【028】ガイウスの奥儀
前回、朝方に一度余分に投稿していたので、読む順番にお気を付けください。
教国最強の聖騎士と竜装具を纏いし超戦士、壮絶な戦いを繰り広げ雌雄を決するは闘技場。
そんな両者の姿が猛スピードで複雑に交じり合い、聖騎士が放つ銀色と超戦士の放つ水色の剣閃によって華やかに彩られていた。
この武術大会では身体強化以外の魔法が禁止となっている為、本来は色による華やかさとはかけ離れた戦いになるはずなのだが、超一流の武術がぶつかり合うとこうも美しいものなのかと感心する。
「やるなぁ、聖騎士団長とやら。あのガイウス相手に一歩も引いてないどころか、むしろまだ余力を残しているぞ」
「はい。……正直、予想以上の強さです。私でも真正面から戦えば命は無いでしょう。もっとも、暗殺の対象として命を狙うのであれば、その限りではありませんが」
まあ、そりゃそうだ。
もともと暗殺者と武術家では想定される戦場が違う。
エルザが暗殺者としてS級の強さを持っていたとしても、戦士としては良くてA級。
様々な場面を想定して総合的なランクを求めるのであれば、暗殺者の長所と戦士としての短所を考慮して、総合評価A級上位といったところだろう。
だが、それを踏まえてなお、あの聖騎士団長の強さは常軌を逸していた。
なにせガイウスと同じ戦士としての力量を試すこの舞台で互角なのだから。
当然まだお互いに余力は残しているだろうけども、それでも聖騎士団長ともなれば武術一辺倒という訳でもないはずだ。
多少の回復魔法しかり、その他属性魔法しかり、この武術大会のルールでは出し切れない強さというのも必ず存在しているはず。
であるならば、全力の彼の力はいったいどれほどであるのか、ということになってしまう。
いやはや、人間としては破格の存在だな。
だからこそパワーやスピードもさることながら、両者の間に壮絶な技術が垣間見えることが素人目にも分かるのだろう。
まだまだ予選が終わったばかりである子供の部の休憩時間を利用して行われた、武術大会大人の部、その決勝戦は二人の戦士が戦う覇気に呑まれて静まり返っていた。
「いや~、見ごたえあるねえ」
「そうだねお父さん。僕よりも強いガイウスと同じ土俵で互角だなんて、すごいや」
そう答えるは無事に予選を突破して決勝トーナメントへの切符を勝ち取った我が息子、アルス。
対戦相手がろくでなしという訳でもない為、この試合に対し本気を出せるのかと心配したのだが、全くの杞憂だったようだ。
どうやらアルスの中では試合は試合として処理されているらしく、いつもガイウスと組手する要領で相手の子供を次々と負かしていった。
俺も時々二人の組手を庭で見ていたのだが、なかなかどうして、戦士としての心構えはしっかりとできていたようである。
まあ、師匠としての俺はアルスに対して、錬金術で生産された謎の秘薬や魔法による基礎能力値の向上、そして悪魔としての知識から伝えることのできる特殊技能の伝授しかやってこなかったから、こういう戦いの基本的なことはエルザやガイウスに任せきりだった。
だから今回は特に、その教育の成果が見れたのが嬉しくもある訳だ。
「おっ、ガイウスのやつそろそろ勝負を決めに行くみたいだな。技名は特にないけど」
雑談しているうちに、いつの間にかガイウスの纏う空気感に変化が訪れていた。
技名は特にないのだが、確かあの構えは俺が施した悪魔的特訓によって得られた、ガイウスの必殺技の一つだな。
「ええ、そのようです。そして、あの構えは確か……」
「いや、言わなくていいぞ。技名は特にないんだ」
許してくれエルザさん、あれは酔った勢いでつい口走っただけなんだよ。
決して、本当に決して昔読んだマンガを見て思いついた訳じゃないんだ。
許して。
「あれはお父さんから教えてもらった必殺技その二の型! 究極戦士覚醒奥儀スーパーデビルバットアサルト! ……の構えだね!」
言っちゃったーーーー!
息子様がテンション爆上げで思いっきり口走っちゃったよ!
そ、そんなキラキラした目で叫ばないでっ!
下級悪魔の羞恥心はもう粉々よ!
「ええ。確かにあれは、究極戦士覚醒奥儀スーパーデビルバットアサルト。……の構えのようですね」
「やめろ! やめてくれぇ!」
「どうしたのです、旦那様?」
分かるだろ!
黒歴史なんだよ!
なんでエルザまでノリノリなんだ!
いや、違ったわ!
この世界の人はみんなこの名前に羞恥心とか持たないんだったわ!
だって、人間が使う魔法の詠唱とかもっとゴリゴリに厨二臭いもんね!
そりゃ、エルザも真剣にそういう奥儀なんだと思ってしまう訳だ!
まあ、現実から目を背けるのはこの辺にして、実際デビルバットアサルトはとてつもない奥儀だ。
その神髄はただの身体強化の延長でしかないといえばそこまでなのだが、肝心な強化率が半端ではないといえば意味が伝わるだろうか。
そもそも、元来身体強化というのは体内に流れる魔力を血液のように循環させ、筋力の補助となる疑似筋肉を作りあげ、ついでにその心肺機能の働きを向上させるのが身体強化という魔法技術の正体である。
ようするに、一種のパワードスーツと概念は同じだ。
よって、この疑似筋肉の強度や精度を上げていくことで身体強化としての練度が人によって変わっていくのだが、俺がガイウスに伝授したデビルバットアサルトは、その基本概念を根底から覆す。
なんとこの奥儀、補助のための疑似筋肉どころか「疑似細胞」の段階にまで踏み込み、人間の身体そのものを魔法生物として見做して稼働させるのだ。
幼少期から母乳の代わりに魔法液を摂取していたり、その後も俺の魔改造を次々に受けているスーパー五歳児であるアルスは別として、本来人間ができる技ではない。
これは死んでも力を半減させて生き返ることのできる悪魔を含め、殆ど肉体が魔法に近い生物である精霊や天使といった超常の者たちが使う技術なのである。
完全に、人には過ぎたる力だ。
本当だったら俺も教える気は無かったし、なんなら習得できるとも思っていなかった。
「だが、あいつはやり遂げちまったんだよなあ」
「すごいよねガイウスは! 僕だって、できるようになったのは三歳から鍛えて、二年もかかったのに!」
そう、ガイウスのやつは魔改造五歳児であるアルスが二年の時を要して完成させたこの奥儀を、さらに短期間の一年半で完成させたのだ。
つまり使用人として彼を購入してから魔族との決戦までの期間、ずっとこの奥儀の再現に鍛錬の時間を費やしていたという訳になるのだが、それでも凄い。
アルスは別にこの技だけに集中して訓練を施していたのではないとしても、本来技に適性の無い人間が一年半で習得など、正気の沙汰ではない。
たとえそれが、この技の使い手である俺による正確な指導の成果であったとしても、である。
だが、当然適性の無い人間が無理にこの技を使うのであるから、そうお手軽には使えない。
負担が大きすぎるのだ。
「さて。ここで勝負を決めに行くという意志は伝わったが、聖騎士団長はどのタイミングで攻略法に気付けるかな。仮に気づけなければ、そのまま負けるわけだが……」
「時間との勝負、ということですね……」
「その通りだ」
いわば、この大技は諸刃の剣。
使えば超人的なパワーアップが行える代わりに、適性の無いガイウスが無理に使えばその肉体を傷つけ続けることになってしまう。
戦いが長引けば長引くほどにダメージは蓄積し、いずれ攻撃していたはずのガイウスが倒れる結果になるだろう。
まあ、普通はそうなるまえに一瞬で勝負は決まるんだけどね。
はてさて、この試合どうなることやら。
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