【052】下級悪魔の報告と根回し
本日一話目の投稿になります。
また、急ではありますが、一時間後にもう一話投稿します。
話の流れとしてキリが良いところまでお楽しみくださいませ。
「この調子だと、結界を壊すまでにあと数時間ってところか……」
聖女ちゃんが辺境伯領へと旅立ち、二週間が経った。
恐らくもうそろそろ彼女らも現地に到着しているだろうと察した俺は、事情が気になっていて落ち着かないアルスの要望に応える為にも、ついに動き出すことにしたのである。
「うし、それじゃあ行くか」
「ようやくだね父さん! 僕、待ちくたびれちゃったよ!」
「ああん? 行くって今からかよおっさん。まさか、またあの転移魔法みたいな手品で移動しようってんじゃないだろうな?」
いや、そのまさかだ。
あと手品じゃなくて本物の転移魔法なんだがね。
というか実際に結果として転移できていたら、タネが手品だろうとなんだろうと同じことだ。
まあハーデスのやつは、俺が自分以上の力を持っていることを認めたくないらしいから仕方がないか。
それに、いちいち突っかかってくるこいつの言い分も理解できるのだ。
自らの父親である魔王、ひいては魔界の脅威となり得る、今まで出会ったことのないような想定を超えた力を持つ人間を恐れているというのは、魔族として当然のことだからだ。
父親のことをクソオヤジだのなんだのと言っていても、結局は血の繋がった家族。
もし両陣営が戦争になった時のことや、俺という個人が自分の家族の敵になった時のことを考えるといてもたってもいられないという、そんな焦りが実によく伝わって来る。
そのツンケンした態度に反して、本当はとても深い愛情を持つハーデスらしい純粋な答えだな。
俺は、こういうやつは嫌いじゃないぞ。
もし俺が同じ立場であったら、エルザやアルスを誰よりも優先して考えるからだ。
「な、なにニヤニヤしてんだよおっさん! ちっ、調子狂うぜ、まったくよ……」
「安心しろハーデス。今のところ、俺はお前の敵ではない」
「ふん、どうだかな……」
ホントホント。
できればお前とアルスが今後も末永く仲良くやってくれることを祈っているくらいだ。
その後、そんなやりとりをしつつ、国境付近に構えるザルーグ辺境伯本邸の前へと直接転移した俺は、この城の主であるザルーグ辺境伯本人に手厚く出迎えられたのであった。
「お待ちしておりましたぞカキュー殿。部下からの手紙では、そろそろ来る頃だと伝えられておりましたのでな。高位の魔族が暗躍する現状を鑑みて、一刻も早くお会いするために待機しておりました」
「そうか。それは迷惑かけたようですまないねザルーグ殿」
「なんのこれしき! こうして私どもに力添えなさってくれる恩人の為とあらば、このザルーグいかようにでも動いて見せますとも! はっはっは!」
そう笑うザルーグのおっさんであるが、デビルアイで透けて見える本音は「信仰」一色であった。
表向きには隠しているものの、このおっさん、いまでも俺のことを神だと思っているらしい。
だからこそこうして神の来訪を待ちわび、自らが俺をもてなすために待機していたのだろう。
全く、たかが下級悪魔を相手に大層なことである。
「ささ、それでは奥方様も護衛のガイウス殿も、そして子供たちも一緒に私の城へご案内いたしましょう。おい、そこの君! 彼らを最上位の客室へと通しなさい。私はカキュー殿と執務室で会議を行う。内密の会議故、決して誰も近づくな」
「は。承知いたしました」
そういってザルーグは俺以外のメンバーを別室へ通し、執事に案内させる形で別れさせた。
ちなみにこの場で俺だけが残っているのは、彼が依頼した暗躍の結果を直接聞くためである。
一緒に働いてくれたエルザ達には申し訳ないが、辺境伯としても教国の大貴族としての体裁を保つ必要があるだろう。
同じように貴族家の当主として周囲から思われている俺はともかくとして、他者の目があるこの場所で他のメンバーを対等に扱う訳にはいかなかったのだ。
そうして別行動となった俺は辺境伯本邸の執務室に移動し、そしてなぜかいきなり跪いてきたザルーグのおっさんを見て、溜息を吐く。
「差し出がましい真似をしてしまったことをお許しください、神よ。神には神の予定があると知りつつも、無能な私では高位魔族相手にはこうするしか選択肢がありませんでした」
「はあ……。お前も大変だなあザルーグ。それに許すも何もないし、逆に感謝しているくらいだ。今回の件では俺にも利があり、おかげで子供達の成長を促せる、いいきっかけになったんだよ。ありがとう」
深く謝罪する彼の忠誠を無視し逆に感謝を告げると、それを聞いたザルーグのおっさんは震え出し涙を流し始めた。
「いやいやいや、何泣いてんだザルーグのおっさん! 落ち着け! 落ち着けって! な?」
「くっ……。も、申し訳ありませぬ神よ。教国の問題を解決していただき、さらには勝手な都合で意見した私を許していただいたばかりか、むしろ神から感謝されるとは思っておらず……」
いや、マジでそういうんじゃないから。
このおっさん、根が良いやつなのは認めるが、いつも思うが過激すぎだ。
最初に出会った切っ掛けのアルス誘拐イベントでもそうだったが、有能なんだけどやり過ぎ感すごいよ。
いや、ほんと、間違いなく有能ではあるんだけどさ……。
「ほら、立った立った。いい歳したおっさんがみっともない顔してんじゃない。それに敵の上級魔族は殲滅したが、聖女に手柄を残す関係で、全ての問題を片付けたわけではないんだよ。それを今から説明する」
「ははぁっ!」
おう、気合十分だなおっさん。
ま、そうは言うが別に難しい話ではない。
ようはこの解決しかけている問題を聖女ちゃんの功績にさせる傍ら、未来の英雄たちの成長のため、ダンジョンをアルスを含めていつもの子供チームで探索させて欲しいというだけの話であった。
そうすることでこの功績は聖女ちゃんは勿論のこと、剣聖として名を挙げ始めているエイン君、そしてそのエイン君と完全に互角の戦いを繰り広げるアルスといった、未来ある若者たちが世界に羽ばたくための第一歩になるだろうからだ。
と、いうよりだ。
「何より、こういった理由以外にそもそもの話として、既にその辺の騎士や護衛では彼らの戦いのジャマだ。一部を除いて、実力が違い過ぎるからな。余計な足手まといを連れてダンジョン探索するよりも、子供らがチームを組んだ方が俺が残してきた中級魔族たちを相手取りやすい」
「ははあっ! 仰る通りでございます」
そう、あのダンジョンにはまだ中級魔族をかなりの数残してきている。
下級魔族が冒険者クラスB級上位に相当するとすれば、中級魔族はA級上位からS級中位くらいの力はあるだろう。
まあ、それも個体によってピンキリなのは間違いないが、凡そこのくらいの実力幅で計測できる。
そんな、人類で言えば最高位の冒険者の群れみたいなのを相手にできるほど、この辺境伯軍が精強とも思えない。
ついてこれる人材が仮にいたとしても、教国にとって重要となる聖女だけを優先して行動するような、チームとして信頼し合えない新メンバーなど肉壁にしかならん。
よって、探索は子供達だけで行うのがベストだという判断になる訳だ。
「なに、安心しろザルーグのおっさん。万が一の場合に備え、俺とエルザ、そしてガイウスのやつも後に続く。もちろんバレないようにな。……これで、凡その懸念は晴れたか?」
「ははっ! 流石は我が神。完璧な計画にございます」
「おう。じゃ、そういうことで根回しの方よろしく頼むわ」
これであとは用意しておいた録画の魔道具に、息子たちの冒険の思い出を記録していくだけである。
ちなみに、ザルーグのおっさんには言っていない事ではあるが、最後の最後でとびっきりの強敵を三人用意している。
しかしこの強敵を相手にするにはまだまだ子供達の実力が足りないので、今回の目的はあくまでも、五年前に現れたあの強敵にどれだけ自分達が近づけたのかを理解する、そんなイベントにするつもりだ。
「あ、そうそう。言い忘れていたが、俺の予想ではそろそろ聖女ちゃんが祠の結界を破壊する頃だろう。よって、さっそくで悪いが、俺はここでお暇させてもらうぞ。結界を破壊して油断した彼らがピンチに陥るのは、手に取るように分かるんでね」
「全て承知致しました。ダンジョン探索の根回しの件も含め、雑用はこの私にお任せ下さい」
「ああ、頼りにしているさ」
そう言って執務室を後にした俺は、結界の破壊という、一つ目の大目標を達成して浮かれているだろう辺境伯軍のもとへと、息子たちを連れて転移しに行くのであった。
次の投稿は本日の深夜一時になります。




