【049】ついに三魔将とやらが揃ってしまう
また、急に投稿したくなったので、投稿します。
【本日2話目】となっているので、読む順番にお気を付けください。
カキューが謎の男と居酒屋で飲みかわしたその日の夜。
教国に取っていた最高級宿屋をこっそりと抜け出した大人組は、こそこそと蠢き怪しい行動を見せていた。
「よし、子供たちは寝静まったな……」
「ええ。食事には安全な睡眠薬を混ぜておきましたので、しばらく目が覚めることはないでしょう」
「でかしたぞエルザ。やはり出来る女は違うな」
「違いますよ旦那様。今の私は暗黒騎士と魔王軍での出世争いを続ける魔王軍三魔将の一人、暗黒の執行人エルデでございます」
「おっと、そうだったそうだった」
そう答えるのは熟睡している子供達の安全に備えて防御結界を展開する下級悪魔と、睡眠薬を盛り眠りにつかせた張本人である元最上位暗殺者、エルザである。
二人の装いは、片やいつしかみた魔王軍三魔将上級魔族のジョウキュー。
片やその暗黒騎士鎧と元からセットだったかのようにあつらえられた、漆黒の暗殺装具を身に纏う暗黒の執行人、エルデのものとなっているようだ。
「しかしよぉご主人、いくら子供達の安全を確保しつつも試練を与える為とはいえ、ここまでする必要があるのか? 俺はご主人が巷で噂の暗黒騎士本人だって聞いた時には、心臓が止まるかと思ったぞ……」
最後にそう呟いたのは、全身が金属鎧である暗黒騎士とは少し趣向の違う、ところどころが黒い布や皮が目立つ、戦士としての動きやすさを重視したガイウスであった。
「何を言うんだ、君も既に魔王軍三魔将の一人、暗黒戦士ガイアース殿ではないか。俺は君の主人などではない」
「お、おう……。すまねぇ……」
自分が言ったことは当然の疑問だと思いつつも、この夫婦の感性がズレているのは今に始まったことではないと知っていたガイアースは、とりあえず謝る。
彼は知っていた。
別に悪いことをしているわけではないのだし、なにごとにも折り合いは大切であると。
ただ、ちょっとこの夫婦は実力も考え方もぶっとんでいて、独特なだけなのだと、そう思うことにしたのである。
「それでは準備が整ったようなので、目的地である辺境伯領へと転移するぞ。俺が事前に調査したところによると、敵は魔界の上級魔族であるヴァンパイアだ。こいつは魔王の命令で動いているのではなく、独断で人間をゾンビにして奴隷を増やし、村から人を攫って食料として魔界に運び出しているらしい」
まったくもって、魔王軍三魔将の一人としては看過できぬ問題だと、そう真面目な声色で語るジョウキュー。
もはや本人は暗黒騎士に完全に成りきっているらしい。
しかしその情報とやらは間違いなく正確であり、今回の騒動の正体でもあった。
「この短期間でそこまでの情報を掴むとは、さすがはジョウキュー様でございます」
「よせやい。暗黒の執行人エルデ殿にそこまでいわれちゃ、照れるじゃないの」
「ふふっ。では、もっとあなた様が照れるよう褒めちぎってさしあげましょうか……」
「おいおい、いまはノロケている場合じゃないだろお二人さん。さっさと行かないと日が昇るぞ」
そんなコントを繰り広げつつも、ちょくちょく話が脱線しながら三魔将は目的地へと転移を開始する。
ちなみに彼らの予定では子供達が目覚める朝までに上級ヴァンパイアだけを始末し、残った部下の者は放置して何食わぬ顔で帰宅する予定であった。
元々は依頼された聖女が解決するはずの問題なのだから、子供チームだけでなんとかできる程度の課題は残しておかなければ、本末転倒だったからである。
そうして下級悪魔、もとい上級魔族のジョウキューが転移した先は辺境伯領から三日ほど離れた村の祠前であった。
祠には不死者の力場がこれ以上広がることを恐れた騎士たちによる、厳重な警戒網が展開されているのが見て取れる。
そして当然、バレる。
「なにっ!? 怪しいやつらが急に!?」
「な、何者なのだお前たちは! この祠は現在封鎖中であるのを知っての狼藉か!?」
故に、当然のように急に現れた三魔将の姿に動揺する騎士達。
彼らからしてみれば、この怪しげな結界が展開された危険地帯である祠に、いきなり全身黒装備の珍妙なグループが現れたのである。
もはや何が起きているのか、意味不明もいいところであった。
しかし三魔将のリーダーである暗黒騎士は、それすらも織り込み済みであるといった風体で、少しの動揺も見せることなく淡々と言葉を紡いだ。
「我らは魔王軍三魔将。今回この祠の主が魔王軍の規律を乱したため、粛清に参った。悪いがそこを通してもらおうか」
「なんだと!? 馬鹿な。なぜ五年前に聖女様に呪いをかけた魔王軍三魔将が、ここに……!」
「フン。やはり話は通じぬか。雑魚は引っ込んでろ。────眠れ!」
「ぐぁっ……」
暗黒騎士がそう呟き圧倒的な魔力を魔法に込めると、その場にいた騎士たちが一人残らず地に伏せていく。
どうやらあまりの魔法の威力にレジストできず、一瞬で決着がついてしまったらしい。
だがそんなことを気にした様子すら見せず、彼らは祠の前に辿り着く。
「う~ん。なんかこの祠、確かに妙な構築で魔法結界が展開されているな。ふむ、ここをこうして、ちょちょいっとな……。お、開いた」
「おいおいおい。開いた、じゃないだろうごしゅ、じゃなくてジョウキュー。それ辺境伯軍と聖騎士のやつらではどうにもならなかった結界だろ? なんで見てから三秒で開錠してんだ……」
そう言うガイアースではあるが、本当のところジョウキューはもっと異常なことをしていた。
というのも、彼はこの結界を「壊す」のではなく、「自分たちだけが通れるが、壊れない」状態で魔法を改竄したのである。
それは上級魔族の展開した魔法に対抗する手段としては、あまりにもありえない事態ではあったが、まあジョウキューに何を言ってもいまさらである。
本人としては、この結界を破壊する聖女ちゃんの手柄も残しておいたほうがいいだろう、という程度のものだったに違いない。
「はてさて、それじゃあそろそろダンジョン探索だ。鬼が出るか蛇が出るか、たのしみだな~」
「ええ。私も久しぶりに腕が鳴ります。アルスとハーデスには申し訳ありませんが、今回だけはおいしいところを頂いて行くとしましょう」
ノリノリな感じでダンジョン探索を開始した二人と、若干ノリについていけていない一人は歩を進める。
果たして彼ら大人組の暴力に晒され始めた、この哀れなダンジョンの主の命はあと何時間の運命なのだろうか。
それは神のみぞ知る、と、いいたいところであるが────。
────騎士達が昏倒してから二時間後。
夜にトイレ起きしたとある村人の証言によると、立ち入り禁止となっていた祠からは、どこからともなくバケモノの断末魔が聞こえたのだという。
しかし、祠の結界に傷一つついていないことが確認されてからは、眠りこけていた騎士達が見た光景も、村人が聞いた断末魔の叫びも、全てが夢かなにかであったと認識されたのであった。
次の更新は、深夜0時です。




