【061】ニヤニヤ笑いの下級悪魔
うおおおおお!
ハーデスちゃん凄い、やるじゃん!
魔王の系譜だって言っていたけど、あんな超変身遂げるなんて聞いてないよ!
下級悪魔もびっくりの大逆転劇だったね!
いや、まさか一度殺し切ったヴァンパイアが復活するとは思ってなくて、予想以上に子供達に苦戦を強いてしまったから、こりゃあまずいかなと思って出撃する準備を整えていたんだけど、なんだかんだ子供達だけで解決しちゃったねぇ……。
エイン君はあの時に踏み出せなかった一歩を踏み出す成長を果たしたし、聖女ちゃんは人類の期待を背負う者として、魔族相手にこれでもかという活躍を見せた。
それにアルスなんてパーティー全体を支える核みたいな存在だったし、そもそもアルスが居なければ子供達はずっと前に全滅していただろう。
うんうん。
子供達が力強く育ってきていて、保護者としても誇らしいよ。
「旦那様、そんなことよりアルスの怪我を! たとえ応急処置的に回復魔法を行使していたとしても、あの出血量では命に関わります!」
「うん、そうだな。よし、隠れているのに気づかれたことだし、そろそろ姿を現すか」
エルザが小声で叫ぶという器用なことをしてくるが、まあ、確かに出血多量に関してはその通りだ。
早く治療しないとこの後の俺たち三魔将との最終決戦に支障をきたすだろうし、さっさとエリクサーを渡してやるか。
「……ふん、ようやく出てきたな。その黒に染められた風体の三人組。そうか、貴様らがこのダンジョンの主が語っていた、三魔将とかいう奴らか」
「うむ。まあ、そうなんだが、とりあえずお前らはこのエリクサーで傷を癒せ……。今の疲れ切ったお前達では、この三魔将を相手どるにふさわしく…………、うぉぉぉ!?」
「ちっ、外したか」
ちょっと!
何すんのハーデスちゃん!?
せっかくエリクサーでボスイベント前の全回復をしてあげようとしているのに、先制攻撃は卑怯じゃないかな!?
俺じゃなかったら今の大怪我してたよ!
いまの魔弾の威力、そこらの上級魔族だったら瞬殺できるレベルのパワーがあったからね。
絶対殺す気だったでしょ、この娘。
「今の攻撃を躱すとは、存外しぶとい奴らだ。この我が魔界で知らない上級魔族か……。魔王軍三魔将と名乗るだけのことはあるようだな。もしや、父上が隠し持っていた切り札か? 四天王の他にこれほどの猛者を揃えているとは、聞いたことが無かったがな……」
そうそう!
たぶん、それだよそれ!
俺たちはそんな感じの設定でやっております!
ボロが出るので、深くは詮索しないでね?
「フハハハハ! ようやく気付いたようだな王太子殿下! だが、いかに殿下といえども人間共に肩入れしていると知った以上、タダで帰すわけにはいかんなぁ? ほら、エリクサーをやるからとっとと回復して、その力をこの俺に示して見せろ! 上手に健闘できれば、よしよしと褒めてやるぞ?」
ほれほれ、早くエリクサー受け取らんかい。
ええい、じれったい。
受け取らないならもう、エリクサー投げちゃえ!
ピッチャー振りかぶってぇ……、投げました!
ストラーーーーイク!
「うわわっ!? 変な瓶から綺麗な緑色をした液体が!? あっ、まだ治り切っていなかった傷が塞がっていく!」
「ちょ、ちょっと何よこれ! 気持ち悪いじゃないの! ベトベトなんか全然してないし、むしろサラサラして、なんだか魔力も体力も完全回復して……あれ?」
うん、素直でいいねアルスと聖女ちゃんは。
反論しているようで、それ全部エリクサーベタ褒めですよ。
まあ当然ですけどね、だってそれ、この俺が丹精込めて錬金したエリクサーだもの。
いうなれば、エリクサーDX。
本物よりも凄いよ?
「お、俺の失った腕が再生していく……。まさか、なぜ……。いや、そうか。あの暗黒騎士はまだ、俺たち人間をムシとしか思っていないのか」
違うよ?
「だからムシの足掻く姿を見たくてこうして煽っているわけだな。いいだろう。もう五年前の俺たちではないというところを見せてやる……! 今度こそお前を殺す、覚悟しろ暗黒騎士!」
違うけど?
でもいいぞ、その意気だ!
回復するまでもなかったハーデスを含め、全回復した子供達四人が俺たちに向けて新たに陣形を組んだ。
ほう、いい殺気だ。
最終試練として申し分のないピリピリとした気迫を感じる。
だが、そうだな……。
さすがに今の状態のハーデスちゃんを相手に、エルザとガイウスでは厳しいか。
であれば、ここは俺が一対一で相手をしてやるしかないだろう。
「いい面構えになったな。うむ、ではそこの殿下は、この三魔将のリーダーである暗黒騎士ジョウキューが相手をしよう」
「なに? この我に対して、たかだか上級魔族である貴様が一人で相手をするだと? 舐めるなよ……」
そう言ってギリリと歯を鳴らすハーデスちゃん。
怖い顔で睨まないでくれよ。
だってしょうがないだろう?
魔王として覚醒したばかりのハーデスちゃんと、下級悪魔として二千年もの間、地獄の公爵級悪魔とタメをはり続けたこの俺とでは、年季が違う。
どんなに強い魔力があろうとも、まだまだ力に振り回されてばかりで、その運用の方法をマスターしていない君なんて、俺からすればようやく卵が割れてヨチヨチ歩きができるようになったヒヨコみたいなもんだ。
SSS級を超えたEX級の次元からは、お互いの相性と力への理解度が何よりも重要だということを思い知らせてあげよう。
というわけで、覚醒直後のハーデスちゃんなど片手で捻ってくれるわ。
それになにより、本来であれば徐々に完成していくはずの肉体が、急激なパワーアップによって無理に覚醒状態になっていることに君は気付いていない。
その超変身、いったいどれくらいの時間維持できるのか、見ものだねぇ。
「そう思うならば俺を倒してみたまえ?」
「くっ……。その煽り方、どこぞの邪悪な人間を思い出すイヤらしい答え方だな。イライラするぞ。……いいだろう、まずは貴様から血祭りにあげてやる」
そうして睨み合う魔王ハーデスちゃんと下級悪魔。
そしてその背後に控えるは、暗黒の執行人エルデと、暗黒戦士ガイアース。
ようやくお互いに準備万端というわけね、よしよし。
「それじゃあ始めますか」
辺境伯イベント編、最終試練。
レディー…………、ファイ!!




