【063】試練の終わりと、勇者の輝き
昨日、息をするように唐突な投稿をしました。
読む順番にお気を付けください。
おっと、途中で目から汗が溢れてしまったが、視点を子供達の試練へと戻そう。
どうやら今の戦況は大人組がかなり優勢なようだ。
魔力の鎖で生け捕りにされているハーデスを余所に、大人組と子供組の戦いは既に終盤に差し掛かり決着がつこうとしている。
個々の評価を点数で言えば、一切の隙がなく、子供組で一番バランスの取れた戦闘と、パーティ全体の指揮を取っているアルスが95点。
ガイウスの攻撃には対処できているものの、暗殺者との戦闘経験がなく、エルザから一方的に攻撃され続けているエイン君が70点。
強力な回復魔法によって味方の継戦能力を底上げしつつも、前衛能力が壊滅的であるため、時折人間には効果の薄い神聖魔法でガイウスとエルザを攻撃している聖女ちゃんが65点。
最後に、三人の子供達とは評価基準が別枠になるが、俺を相手にとりあえず合格点を叩き出したハーデスが、もうちょっとシビアな評価になる大人基準で90点といったところだろうか。
まあ、そんなところだろう。
これは決してアルスの評価を親の欲目で見た結果などではなく、純粋にパーティへの貢献度で判断している。
そもそもこのパーティ、ハーデスもそうだが、正面からの戦闘にはめっぽう強いが不意打ちに対して耐性が無さ過ぎる。
いくら純粋な実力を磨いても、これだけ搦め手や不意打ちに弱いとこの先やっていけないぞ。
これは今後の子供達に課せられた大きな課題だな。
今回の最終試練でそれがハッキリと見えてきた。
「暗黒の執行人エルデ殿、それから暗黒戦士ガイアース殿、もうそろそろ良いだろう。俺の目から見ても、既に目的は果たしたと考えられる。よって、そろそろそいつらを一掃し、決着をつけてしまえ」
「はっ! お任せを、ジョウキュー様」
「おう、任せな。俺も久しぶりにこいつらの成長が……、じゃなくて、いい戦いができて満足だぜ」
おいガイウス、今お前「成長が見れてよかったぜ」って言おうとしたでしょう。
ダメだよちゃんと最後まで気をはらなきゃ、こういう凡ミスが作戦の失敗に繋がるんだからさ。
しっかりしてよ~。
だが、そんな失敗をしかけるガイウスも、冒険者であり戦士としての実力は本物。
決着をつけると俺が宣言したとたん、ガイウスは今までにない緊迫感のある空気で子供達に詰め寄った。
その速度はまるでただ歩くかの如く緩慢であり、決して素早くはない。
だがどうしてだろうか、そんなノロノロとした動きなのにもかかわらず、子供達の前衛であるアルスとエインは攻撃を仕掛けるどころか、むしろ後ずさっているように見えた。
「どうした? 攻撃しないのかボウズ共。ほら、俺はここにいるぜ? なんなら構えてすらいない。なぜ攻撃しない? ……いや、できないんだよな? そうだ。これが今のお前達と、あらゆる場数を踏んできた俺の差だ。戦いの実力ってのはな、なにも剣の腕や体術だけじゃねぇ、しっかり覚えておきな」
そう諭すように語るガイウスは途中で歩みを止めると、手をヒラヒラと振って自分はもう構えてすらいないということをアピールする。
なぜこんな現象が起きているのか。
その答えは単純だ。
これはようするに、ガイウスを囮とした「詰み」の状況を作り出す、子供達への王手だったからである。
そうとも、既に大人組はとっくの前から子供達の攻略法を理解していた。
というのも、彼らの弱点は誰が見ても明白だったためである。
その弱点とは、聖女イーシャ・グレース・ド・カラミエラそのもの。
例えば今ガイウスがやっているように、自分を囮として付け込む隙をわざと作りだし、そこにまんまと飛び込んだ前衛の子供達を、後衛の聖女ちゃんから引きはがしてしまえば、もうそこで試合終了。
あとはエルザが継戦能力の要である聖女ちゃんを始末し、順番にエインを始末、そして最後にアルスを二対一で始末すれば見事全滅ってわけだ。
簡単なお話だね。
つまり子供達はそんなガイウスの意図に気付き、イーシャちゃんを守るために身構えてすらいない敵に後ずさるしかないのであった。
だがもちろん、そんな単純な時間稼ぎで大人組が手詰まりになるわけがない。
最初に宣言した通り、これは既に「詰み」なのだから。
「これで終わりです。あなた達の奮闘は思っていたよりも見事でしたよ。……お疲れ様でした」
これも簡単な話だ。
子供達が前から後ろに逃げるのであれば、今度はエルザが後ろから前に不意打ちをかければいい。
ただ、それだけの話であった。
「なっ!? しまっ……」
「エインくん!? ぐぁっ……!」
「あ、ああ、み、みんな……。あっ……」
ガイウスの無手アピールに気を取られていたせいで、後ろに注意を払いきれなかった三人が瞬く間に気絶させられていく。
どうやらこれで本当に、試合終了のようだな。
「なっ!? アルス、エイン、馬鹿女! て、てめぇ、よくも俺様の大切な人たちを……!!」
いつもラブラブなアルスはともかくとして、普段は喧嘩ばかりしている聖女ちゃんすらも大切な人だというハーデスの瞳には、子供達への純粋な愛情と、そんな彼らを傷つけた俺たち三魔将への怒りが感じ取れた。
すまんなハーデスちゃん。
ここらへんで俺たちは撤退するから、もう少しだけ我慢してくれ。
「ふむ。ご安心なされよ殿下。彼らの命に別状はありませんよ。なに、こう見えて俺たち三魔将は人間のことが嫌いじゃなくてね。その上殿下のお友達ともなれば、無暗に傷つけることはしませぬ。まあ、これはちょっとした授業というやつです。参考になりましたかね?」
「本当だろうな……」
「ああ、本当だとも」
俺がそう答えると、「なら、いい」とだけ答えたハーデスは自らの敗北を認め、すっかり大人しくなる。
うむ、今回の試練はここら辺が潮時だな。
それではそろそろ撤退するとしよう。
そうして子供達の最終試練に決着をつけ終わり、三魔将全員でこの場を後にしようとしたその時。
気絶させていたはずの子供達の方角から、とんでもないプレッシャーを感じ取った。
────待ちなよ。
────まさか、これで終わりとか思ってないよね。
────これ以上お前達の好きには、させない。
「…………ッ!! まずい、下がれ二人共!!」
「はっ!」
「おうっ!」
そう宣言すると同時に、同じように異様な殺気を感知した二人が俺の背後へと隠れる。
いやいや!!
なんだ、アレ……!?
気絶していたはずのアルスの瞳が輝き、蒼かったはずの両目が黄金に染まっている、だと!?
なんだ、お前にいったい何が起きた……!
放たれる魔力量も異常だが、何よりその質がヤバイ!
あの魔力に直接触れたら、たぶんその辺の上級魔族どころか、魔王状態になったハーデスちゃんでもタダじゃ済まない!
アルス、お前……。
この土壇場で、父ちゃんになんて隠し玉見せつけてくれるんだ。
いつそんな凄い技習得したんだ。
不覚にも父ちゃん、ちょっとだけワクワクしてきたぞ。
「まけ、ない……。ぼく、は、と、うさ、ん、の……、むす、こ……、なん、だ…………。…………。…………」
「ん? あれ? また気絶した?」
片言で決め台詞を言い放ったアルスは、なぜかその後に再び気絶した。
いったい、今の黄金の輝きはなんだったのだろうか……。
ちょっとよく分からないが、まあ……。
「まあ、アレだ。なんかよく分からんが、俺たちの知らないところでアルスは成長してたってことで、おっけー?」
「おっけーではありませんが、そういうことなのでしょう」
「う、うおおお……。ご主人よ、今のはさすがにチビりそうになったぜ……」
最後にそう言い残し、俺たちはこの場から転移するのであった。
なんやかんやあったけども、これにて辺境伯イベント最終試練、無事終了!!
次回からは魔王子編のエピローグになります。




