【054】キャットファイト
昨日、もしかしたら投稿できないかもといいましたね。
あれは、嘘です(`・ω・´)
訳:なんとか頑張れました。
アルスたちが帰ってきた翌日。
しっかりと休んだ子供組と、その子供組のおまけとして付き添う下級悪魔は、辺境伯軍が駐屯する訓練施設の一角にて騎士たちの回復に追われていた。
「はい、これで傷はもう大丈夫です! イーシャ皇女殿下の護衛任務、大変お疲れ様でした!」
「おお、これが噂に聞く神童アルスの実力か……。やはり凄まじいな。軽傷とはいえ、こんな一瞬で完治するなんて……。さすがに聖女様や剣聖エインが目をかけるだけはある」
そう礼を言うのは、これで五十三人目の軽傷患者である辺境伯軍のおっさん。
既にアルスのやつは重傷者を昨日のうちに治療し終えていて、朝からは残った軽傷者を凄まじい早さで完治させまくっていっている。
朝早くから始めたこととはいえ、まだ昼にもなっていない時間帯だというのに既に残りの患者の数は十人を切っているくらいだ。
これには同時に作業を始めていた辺境伯軍の回復魔法使いも、目玉が飛び出るほどに驚いていた。
まあ、それもそのはず。
確かに聖女ちゃんにくらべて、回復魔法の威力そのものは劣るアルスではあるが、魔法そのものの熟練度が肝になる回復魔法の行使スピードや、幼い頃から培ってきた魔力量に関しては他の追随を許さない次元にまで俺が鍛え込んでいるのだ。
伊達に生まれた瞬間から悪魔的英才教育を受けてはいないということだろう。
「いえいえ、僕なんてまだまだですよ。父さんがその気だったなら、きっと全員まとめて一瞬で治療が終わっていますし」
「ははははは! 冗談が上手いな神童アルスは。これだけの力を持ちながらも驕ることがなく、自らの父を立てることも忘れないときたか! しかし、カキュー殿も息子にこれだけ持ち上げられちゃ、立つ瀬がないだろうなぁ……。ちょっと同情するぜ」
そうだそうだ、もっと言ってやれおっさん!
悪魔は自分の肉体を再生することは大得意でも、他人を癒すことはけっこう苦手なんだぞ!
まあ、といっても、俺は例外だけどな!
とまあ冗談はさておき、おっさんがアルスの言っていることを冗談だと思うのも無理はない。
実際のところ俺はただポーションを配っているだけだし、魔法を彼らの前で行使したことすら無いのだから。
これで実力を見抜けるやつがいたら、そいつは一体何者だということになりかねない。
「はーい、並んで並んで~。傷が癒えたとはいっても、失った血や遠征で蓄積した疲労は完全に回復してはいませんよ~。造血・魔力回復・常時気力回復のリジェネポーションはこちらですよ~」
ま、しょせん俺の役目など今はこんなもので十分だ。
この場での主役はあくまで子供達。
彼らが自らの力で活躍し、そして問題を解決していかなければ何の意味もない。
それでもなお、もし俺に感謝するというのであれば、それはそれで勝手にすればいいんだけどね。
「あの、ありがとうございます、カキュー殿。お嬢様や俺たちの窮地を察しアルスを向かわせてくれたばかりか、こうして無償で貴重なポーションを配っていただけるなんて……。きっとお嬢様もすごく感謝しているはずです」
そう、こんな風にね。
「それはお互い様だよエイン君。君たちは優秀だが、それでも成人したばかりのエイン君と、まだまだ子供と言ってもよいアルスや皇女殿下が頑張っているんだ。これくらい、どうということはない。というよりもっと君達は、大人に甘えてもいいくらいなんだけどね?」
「ははは、やはりカキュー殿には敵いませんね……」
うむ、俺としても息子の親友が、君のように気遣いのできる青年でよかったよ。
聖女ちゃんの奔放ぶりには苦労するだろうが、これからもチームの年長者としてよろしく頼むよ。
まあ、次のダンジョン探索ではハーデスという劇薬もチームに混ざる予定だから、君の気苦労が休むことは当分ないと思うけどね?
噂をすれば、ほら。
「なんだとぉ!? おい、てめぇ! せっかくお前のために、俺様が効率的な魔法の使い方、魔力の運用のしかたを伝授してやってんだぞ! それなのに、なんか邪教徒特有の嫌な感じがするからやめろとは、どういう了見だ! やんのか!? おおん!?」
などとブチキレているのはプライドの高い王太子こと、ハーデス。
昨日の失態をちゃんと反省したのか、今日はしっかりと魔族特有の気配を消して聖女ちゃんの手助けをしようとしているみたいだが、なんだかんだで昨日の魔力を聖女ちゃんも覚えているのだろう。
今のハーデスから魔族の気配が感じられなくとも、ちょっとだけハーデスの魔力に苦手意識のようなものが芽生えているようだ。
とはいっても、それは魔力に限っただけのお話。
性格に関してはほんとうにもう、苦手意識どころか、相手をぶっとばしてやるとばかりに衝突が絶えない。
お互いに真っ向から睨み合い、女の本能として察した危機感で、アルスをこいつだけにはとられまいとライバル心を燃やしている。
「あんたの手助けなんて要らないわよ、この胸まな板女! こんなちっさい胸でアルス様を誘惑するなんて一億年早いわ! ちょっと魔法が得意だからって偉そうに! それと私の名前は、おいてめぇ、じゃないですー! ちゃんとイーシャっていう名前があるんですー! それに何よ、昨日からアルス様にベタベタしちゃって! わ、私だってアルス様からあ~ん、なんてされたことないのにぃいいい!」
お、おおう……。
聖女ちゃんも既に上っ面を脱ぎ去って、思いっきりヒートアップしてますねぇ……。
お互いにコソコソと陰口を言うような喧嘩スタイルではないため、常に正面からぶつかっているだけあって勢いが凄い。
まあ、下級悪魔的には遠目に見ている分には面白いからいいけどね。
「ま、まにゃ板おんにゃだとぉ!? ア、アルスが居る前でよくも言いやがったなてめぇ! 最近ちょっとだけ胸が膨らんだの、ずっと気にして隠してたのに! お、俺様の秘密をよくも暴いてくれたな……! こうなったら表出ろや女! 決闘だ!」
「上等だわまな板! そんなチッパイあってもなくても同じよ! 隠すまでもないわ!」
────ぶっ殺す!!
────ぶっ潰す!!
二人のバーサーク少女の声が重なり、周囲にぶつかり合う純粋な魔力のエネルギーが渦巻いた。
おいおいおい、そろそろやばいんじゃないの、君達。
そうやって昨日も喧嘩してたけど、これ以上エスカレートすると……。
「両者、そこまでです。思春期の女がアルスを取り合うのは大変結構ですが、自らの仕事にも集中できないような三流にあの子は釣り合いません。分かったら早く仕事に戻りなさい。それとも────」
────昨日のように、お仕置きが必要ですか?
そう底冷えのする声が二人に掛かり、いつの間にか現れていたエルザママからの凍てつくような殺気がこの場を支配したのだった。
「こ、こわ……。俺、エルザママにだけは絶対に逆らわんとこ……」
「同感ですカキュー殿……。というか、よくあの人と結婚しましたね……。どうやって口説いたんですか? 正直、尊敬しますよ……」
そんなアクシデントをちょくちょく挟みながらも、昼をちょっと過ぎたあたりで欠損者も含め全ての者が完治し、ようやく次の遠征へ向けた準備が整い始めるのであった。




