【069】めっちゃ凄そうな功績の匂い
本日一話目の投稿となります。
読む順番にお気を付けください。
次の投稿は、朝7時です。
天界から追放されたメルメルは旅を始めることにした。
再び天界のエリート天使に返り咲くために。
そして、天使長プレアニスにもう一回、「いいこいいこ」してもらうために。
今はやる気の感じられなかったあの頃とは違い、けっこうガチな感じに燃えていたのである。
そうしてまずは手始めにと女神教の総本山。
西大陸の宗教国家、カラミエラ教国からスタートを決めることにしたのであった。
これは、そんな教国で見つけたそれっぽい居酒屋での一幕。
「店主。何か一杯、テキトーなミルクを……」
「お、おう……。お嬢ちゃん、パパとママの姿が見当たらねぇようだが、大丈夫なのかい? 迷子なんじゃねぇだろうな? 金はあるのか?」
当然、金は一銭もない。
でも金がなくても、ちょっと大人な気分になれるこういうところに来てみたかったのだ。
ちょっとした元エリート天使のおちゃめである、笑って許して欲しい。
そしてついでにミルクも恵んで欲しいと思っていた。
もちろん現実はそんなに甘くはないのだが、そんなことまだ下界に来たばかりなのに分かるわけがない。
おちゃめが通じないのもまた、天界と下界のギャップから生まれた不可抗力なのである。
だが、そんなちびっこに手を差し伸べる大きな影が一つ現れる。
「いや、ここは私が払おう。このお嬢さんにミルクを頼むぞ、店主」
「おう。それなら俺は構わねぇけどよ、いいのかい?」
「構わん。このような幼い少女にミルク一杯も差し伸べられない国主など、もはや笑いものだ。この私に二言はない」
隣に席を移し手を差し伸べるのは、イカしたサングラスをかけて赤髪をオールバックに整えた偉丈夫であった。
自らをどこぞの国王と名乗る偉丈夫は、居酒屋の店主にミルク一杯分の金を払うと酒瓶を手にもち掲げる。
それはまさしく望んでいた通りの、ちょっと大人な気分になれる乾杯の合図。
どうやらこの酒場で飲んだくれていた謎の偉丈夫は、ただの偉丈夫ではないようだ。
この男は他とは一線を画すやけにノリがいい、そんな偉丈夫だったらしい。
「乾杯なの」
「うむ。乾杯」
静かにカチンとジョッキを鳴らした二人は、その後は無言でチビチビと飲み続ける。
片やただのミルク、片や本物の酒。
しかし、そんなチグハグの二人の間には、なんだか温かい空気が流れていた。
こうしてちびっこ天使メルメルの、下界第一日目の時間は過ぎていったのである。
◇
下界二日目。
居酒屋の席に無理やりにでも陣取ったメルメルは、日の出と共に目を覚まし、再び旅に出る。
そんなちびっこ天使の両目にはいつもは見慣れないとある装備が装着されていて、二日目の旅路を祝福するかのような太陽の直射日光を遮る、真っ黒なイカしたサングラスが掛けられているのであった。
なにを隠そうこのサングラス、実はあのあとちょっとだけ仲良くなった偉丈夫に、スペアがあるからと一つだけ譲り受けた物なのだ。
「今のあたち、けっこうイカしてるかも」
貰ったサングラスをかけてニンマリと笑い、次の目標を定める。
次の目的地はなんと、この皇都の中心地であるカラミエラ城である。
一度は女神教の総本山である国のトップ、教皇。
そしてその娘である聖なる癒しの巫女、聖女に挨拶をと思っての事だった。
なにせ自分は元とはいえエリート天使。
天界から追放されたことによって、今は頑張らないと天使の翼を出す事はできないけれど、それでも挨拶くらいしないとエリートの名折れだと本気で思っているらしい。
だが当然、こんな正体不明のサングラスをかけたヤバそうな幼女が城門の前をうろついていたら……。
「こら貴様! このカラミエラ城に何の用だ! 怪しいやつめ……!」
「何をするのよ!? あたち、なにも悪いことしてないわ!」
そう、捕まるのである。
そもそも、悪いことをしていようが、していなかろうが、怪しいやつを見つけ拘束するのが仕事である門番の行いは何一つとして間違ってはいない。
これは未だに天使だと理解してもらえると思い込んでいたメルメルが、完全に悪かった。
「まさか……! これは誰かがあたちを貶めようとして計画した陰謀よ、陰謀なの!」
「陰謀だと!? どうやらお前からは詳しい話を聞かなければならないようだな……」
そうして、ついに牢獄へとぶち込まれる哀れな駄天使。
なんと、旅は二日目にして大ピンチを迎えていたのであった。
◇
下界三日目。
牢獄のオフトンでぐっすりと気持ちよく寝ていた駄天使メルメルは、ガンガンガンという音を鳴らして牢を叩く音で目を覚ます。
どうやらついに、尋問をするための兵士がお迎えに来たらしい。
「おい、出ろ」
「あたちは何も悪いことはしてないの。身の潔白なのよ」
どうやらこの駄天使はかなり諦めが悪いらしく、キリリとした表情で無罪アピを続ける方針らしい。
「い、いや……。そうではなくて、だな……。どうやらお前のことを、皇女殿下が気にかけておられるようなのだ。その、なんだ……。こんな豚箱にぶち込んじまって、すまなかったな。まさか皇女殿下の知り合いだったとは思わなかったんだ」
そうだっけ?
と、そんな感想を抱くものの、まあ出れるならなんでもいいかと思い、テキトーに兵士の後をついて行く。
そうして一晩だけお世話になった牢獄のオフトンに別れを告げしばらく歩くと、とても豪奢な装飾があしらわれた個室に案内された。
そこには十五歳ほどに見える銀髪の近衛騎士と、そんな彼が直立不動で守護する主人である、十歳程の青髪の少女が座って佇んでいたのである。
なにを隠そう、この少女こそが当初会おうとしていた聖女、イーシャ・グレース・ド・カラミエラ本人であった。
「あら、ようやくこの子を連れてきていただけましたのね。全く、こんな小さい女の子を牢獄に押し入れるなんて、うちの兵は何を考えているのかしら……。あなた方がこの子を連行していくのを見た時は、目を疑いましたよ?」
「は、ははぁっ! 申し訳ありません!」
「まあいいでしょう。あなた達の職務も理解しているつもりですから。今回は不問と致します」
聖女の許しを得た兵士はほっと胸を撫でおろし、やはりこの御方はどこまでも清くお優しいと、心に強く忠誠を誓い立ち去っていく。
「それで? あなたはなぜ、あんな恰好で城門の前をうろうろしていたの?」
「それは聖女に挨拶をするためなの。あたち、こう見えてもエリートだから。挨拶は基本なのよ?」
さも当然といった風体で話す見た目七歳児のちびっこの姿に、聖女イーシャはズキューンと胸をやられる。
この状況下においても忘れないそのふてぶてしい態度に、完全にやられてしまったらしい。
「か、かわいい……! かわいいわねこの子!」
「そうでしょうか? お嬢様の感性は、俺にはよく分かりません」
「何言ってんのよエイン! 私は今まで、こんなに可愛い生き物は見たことがないわ! ……決めた! 今日からこの子は、私専属のメイドとします! 私のことはお姉ちゃんってよんでね?」
そんな議論を近衛騎士のエインなる者と交わす聖女は、一瞬で気に入った幼女のほっぺをむにむにしたり、頭をなでなでしたり、顎のしたをコロコロしたりながら独断と偏見で、勝手に宣言する。
しかし、あまりにも唐突な宣言と、いきなりほっぺをむにむにしはじめた聖女に驚いたメルメルは後ずさり、逃げの態勢に入った。
「な、なにするのよ? あたちは聖女の妹でもなければ、メイドでもないの! いまは天界から追放され力を大きく失うも、いずれエリート天使として返り咲くことを目標にした激カワ天使。メルメルなのよ!?」
「あら、面白い設定ですこと。おほほほほ!」
必死に自分が何者であるかを伝えるも、天使の翼を失った今の幼女スタイルでは信じてもらえるはずもなく、聖女はこのお話を目の前のちびっこが考えた設定だと思ってしまったようだ。
だがそんな聖女の考えなど知ったことではないと思ったメルメルは顔を真っ赤にして頬を膨らませると、ぐぬぬぬと体内の魔力を循環させついに正体を現す。
「せっかく挨拶をしようと思ったけど、今回はもうやめなの! ちょっと今は天使パワーが足りないから、いちど出直してくるのよ! それじゃ、またなの!」
「えぇぇぇえええ!? せ、背中からアルス様のような翼が!? 何なのこの子!? えぇぇ!?」
魔力を循環させ、背中から天使の象徴である翼を出現させたメルメルは、そのまま窓から外に飛び立っていく。
いつか元の力を取り戻したあかつきには再びこの地を訪れ、もう一回挨拶に伺おうと心に決めて……。
こうして下界三日目にして、ついにカラミエラ教国を出て功績をあげるための旅へと出発するのであった。
その後、南大陸のとある大森林にて、たまたま見かけた氷竜装具を身に纏う超戦士にご飯を恵んでもらったり、グルメハンターとか言われている最高位冒険者にご飯を奢ってもらったり、色々な人にご飯を奢ってもらったり恵んでもらったりしながらメルメルの旅は続いて行く。
時には馬車のヒッチハイクをして、時にはご飯の施しを受け、そして時には大森林の奥地でキャンプファイヤーをしてしまいピンポイントで高位ドラゴンを灰にして、その勢い余って天変地異になりかけたり。
なんだかんだで三年が経過した、その時。
南大陸の大森林の奥地にて、錬金術で出来たとある魔法城を発見するに至るのであった。
メルメルは理解する。
ここにはなんだか、凄いものが眠っていると。
なんだかめっちゃ、功績を上げれそうな匂いがビンビンすると、久しぶりにエリート天使としての超直感が囁くのであった。
だが、だからこそ、こんな時だからこそある儀式を決行する。
そう、今の自分に至る切っ掛けともなった、あの────。
「ふぁいあーーーー!!」
────キャンプファイヤーを!!
時は異次元からやってきた地獄の下級悪魔、カキューの息子アルスが十三歳になった、そんな頃。
物語は、動き出した。
以上、メルメル編の導入でした(`・ω・´)
次回からは再び本編となります。
メルメルが魔法城を見つけた時代から一時的に時間が巻き戻ります。




