【053】ひとまずの帰還
本日二話目の投稿になります。
一時間前にいつもの0時投稿しているので、読む順番にお気を付けください。
本日はこれでラストです。
子供達を辺境伯軍のもとへ送りつけてから、三日。
その場で窮地に陥った者たちを、ピンポイントなタイミングで救出したアルスとハーデスが、ゆっくりと馬車で移動しつつも再び辺境伯領へと戻ってきていた。
結界を一気に壊したことで疲弊し、使い物にならなくなった聖女ちゃんを一度休ませるためだ。
そしてそもそも、なぜこんなちょうど良いタイミングで救出に成功できたのか、という点については、まあ当然俺が彼女らのことをミニカキューを通じて見張っていたから、というだけに過ぎない。
ああ、そろそろ結界が壊れるなという状況を見計らって、子供達を現地まで転移させただけのことである。
タネさえ割れてしまえばこんなものではあるが、しかし彼女らの目には何か運命的な繋がりが感じられたことだろう。
「いやはや、皆が無事で良かったよイーシャ皇女殿下、そしてエイン君。アルスもこんな場所で友達を二人も失ったとあっては、一生悔やみきれないだろうからね」
「お気遣いありがとうございます、カキュー様。実際、私も死を覚悟しました。未来を見通すかのように英断された、カキュー様の御判断へのお礼はいずれ皇女の立場としてお返しさせていただきたく、そして…………」
そんなことをつらつらと述べながら、いつ終わるのか分からないほどの長々とした礼を尽くし始める聖女ちゃん。
やっぱり、皇族というのは大変だね。
こうして助けてもらった他国の貴族に対して、ありえないくらいに礼を尽くさなくてはならないのだから。
「…………という理由から、厚かましいお願いではありますが、できればカキュー様の御子息であるアルス様のお力添えを考えており、また…………」
ほんと、俺自身は自由気ままな下級悪魔でよかったよ。
なんせ、聞き流しているだけでいいからね。
たぶんエルザママから礼儀作法の一通りを習っていて、退屈なことにも耐性のついているであろうアルスも同じ気持ちのはずだ。
その点、ハーデスなんて王太子殿下だし、きっとこんな状況にもずいぶんと慣れている気が……。
いや、そうでもないようだ。
「おい、いつまで肩の凝りそうな礼なんて述べてやがる女。クソ長ぇからさっさと終れ。うちの国でもそうだったが、居るんだよなぁこういうインテリ。俺様としちゃ、無駄に礼を尽くすくらいならこれからの態度で示せって思うわけだが……。お前、そんなんだからアルスにモテないんだぜ? 分かるか?」
ハーデスお前、言い過ぎぃ!
というか直球すぎぃ!
しかもこれ見よがしにアルスの肩に腕を回して、「まあ? そもそもこの男は俺様のモノなんですけど」アピールしながらとか、鬼畜過ぎぃ!?
いや、本人的には男友達の肩を借りておちょくっているだけで、その自覚はないだろうけども。
むしろアルスと仲良くなるためのアドバイスとして、それこそお手本を態度で示してやったんだろうけども。
その行為、「最近若干、男装した女の子にも見えるかな?」というくらいのオーラ放ってきた君がやったら、もう聖女ちゃんには致命傷だから!
やめてあげてぇ!
「なっ……! なっ……!? なぁっ……!?」
ほら、上っ面だけは完璧な聖女ちゃんですら、あまりにもあんまりな態度に大口を開けて目を剝いてるじゃないか!?
仮面剥がれてますよ聖女ちゃん!
「おう。そんなに驚くことか?」
「あ、あなたねえ!? この三日間常々思っていましたが、いったいアルス様のなんなのです!? それに助けていただいた手前申し上げませんでしたが、あなたの魔力からは濃い魔族の気配がします! もし邪教に手を染めて、アルス様をたぶらかそうとしているのであれば、容赦はしませんよ!?」
「はあ?」
うわっ、やばい!
聖女ちゃんに魔族の気配がガッツリとバレちゃってる!
しっかりしろよ魔界の王太子、この国に来る前にはこっそり魔力操作での隠蔽方法を教えておいただろ!
さてはお前、教国で一切バレなかったもんだから、聖女相手に油断してたな!?
なにやってんのよもー。
そう思いつつもバレてしまったものは仕方がないので、邪教徒どころか魔族本人であるという最悪の事態を防ぐために、俺の偽装した魔力でハーデスのやつを包み込む。
これで一先ずは身バレしないだろうけど、「はあ?」とかいっているあたり反省しているか怪しい。
というか、ハーデスからしてみれば既に、東大陸で出会ったばかりの俺たちに対して自己紹介をしているつもりなんだよな。
それで返ってきた反応が特に嫌悪感の混じったものではなかったからこそ、こうして人間相手に油断してしまっているのかもしれない。
確かにこれは、俺にも責任の一端はあるよなぁ。
仕方ない。
面倒くさいが、一々フォローを入れてやるとしよう。
「あっ、あれっ? 急に嫌な魔力の気配が、消え……?」
「む、これはおっさんの魔力か……。ちっ、そうか、この女見かけによらず鋭いのか……。そういや、おっさんが教国はヤベーってこと、念押しで言ってたっけ」
ふむ、ようやく聖女の危険性に気付いてくれたようでなによりだ。
この場面では、お互い小言で呟いているから周囲には聞こえていないようだが、俺のデビルイヤーにはハッキリと声が届く。
聖女ちゃんはハーデスから感じた嫌な気配が錯覚だったのかと目をこすり、ハーデスは自分の致命的な油断と、それを追及してきた聖女に舌を巻いた。
うん、いい傾向だ。
すると頃合いを見計らったこの場の支配人、ザルーグ辺境伯が手を鳴らして注目を集めた。
「さて、それでは皇女殿下も長旅でお疲れでしょうし、一旦ここはお開きにしましょうか。確か早馬で受け取った報告では、魔族に抵抗した騎士何名かが部位欠損クラスの傷を負っているとのことでしたね。移動中は応急手当しかできなかったでしょうが、この城であれば聖女様の御力を十分に発揮できるはず。……厚かましい願いではありますが、どうか彼らを救ってやってくださいませ」
そう締め括った彼は深く頭を下げ、部位欠損ですら時間をかけて癒すことのできる聖女の回復魔法に期待する。
「ええ。それはもちろんですドラシェード辺境伯。この私の安全を命を以て守り続けてきた騎士達ですもの。彼らに対してできることがあるならば、何よりも優先させていただきます」
「深く、深く感謝いたします……。しかし、皇女殿下は力をお使いになられたばかり、決して無理をさせるわけには……」
まあ、そうだよね。
元気なところを装ってはいるけど、実はめちゃくちゃ疲れてるもの。
それに、聖女ちゃんの実力なら欠損患者一人の治療につき、長くて二時間といったところかな。
軽傷者や、重傷であっても部位欠損以外の患者であればアルスの回復魔法でも十分対応できるだろうし、何より、どうしようもなくなったら俺がエリクサーでも錬金してやればいいだけのことだ。
辺境伯軍には三魔将の時に無茶をさせてもらったし、少しはここで借りを返しておこうではないか。
「ふむ。そういうことであるならば、息子のアルスを使えばいいと思いますよ。息子の回復魔法は優秀でね、欠損部位を再生できる皇女殿下ほどとは言いませんが、これでも得意分野の一つなのです。それに、私の手持ちにも高品質なポーションの在庫がかなりの数あります。気休め程度ではありますが、無償で対応させていただきますよ」
それを聞いた騎士たちは、聖女ちゃんが休みを取った後ではあるが、部位欠損という本来であれば絶望的な怪我すらも快癒できると知り、喝采を挙げたのであった。
うん、この分なら子供達がダンジョンアタックを開始するために、あまり時間をかけずに再出発できるだろう。
すみません、諸事情により、次の更新は一日お休みさせていただくかもです(`・ω・´)
頑張れたら頑張ります。
 




