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【073】ブレイブエンジン

そして、突然の投稿。


本日2話目の投稿となります。

読む順番におきをつけください。




 突如として南大陸の拠点に来襲した凶悪なチビスケを取り押さえ、集まってきた皆で囲むこと数分。

 だいたいの事情を察した俺たちは肩を竦め、やれやれといった風体でこの危険な幼女を見て呆れていた。


 というのも、どうやらこのチビスケ、色々とやらかしてしまったために故郷から追放されてしまったらしい。

 だからこそその償いとして、現在は故郷に再び受け入れてもらう為、善い行いを重ねて功績を積む旅を続けていたというのが真相だったのだ。


 デビルアイで見ても嘘を言っている気配は無いので、たぶん本当のことなのだろう。


 だが、俺はこいつを追放した故郷に一言だけ物申したい。

 こんなヤベー奴を無秩序に外の世界へ解き放つな、と。


 いや、分かるけども!

 この年齢不詳のチビスケが常識を知らなさすぎるから、少しは世界を見て回れというその気持ちも分かるよ!?


 でも、もうちょっと故郷の皆さんもやりようあったと思うんだよなぁ~!

 せめて気軽に龍脈は使っちゃダメだと、それだけでも教えてやって欲しかった。


 そう思って俺が睨むと、アイアンクローをされっぱなしだったチビスケはいよいよ泣き出しそうになってしまう。

 おっと、これはいかん。

 ちょっと叱り過ぎたな。


「や、やめて欲しいの……。メルメルをいぢめないで欲しいの……。あなたのおうちで龍脈を使ったことは反省してるのよ? 今度からは気を付けるの。もうしないの。ぐすん」

「あ~、分かった分かった。イジメないから泣き止めチビスケ。強く叱ってしまって悪かったな」


 龍脈の危険性をちゃんと教えてやったからか、本当に反省しているみたいだったのでアイアンクローから解放し頭をなでなでしてやる。

 全く、本来なら天使や神々しか扱えない龍脈を操る幼女というだけでも厄介ごとなのに、まさか功績を積むための旅に出ているとはねぇ……。


 反省はしたようだが、このままこいつを再び野に解き放ったらまずい気がする。

 ちょっと、しばらく作戦を考えようか。


「ごめんねメルメルちゃん。でも、厳しいように見えるけど、父さんも君の身を案じて言ってくれていることだと思うんだ。ちゃんと反省はしなくちゃダメだよ? ほら、なでなで」


 少しキツく叱り過ぎてしまった俺の代わりに、まだぐずっているチビスケの頭をよしよしと撫でるアルス。

 おお、さすが我が息子様だ。

 あのふてくされていた幼女が簡単に笑顔を取り戻したぞ。


 さすが輝くイケメン。

 アルスの優しいオーラはこんな時にも有効らしい。


「うい……! とても強く、優しい神聖な気配を持つあなたがそう言うのなら、もうこのことは引き摺ったりしないの。あたち、過去に囚われない女なのよね」

「い、いや、それはどうかと思うぜチビ……」


 俺もハーデスと同様、少しは過去の失敗に囚われてくれと思わないでもないが、機嫌を取り戻しつつも心ではちゃんと反省しているみたいなので黙っておく。


 だが、ハーデスの疑問は正しい。

 間違いなく正しいと俺も思うぞ。


 でもって、それはそれとして、今このチビスケは聞き捨てならないことを言ったな。

 その、なんだ。

 強くて優しい、神聖な気配とはなんのことだろうか。


 いったいこいつには何が見えているんだ?

 わたくしこと下級悪魔は、そこが一番気になります。


「で、その神聖な気配というのはなんだ? うちの息子になぜそんなモノが備わっている? お前に視えているモノがいったいなんなのか、教えちゃくれないか?」


 機嫌を取り戻してアルスになでなでされているところを見計らって、いまこの場で一番重要なことを問いかける。

 もしかしたらこのチビスケの口から出まかせかもしれないが、しかし長年、嘘や騙し討ちといった悪魔特有の環境で生き抜いてきた俺の直感が、こいつは本気でこれを言っていると囁いているのだ。


 なにかが、怪しい。


 するとチビスケは俺の質問に顔をキョトンとさせると、コテンと首を傾げた。

 おい、俺にそんな「あなた知らないの?」みたいな顔されても困るぞ。


 このことを知らないのはたぶん、俺だけじゃなくてこの場にいるメンバー全員だから。

 別に下級悪魔が無知なわけじゃないからな、勘違いするなよ。


「ん~……。そうねぇ~。あなたにも分かるように説明すると~。神聖な力っていうのは、瞳の力。つまりブレイブエンジンのことなのよ。……様子を見る限り、この子のブレイブエンジンがまだ安定していないのよね~」


 ふむふむ、と何かを探るようにアルスを観察し、時折ピョコンピョコンと跳ねまわるチビスケ。

 いったいそれで何が分かるというんだとは思いつつも、話を最後まで聞いてみる。


「つまり、ちみにはまだ切っ掛けが足りないの。ブレイブエンジンは願いの力よ? もっともっと、強く願う必要があるの。そうすると瞳の力も安定するのよ」


 丸めた指を目に当てて、双眼鏡のようにしてアルスを覗き込むチビスケは語る。

 だが、それを聞いた俺はますます何のことか分からなくなったぞ。


 なんだその、願いの力?

 ブレイブエンジン?


 なにを言っているんだいったい。

 お前は何を知っている……?


 しかしそう問いかけようとしたところでチビスケは我に返ったのか、ハッ、とした表情で焦りだし周りの人間をキョロキョロと見渡した。

 いろいろと忙しいやつだなこいつ……。


「あっ、しまったなの! この変な人間の口車に乗せられて、あたちが言っちゃいけないことを口走っちゃったのよ! これは機密事項だったのよ? だから、いまのは無しなの! 忘れてなの!」


 おいおい、人聞きの悪いやつだな。


 俺は今回、特に悪魔の囁きとかそういう技術は使ってないぞ。

 普通に聞いたらお前が勝手にポロポロと喋りだしたんだが?


 だが、それはそれとして、どうやらこの様子からして言っていることは本気マジ本気ガチ情報だという確信を持った。

 

 そもそも俺達しか知らないはずの瞳の力が云々と語っている時点で、何か重要なことを隠している可能性が高い。


 アルスや他のメンバーもその気持ちは同じだったようで、より詳しくこのチビスケを問い詰めようとした、その時。


 自らの危機を感じ取ったのか、ビクリと身体を震わせたチビスケは後ずさり、逃げの態勢に入った。


「で、でも、今のちみには、これ以上なにをいってもしょうがないの。無駄無駄、無駄、なの。とはいえ、ブレイブエンジンが発現する功績は大きいから、あたちがたまに様子を見にきてあげるのよ。がんばってね、なのよ? それじゃばいばいなの! 追ってこないでなのよー!」


 じりじりと後ずさり、逃げの態勢のまま一息にそう捲し立てると、脱兎の如く、いや、弾丸の如き速度で一目散に逃げ去っていくのであった。


 う~む。

 あの後先考えない、逃げだけに徹する潔い姿勢。

 あいつ、ずいぶんと逃げ慣れてるな。


 ある意味あっぱれである。


「おいおっさん! あのチビ逃げやがったぞ! 追わなくていいのか?」

「す、すごいスピードですね父さん。あの子はいったい何者だったのでしょう?」


 うん、まあ追わなくてもいいと思うよ。

 だって功績のために時々様子を見に来るとか言ってたしね。


 こちらが無理に捕らえるよりも、待っていた方が質の良い情報を提供してくれそうだ。


「いいんじゃないか? なんだっけ、あの、ブレイブエンジンだったか? あの功績が惜しくて様子を見に来るそうだしな。ほっとけほっとけ。そのうちまた来るだろ」


 そんな俺の言葉に納得した皆は頷き、まあ、それならいいかという雰囲気になるのであった。


 さて。

 これにて一件落着、と、その前に。

 ちょっとだけ懸念がある。


 あのチビスケの言っていることが本当だとすると、アルスの黄金の瞳を覚醒させるためにはただの修行ではなく、もっと別のアプローチが必要らしい。

 願いの力とやらがなんなのかは俺も分からないが、三年前の三魔将戦で見せた力が「仲間を守りたい」という強い願いの力によるものだったとしたなら、辻褄が合うのだ。


 しかしそうなると、このまま拠点や教国といった、見慣れた土地ばかりに執着していても問題は解決しないだろう。


 よって。


「よしアルス。お前ももうすぐ成人を迎えることだし、そろそろ旅を始めてもいい時期かもしれないな。しばらくしたらガイウスを同伴して、諸国漫遊の旅へと向かうんだ。父さんから離れて、自分の力で世界を見てこい。どうだ、やってみる気はあるか?」


 ……と、俺はそう問いかけるのであった。




次回

宵闇の行方…


かつてエルザママの所属していた暗部組織のお話になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハーデスちゃん・・・胸が大きく成ってないのか~~。 良しっ!(何が?) 大きいと垂れるのが早くなるのさW
[一言] なんで主人公メルメルが天使ってわからないの?
[一言] 書類のみに発揮されるメルメルの能力って……あれ聖杯じゃあ……目逸らし 世界創造の方も更新待ってます!
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