「なに?」
常闇と呼ばれた男性ダークエルフが告げた内容に眉を吊り上げると、もはやどうでもいい存在となった部下のことなど忘れ、首を刎ねるのを中止して背後を振り返る。
「宵闇は現在、西大陸最大の宗教国家、カラミエラ教国にて、カキューと名乗る貴族の男と共に度々訪れていることが調査の結果分かりました。しかし……」
「他大陸だと? なるほど、それで足取りが掴めなかったのか……」
「いえ、報告には続きがあるのです。まこと信じられぬ情報かと存じますが、どうかこのままお聞き下さい」
待ちに待っていた情報に内心歓喜しつつも、表層の態度を取り繕った第二王子は頷く。
この十三年間、今まで散々待たされてきたのだ。
この有能な部下である常闇の報告の一部始終を聞いて待つことなど、どうということも無かった。
「他大陸にて存在が確認されたと言いましたが、しかし同時に南大陸各地の王都、または大都市でも同時刻にてカキューなる貴族の存在が確認されているのです。今回はその情報の真偽を確かめるため、こうして報告に時間がかかった次第でございます」
「なに……?」
同時刻に大陸を跨いで存在するとは、いったいどういうことなのだろうか。
そう思案するも、この信用する部下である常闇が不確かな情報で虚偽の報告をするわけもない。
そう第二王子は考え、であるならばこれはどういうことなのかと、そう思案する。
そして出した答えは……。
「こちらの調査を掻い潜るために影武者を用意したか、もしくは、本当にあり得ぬことだが、転移魔法を再現する魔道具を手に入れたか、だな……」
「ええ、おそらくその通りかと」
だが、可能性は無いことも無いが、影武者の線はおそらく間違いなのだろうと両者は結論付ける。
一見、一番現実的な考察のようにも思えるが、そうだとするとわざわざ他大陸に影武者を用意する必要がない。
普通は他大陸に渡った者まで調査の手が及ぶなどという考えに至るわけがないし、そもそもカラミエラ教国にいるならば、こちらから易々と手出しはできないのだから。
そして仮に教国にいるのが本物で、影武者がこちら側にいるのだとしたら、それこそ安全地帯にいるのにも関わらず自らの情報を握っている者を敵側にチラつかせるなど、愚の骨頂だ。
よって、あり得ないことではあるが転移魔法の再現という、伝説級の魔道具を手に入れたというのが正解に近いように思えたのだった。
しかし、たとえそんな伝説級の魔道具を手にしていようと、なんだろうと、所在が掴めたということは宵闇との接触が可能であるということでもある。
ようは魔道具を使う暇もなく不意打ちで眠らせるか、拘束すればいいのだ。
もちろんその辺の雑兵には無理な案件だろうが、こと暗殺者としての腕前なら宵闇と同格である常闇の力を借りれば、不可能というほどのことでもない。
その後は様々な情報共有を行い、十分にカキューなる貴族から略奪することが可能だと結論付けた第二王子は、計画の成功を確信するのであった。
「クククク……。そうだ。これだ、これでいい。魔法大国ルーランスの第二王子であるこの俺が、手に入れられぬ女など居るはずがない。居ていいはずがないのだ。まっていろ宵闇。俺がお前を手に入れる日を楽しみにしておけ……」
宵闇と呼ばれる女暗殺者を手に入れる為に手を尽くし陥れたことで土台を整え、あらゆる意味で自らに忠実なペットとするために、あとちょっとのところまで迫った第二王子フレイドは語る。
あの美しい肢体、高貴な心、暗殺者として最高の力、その全てが自らのものになるかと思うと、ついに表層を取り繕うことすらも忘れ醜悪な笑みを見せるのであった。
そんな自らの主人を見た常闇は冷たい目で背後を一瞥すると、無表情のまま再び闇に消えていく。
彼は今回、いくつか意図して伝えていない報告があった。
一つ目は、宵闇には既に人類最強格とも言える超戦士の護衛がついているという事実。
二つ目は、総合的な実力ではその護衛すらも超え得るかもしれない金髪碧眼の少年が、その超戦士を引き連れて旅を続け、この国に迫りつつあるという事実だ。
彼はこの二つの事実だけを告げず、カキューなる貴族と同様に宵闇と接触するために使える駒であると、そう主人に伝えていた。
それは確かに虚偽の報告ではないが、同時に、真実でもないのだ。
そうして、常闇と呼ばれる男暗殺者の用意した落とし穴に気付かぬまま、欲望に溺れた竜人族の王子は笑い続けるのであった。
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