【050】下級悪魔による情勢解説
昨日は唐突な投稿をしてしまったので、読む順番にお気を付けください。
「なるほどね。ついに聖女ちゃんとエイン君は、辺境伯領に向けて移動を開始したのか……」
魔王軍三魔将とかいう、なんちゃって魔族が大暴れしてから二日。
新たなイベントの下準備に取り掛かり教国に滞在していた俺は、各地に散らばった分身ミニカキューからの情報を収集し終え、全体の考察をまとめていた。
世界各地で起きている問題や、細かい情勢を鑑みればキリがないので省くとして、主に現在アルスの周りで重要になってきているのはこの四つの思惑だ。
まず一つ目、辺境伯領問題。
次に二つ目、聖女イーシャちゃん問題。
さらに三つ目、ハーデス家出問題。
そして最後に四つ目、今後の魔族問題である。
一つ目に関してはなんちゃって魔族たちの活躍により、既に解決したも同然なのだが、それでも子供達のイベントとして表向きに派手にやったわけではないから、解決していることを知らないザルーグ辺境伯もまだ胃を痛めていることだろう。
だが、このコソコソと隠れて活躍したことそのものが、聖女の手柄を優先しつつも危険には晒したくないという辺境伯個人の思惑として機能しているので、その胃の痛みにはしばらく耐えてもらおうと思っている。
これは俺を裏で動かす以上仕方のないことであったからだ。
ただ、本来は今日開かれる予定であったアルスとエイン君の模擬戦が白紙になった以上、その理由が気になったアルスは友達を追って辺境伯領へと向かおうとするだろう。
そうなれば自然と俺がザルーグ辺境伯と面会する機会も生まれるはずなので、秘密裏に問題は解決しておいたことを告げてやればいいと思っている。
まあ、一つ目はもう流れに身を任せておけばいい感じだな。
で、二つ目の聖女イーシャちゃん問題について。
これに関してはあくまでも、俺の経験則からの見解が主体になるが、彼女はいま教国にとって利用価値があるかどうかの岐路に立たされているといってもいいだろう。
当然、聖女の回復魔法は優秀で、肩書きも合わせれば決して無下にできる存在ではない。
しかし、今回聖騎士たち神聖魔法の使い手が結界に手も足もでなかったように、もし仮にここで聖女の力ですら通用しないとなれば、水面下で波紋が広がることは必至だろう。
教国の信用はガタ落ちし、聖女という存在そのものが、本当に魔族に対抗できうる存在なのか疑問視される結果になるのは目に見えている。
下手したら、聖女の力すら通用しない強大な力を持つ魔族に恐怖した扇動者が、内乱になるよう暴れ出す可能性もあるくらいだ。
まあ何度も言うが、経験則からの予想でしかないけどね。
ただしそう間違っているとも思えない。
もちろん、まだ聖女イーシャちゃんはたったの十歳。
成長期である彼女はその力が完成しているとはいえず、まだまだ伸びしろはある。
だが、人間っていうのはそれで納得できるほど単純な生き物ではないからな。
ここで功績をあげられるかどうかが一つの分かれ道だというのは、間違いないだろう。
「まあ、イーシャちゃんやエイン君だって、そんなことは百も承知だろうけどな……」
やんちゃなように見えて、実はかなり賢い聖女ちゃんのことだ。
デビルアイに映る感情の揺れ的には、既に彼女自身もそのことを理解していて動いており、これが重大な責任を伴うミッションだと知って覚悟を決めているように見受けられた。
きっと、憧れの人であるアルスや、誰よりも信頼しているエイン君に相応しい女になろうとしているのだろう。
こんなところで躓いていられないと思っているはずだ。
頑張れ、下級悪魔は君を応援しているぞ。
でもって、お次はハーデスの家出問題なのだが、これは少々ブラックボックスに包まれている。
まず俺はこの世界の魔界や、その頂点に立つ魔王という存在をよく知らないし、本人に出会ったこともない。
ハーデスの父親である彼が、どういった目的で我が子の家出を認めているのか、そして父親のみならず周囲の魔族は王太子の家出をどう思っているのかで、だいぶ状況が変わるからだ。
ただしハーデス本人には全く悪意が見受けられず、むしろ毎日のようにアルスのイケメンオーラに中てられて、脳みそトロトロにされているくらいの頭ハッピーガールである。
本人の個性としても基本的には真面目で努力家であり、多少尊大なところはあるものの、それが理由で無意味に他者を傷つけることもない。
まあ、とりあえずは問題ないといっていいだろう。
「で、最後に魔族問題に関してだが……。これはもう手遅れだな。どこかで人類と戦いになる未来しか見えない」
魔界の王太子であるハーデスには悪いが、もう本当に手遅れだ。
世界各地に散らばったミニカキューからの報告でも、地上で暗躍する彼ら魔族は人間のことを虫、もしくは食料としてしか見ていない。
過去の勇者が魔王を討伐した影響によりしばらく平和が続き、今の時点でどんなに均衡を保っているとはいっても、こんな思想を持っているやつらがこのままでいる訳がないからだ。
相手は人類と話し合いなど求めていないだろうし、人類も捕食者に対し融和的になれるほど余裕がある訳でもない。
つまり、戦争は避けられない。
詰み、というやつである。
もはや魔族が滅びるか、人類が滅びるか、もしくは両者陣営におけるどちらかの代表が倒れ決定的なダメージを負うか、それしか解決方法はないだろう。
「だが、こんなことを子供達に言えるわけがない……。どうしたものかな……」
息子のアルスはハーデスをかなり気に入っているし、とても信頼している。
でもって、ハーデスの方も魔族の王太子でありながら、珍しく人類に対し理解がある感性と、なによりアルスに対する愛が芽生えているんだ。
そんな二人に対し、お前らもうどうにもならんぞ、なんて伝えられるはずもない。
本当に困ったな……。
「ま、とりあえずこの問題は棚上げだな。そもそも俺の能力は万能ではあるが、決して全知全能ではない。解決の糸口が見つかるまで、これからも地道な調査を続けていくとしよう……」
そう決意した俺は目をつむり、エルザママが叩き起こしにくるまで二度寝を決行することにしたのであった。
なんか、気付いたら50話でした。
めでたい。




