【023】通行止め
教国への出発を決めてから数日。
しばらく竜王国での観光を挟んだのち、ようやく聖女誕生パレードが行われる教国の首都にやってきた。
ちなみに今更だが、俺たちはこの旅行でまともに国境を通過していない。
そう、たったの一度もである。
なにせ国から国への移動には、俺の転移魔法を使っているのだ。
わざわざ国境を通過するなど手間だし、なにより何かしらの連絡網で移動速度が軍や貴族に露見した場合、面倒くさいことになるだろう。
そうなったとしても、多少手間だなというくらいでどうということもないのだが、わざわざ家族以外のメンバーに披露するようなことでもないので、こういう対応をさせてもらっている。
だが、そのくらい便利な転移魔法であっても、街門を通らないのはさすがにダメだ。
街門を通らないで中に入るということは、門を出る時になんらかのチェックをされた場合、不都合がでるということだからである。
国境にくらべて、都市や街の出入りは頻繁に行う機会もあるだろう。
そういう懸念点も踏まえて、いちいち街に入るためにチェックを受け入れているのだが…………。
「やっぱりこうなったか。ま、教国だもんね」
「だな、ご主人よ。教国だからな」
現在、教国の首都であるこの都市に入るために、やけに厳正で無駄な検査を受けている。
ダークエルフであるエルザがいることで厄介ごとになるとは思っていたが、しょっぱなからこれとは先が思いやられるな。
しかも一般的に、ダークエルフはエルフよりもさらに珍しい亜人種だ。
もうこれでもかというくらいの言いがかりと難癖をつけられ、通常の十倍くらいの通行税を取られようとしていた。
「何度言わせるのです。税は払うと言っているでしょう。ここを通しなさい」
「ん~、聞こえませんな。いくらあなた方が他国の貴族だとしても、そのような我儘がこの神聖なる教国でまかり通ると思わないことですなぁ」
と、こういった具合である。
もはや取り付く島がないというか、その発言はギャグなのかと勘違いするレベルだ。
ちなみにこのエルザと門番のやり取りで分かってくれたと思うが、既に俺たちは貴族に連なる者として対応されている。
エルザの圧倒的な教養と、見る者を惹きつける美貌とオーラ。
そしてその護衛であろうガイウスは、そこらの戦士では百人が束になっても敵わないであろう威圧感を持ち、纏っている装備も氷竜をベースにした超次元の高級品だ。
加え、さらに五歳とは思えないほどに利発的なアルスと、一応はそこらの市民よりも高級な服を身に纏う俺。
なのに、これだけのメンバーが馬車も使わず、貴族専用の門からではなく市民が利用する門を利用して首都に入ろうとしているのだ。
うん、みるからにタダの市民じゃないね。
明らかにワケありだ。
門番をかばうわけじゃないが、そりゃあ怪しむよ。
なにより人間至上主義の国だもの、ここ。
門番がこの者ではなかったとしても、訪問者がワケあり貴族な上に相手がダークエルフとなれば、まず通行止めに走るだろう。
故に、これはしょうがない、覚悟していたことだからね。
実は貴族でもなんでもない、ただの旅行者なんだけど、そう言っても向こうは信じてくれないだろう。
そしてそれが分かっているからこそ、エルザも完全にキレる寸前で我慢できている。
だが、それも時間の問題だろうか。
「お父さん、お母さまがそろそろ……」
「う~ん。確かに、こりゃアカンな」
そう、そろそろエルザの堪忍袋の緒が切れそうなのである。
門番は気付いていないが、徐々に殺気が膨らんできているのが伝わってきた。
しょうがない、ここは一旦出直して今回だけは転移でこっそり入るか……。
と、そう思ったところで思わぬ助け船が入った。
「何をやっているのだ、君。その方々に問題となるようなものはない。早くお通ししなさい」
「……はっ? は、はっ!! こ、これは聖騎士団長様! 申し訳ありません!」
「挨拶などしている場合か。私に謝っている場合ではないだろう。下手をすればこれは、国際問題だぞ」
「はっ!!」
門番の後ろから彼の肩を掴み現れた偉丈夫。
聖騎士団長と呼ばれる男性が俺たちの身の潔白を証明し、この場を収めたのであった。
ふむ、この人、それなりに強いね。
もしかしたら奴隷として購入した当時のガイウスよりも、素の実力では上かもしれない。
当然、俺が悪魔的特訓を施したあげく、装備も超級のもので取りそろえた今ならば勝負は分からないだろうが、それでもなかなかやるもんだ。
さすが聖騎士団の長を務める団長といったところだろうか。
なにより、人格ができている。
「……申し訳ありません、他国からお越しになった高貴な方々。見てわかる通り、我が国の門兵の教育が行き届いておらず、お恥ずかしい限りです」
「いえ、この者の反応も状況を考慮すれば幾分納得できるところもあります。私たちも覚悟の上で来ているので、これ以上問題にすることはないでしょう。なにより、あなたのような高貴な立場の者が謝罪しているのです、許しましょう」
聖騎士団長の低姿勢にエルザも毒気を抜かれたのか、怒りは収まったようだ。
というか、何度も言うが俺たちは貴族でもなんでもないのに、平然と相手をミスリードさせるエルザの手腕には驚愕である。
どれだけ度胸あるんだ。
実は心臓がステンレスで出来ていそうで怖い。
「それでは、教国へようこそ。聖女様のお誕生日パレードも含め、ごゆるりとお楽しみください」
「ええ、そうさせてもらいましょう」
そう言うと通常通りの税を取られただけで、すんなりと首都への入場を許された。
いやはや、一時はどうなることかと思ったね。
次の更新は、深夜0時です(`・ω・´)




