【025】初めての邂逅
「なんだぁ? このガキは? ははははっ! おいお前ら、なんだか知らんが獲物が増えたぞ!」
「ああ、今日の俺たちはツイてるぜ! こんだけ身なりのいいガキを三人も売りさばけば、しばらくは遊んで暮らせる!」
えー、みなさんこんにちは。
どうも、アルス見守り隊名誉会長のカキューです。
現在、我が一家の期待の星、息子のアルスが皇都のゴミ掃除に向かっていったところだ。
この絶妙なタイミングでピンチになった女の子を助けに向かいに行くとは、我が息子ながらあいつもなかなかどうしてプレイボーイだなぁと、しみじみ思うね。
前世では全くモテなかった父ちゃんが育てたとは、到底思えないイケメンぶりである。
ちなみに。
そもそもこうなった原因はだいたい察しがついている。
察しはついているが、あえて口出しはしまい。
実力から言ってあの少年が例の剣の申し子なんだろうなぁとか、その少年が護衛しているくらいの幼女だから、あの子は聖女なんだろうなぁとか、そんな無粋なことは言う必要はないのである。
アルスが自分の意志で行動し、助けに行ったという事実そのものが重要なのだから。
「それにしても教国に滞在して二日目になるが、そろそろ聖女五歳の誕生パレードがはじまろうというこのタイミングで、ここぞというイベントを引いたなあいつ」
まるで世界に愛されているかのような運命力だ。
聖女のピンチに駆けつけそれを助ける英雄となると、まるで勇者だな。
いやぁ、我が息子ながら凄まじい。
「当然でございます、旦那様。私たちのアルスを見くびってもらってはこまります。しかし、あの少年は……」
「ああ、そうだな。あの少年が武術大会に出るとなると、いまのアルスの力で必ず勝てるとは断言できない程の実力を持っている。正直、予想以上だよ」
う~む。
いくら二人の間に年齢差があるとはいえ、まさかアルスに迫るレベルの子供がいるとはなぁ。
いやはや、世界は広い。
だが、これでもし二人が決勝で戦うことになるのであれば、これ以上ない程の経験になるはずだ。
あわよくば、アルスとあの少年が友達になってくれればいいなと思わなくもないが、まあ、それは本人の意志次第であろう。
と、そんな事を考えている間にもアルスのゴミ掃除が終わったようだ。
近くにあったゴミ捨て場のバケツに暴漢共の頭をつっこみ、お片付けをやり切った表情でニッコリとほほ笑んだのであった。
「す、素敵……。カッコ良すぎるわ……」
「おさがり下さい、お嬢様。まだ脅威は去っておりません」
「え?」
暴漢共をバッタバッタとなぎ倒したアルスの大活躍に、聖女であろう女の子は顔を赤らめ、そして少年の方はこれ以上ないほど警戒色を強めた。
まあ、そうなるよね。
いくら暴漢共から助けたように見えたといっても、突然乱入してきた謎の人物に、護衛が心を開いたらおしまいだ。
そんなことしていたら、なんの護衛にもなってないからね。
女の子の方は状況が呑み込めていないのだろうけど、この少年の判断は間違いなく正しい。
よくぞこの年齢で大事な判断を間違えずに選択できるなと、感心するレベルである。
ただまあ、アルスは別に彼女らに用があった訳ではなく、ただ人を襲おうとしていた暴漢のお掃除をしたかっただけだ。
そんな警戒しなくとも、やることをやった以上無言で去っていくだろう。
だがそんなことが彼ら彼女らに伝わる訳もなく、満足気な顔で去ろうとしたアルスにビクリと肩を震わせた少年は、腰からその剣を抜いたのであった。
「ほう。あの少年、アルスの実力をある程度見抜いているね。やるなぁ」
「そうだなご主人。戦士としても隙のない、見事な立ち振る舞いだ。見込みがある」
うんうん。
ガイウスもやはりそう思うか。
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと! エイン! あなた恩人になんてことを!?」
「もう一度言います。おさがり下さいお嬢様。この少年は危険です。……危険なのです!」
「なっ、なっ……」
いきなり腰から剣を抜き、油断なくその切っ先を構え冷や汗を流す少年に、口をパクパクさせ唖然とする女の子。
まあ、事情をしらなければ驚きもするだろうね。
傍目には助けてくれた恩人に対し、自らの護衛が剣を向けているという構図なのだから。
ただ、少年の方は実力が分かっているからこそ警戒しているのだし、そうであるからこそ、アルスが勝手に去ってくれるのなら絶対に手出しはしてこないだろう。
むしろ諸手を挙げて歓迎するはずだ。
なので、女の子が気にしているような事態にはならないし、安心して欲しいものである。
だが何を勘違いしたのか、女の子の方は斜め上の予想をしてしまったようだ。
その勘違いにニヤリと笑った女の子は佇まいを正し、ねっとりとした笑みで護衛の少年に声をかけた。
「はは~ん? エインあなた、さてはやきもちを焼いているのですね? うふふふ、分かりますよ。この私の前で見せ場を取られてしまったのですものね。大丈夫よエイン。私はあなたを正しく評価しております。ですが、それとこれとは話が別なのです」
いや、急に貴族っぽくなったねあの女の子。
先ほどまでのお転婆っぷりが嘘のようだ。
五歳の時点でこの上っ面を整えられるとは、やるねぇ。
ただ、その話の内容はアルスもエインと呼ばれた少年も、どちらも興味すら持っていないのが悲しいところである。
と、そんな事を思っていると、やることやって帰ろうとしていたアルスが急に踵を返した。
おや……?
「あっ、そうだ!」
「くっ!? 貴様! それ以上近づくと────」
「帰りにはきをつけてね? おうちに帰るまでが遠足だって、お父さん言っていたから。それじゃ、またね!」
「────ッ!? どういう意味だ!?」
そう言って二人に向かってエンジェルスマイルを振りまきながら、手を振ってバイバイをしたのであった。
女の子もそんなアルスのスマイルに顔を真っ赤にし、小さな手をふりふりしながらお別れを行う。
え、偉い!
ちゃんとさよならができるなんて、なんて偉いんだ我が息子は!
それも二人を気遣って、遠足の注意事項まで指摘していくなんて、優秀すぎる!
「完璧だっ! 完璧すぎるぞアルス!」
「さすが私たちのアルス。やはり母の教育は間違っていませんでした……」
「いや、これはそういうシーンなのか? ご、ご主人たちの感性は、独特すぎてちょっと分からないぜ……」
何を言うんだガイウスのやつは。
あんなに完璧な挨拶は、これ以上ないだろうに。
「まあ、なにはともあれ、今後開かれる武術大会が楽しみになってきたな。こりゃあ俺も、気合を入れてアルスの応援に向かわなければ」
「お、おう。自然に流したなご主人よ。まあ、いいんだけどよ……」
こうして武術大会前のちょっとしたイベントは終了し、運命に導かれるようにしてアルスたち三人の初邂逅は終わった。
その後、なぜかパレードで見た聖女様の顔が気持ち悪いくらいニヤけていたとか、誰かを探すように周りをキョロキョロしていたとか、聖女様にもついに好きな人が出来たとか、そういう噂を聞いたが、まあ、気のせいであろう。




