【040】アルス十歳、運命の出会い
本日三回目の投稿となります。
十歳。
それは一つの節目。
十四歳で成人を果たすこの世界において、残り僅かとなった少年期の、そのおおよそ中盤ともいえる時代だろうか。
この頃になるとしっかりと自分の意見や考え方が芽生えはじめ、ちょっと大人びた感じを演出したくなる、そんな年頃だ。
例えば、いままで「お父さん」や「パパ」と呼んでいた我が子がいつの間にか急に「父さん」とか、「オヤジ」とか呼び始める、そんなちょっぴり寂しい気持ちになる経験を味わう者もいるだろう。
そう、絶対にいるはずだ。
なぜなら、たったいまその経験を俺が味わっているのだから。
「究極戦士覚醒奥儀スーパーデビルバットアサルト! ……よしっ! これでキングワイバーン十体目! 父さん! いまの動きどうだった!?」
「うむ。よくやったアルス。なかなか戦士としての動きが上達しているぞ。だが、まだまだデビルバットアサルトの制御が甘い。それでは反動ダメージを完全には殺し切れないだろう。よって、これからも精進あるのみだな」
などと、意味の分からないレベルで急成長を遂げる我が息子の前で、その成長率に対する困惑を隠すため、腕組み師匠面でテキトーなことをのたまうは下級悪魔ことこの俺、アルスの父親カキューである。
いや、だっておかしいだろう!
キングワイバーンって冒険者ランクで表現するとS級のモンスターだぞ!
S級って、奴隷商で購入したばかりのガイウスと同じくらいの強さなんだぞ!?
それをいくら襲い掛かって来たからといっても、気軽に同時に十体って、なにがどうしたらそうなるんだ……。
しかも、ほんのちょっと五年前までは、武術大会の決勝でA級のエイン君とペチペチやり合っていた、あんな小さかった我が息子様だぞ?
それがもうS級のバケモノをばったばったとなぎ倒すとか、立派になりすぎてお父さん困惑するわ!
この世界の子供、絶対に成長率がバグってやがる!
それになんだ、父さんって!
アルスお前、昔は父ちゃんのこと、「お」父さんって言ってくれたじゃないか!
俺は寂しい、寂しいよアルス!
でも、それ以上に嬉しいから許しちゃう!
「へへ。やっぱり父さんの目から見たら、僕なんてまだまだなんだ……。うん、もっと修行あるのみだ! これからもご指導のほど、よろしくお願いします!」
「あ、ああ……。うむ。そ、そうだな。しかし、デビルバットアサルトをここまで極めるとは、正直思わなかったぞ。い、いや? まあそれも父さんの想定内なんだけどな! ははは!」
はい、ダウトー!
見栄をはって嘘つきましたー!
そんなわけありませーん!
人間には適性のないはずのデビルバットアサルトを、ほとんどノーダメージでマスターしてくるとか、完全に父ちゃんの想定を超えてまーす!
この十年前に拾った我が子が、本当に人間なのか、ぶっちゃけ疑ってしまい精密検査したことは何回もありまーす!
と、いうわけでね。
どうも、この五年間にかれこれ様々な冒険を積み重ね、最近では人跡未踏の東大陸で修行を開始できるほどに強くなった可愛い可愛い息子のアルスたん、ついに十歳になりました。
ワーワー!
ヒューヒュー!
おめでとうアルス!
「しかし、お前も強くなったなアルス。いまならもう、ガイウスといい勝負もできるんじゃないか? ……いや、奥の手を使えば、勝てる見込みすらあるぞ」
「う~ん……。でも、僕はまだエインとの模擬戦で勝ち越せていないから。ガイウスに挑戦するのは、そのあとかな。きっとガイウスなら、僕がこうしている間にも日々鍛錬を積んで強くなっていると思うし」
いやまて。
お前の友達を基準にガイウスの戦闘力を計算してはならん。
既に十五歳となり成人し、いつの間にか剣聖の道を歩み始めているエイン君も色々な意味でバグだからな?
そんなヤバい天才である二人のインフレバトルにガイウスを加えたら、あいつ、しまいには泣くぞ。
確かに今なら互角くらいのパワーバランスで成り立っているが、この成長速度を維持して行けば、明らかにあと一年も経たず実力を追い越してしまう。
もうガイウスは十分頑張ったんだ、そっとしておいてやってくれ……。
「確か、エイン君との模擬戦は、999勝999敗、一引き分け、だったか」
「うん。まあ、その一引き分けは初めて戦った武術大会で、エインが納得しなかったから妥協点として設けた数字だけどね。実際は僕の1000敗、かな」
てへへ、と頭を掻くアルスはそれでもちょっと嬉し気であり、友達が自分に相応しい者である喜びをとても強く感じているのだろう。
まったく、いつのまにこんな戦闘狂になってしまったのやら。
「それはそうと、今日はここで野営訓練だったよね! 僕、薪を拾いにいってくるよ!」
「おう、いってこい。それじゃあ父さんはここで料理の準備しとくから」
そう言って調理器具を取り出し、鍋をぐつぐつと煮ながらキングワイバーンのシチューを完成させていく。
うむ、最近はこうやって野外実習をすることも多くあり、大昔の一人暮らし地獄の悪魔時代に培った料理スキルを発揮する場面が多々ある。
アルスを拾ってからというもの、ずっとエルザやガイウスに家事全般は頼りきりだったから、こういうのもちょっと新鮮だな。
そんなことを考えて二人分の器にシチューを注いでいたころ、野営用の薪を追加で取りに行っていたアルスが猛スピードで駆け戻って来るのを感知した。
む……、何かあったのかな?
「どうしたアルス? なにか珍しい生き物でも捕まえたか?」
「うん、ちょっと珍しい生き物が……、じゃなかった! 違うよ父さん! もっと大変なことになった! 赤い髪の男の子が! 男の子が!」
「どうした、そんな慌てるなんて珍しいなアルス。しかし、もうちょっと落ち着いて話せ」
いつも冷静なアルスにしては珍しく、やけに慌てた様子で必死に何かを伝えようとしている。
赤い髪の男の子が、なんだって?
「それが、落ち着いている場合じゃないんだよ! 赤い髪の男の子が、そこで行き倒れてた!!! なんていうか、いまにももう死にかけで!」
な、なんだってーーー!?
いやまて、冗談を言っている場合じゃなく、それは本当に緊急事態だな。
この人跡未踏の東大陸のど真ん中で、男の子が行き倒れているなんて普通じゃない。
しかも既に死にかけているときた。
こりゃあ、なにはともあれまずは救助に向かわないとな。
「男の子はどっちだ?」
「こっち! なんか苦しそうな声で、水が飲みたいとか、家出したからにはオヤジにだけは泣きつかねぇ、俺様は負けん、とか言っているよ!?」
「本当に謎だなそいつ!?」
いったい何が起こっているんだ。
こんな場所で家出もなにもないだろ。
本当に人なのだろうか、そいつは。
ちょっと怪しくなってきた。
感想や評価、ブックマーク、レビュー等あると、とてもモチベーションに繋がります。
 




