【YYY】かつて勇者だったモノ
コミカライズ3巻&小説4巻発売の記念エピソードになります。
番外編なので気軽に読んでください。
時系列的には遠い過去の話ですが、WEB版のストーリーとは分岐した書籍版の方での要素が強めです。
書籍版ルートで、今後に影響していくお話になります。
そう、なんと4巻の結末はWEB版と分岐するのです(`・ω・´)!!
分岐、するのです!!(二回目)
ご興味のある方はぜひ、書籍版の転生悪魔もお楽しみください( ・`д・´)
この世界には古今東西、語り継がれる物語がある。
ある時、竜人族の始祖とも言われた勇敢な男が居た。
彼は当時の人類に比べてあまりにも強大な力を持つ、魔物という存在から人類を救った。
魔法神オルデミルから授かった魔法を武器に土地を開墾し、国を興し、そして人類繁栄の礎となったのだ。
その人類最古の国のことを、昨今では魔法大国ルーランスと呼ぶ。
そしてまたある時には疫病から人々を救う救世主が現れ、またある時には人の住めぬ大地に恵みをもたらす救世主が現れた。
その時代の人類に窮地が訪れ、人の力ではどうにもならぬ災害に対して、まるで見計らったかのごとく救世主達は必ず現れたのだ。
故に彼らは伝説となる。
そしていつしか。
人々は、そんな心優しき偉大な救世主達のことを、畏怖と敬意を込めて……。
「勇者」、……と呼んだのであった。
◇
そうして人々を救い続けた勇者の時代が永らく続いた、ある時。
とある下級悪魔に育てられた勇者アルスの生きた現代では、もっとも有名な偉人。
カラミエラ教国の開祖にして、伝説的な偉業を成し遂げる大英雄。
一千年前の時代を代表する当時最強の男。
魔王討伐を成し遂げる大勇者が生まれたのであった。
その時代は過酷であり、悲惨であり、あまりにも惨かった。
なにせ魔界の魔王が人間大陸に軍を以て押し寄せ、世界を支配しようともくろむ闇の時代だったのだから。
魔族は強く、人では到底太刀打ちできない。
もっとも弱いとされる下級魔族一体に対し、人間の中でもエリートである戦士や魔法使いをパーティ単位で当てなければ勝負にならないほどの、大戦力であったからだ。
当然、神々はこの状況を憂いた。
このままでは人の文明が終わってしまうと。
かつてない危機に対し、懸念を抱いたのだ。
だからこの時も、世界は救世主を望んだ。
現れたのは、ご存じの通りこの状況を覆し得る最強の一手。
そう、伝説の勇者「■■■」である。
「■■■」は強かった。
それはもう本当に強かった。
魔族の大軍勢を相手に一歩も引かず、獅子奮迅。
剣神からもたらされた神剣を振るえば、一騎当千。
いつの間にか仲間もできて、万夫不当。
その旅路は人々の心に希望を灯し、最後には魔王を討つ天下無敵の大英雄として世界を救ったのだ。
「■■■」はやり遂げたと思った。
艱難辛苦の末に世界には平和がもたらされたのだから。
もう、人々が魔族に脅かされることもない。
二度とこんな悲劇は起こらない。
そう、思ったのだ────。
────この時は。
現実は非情である。
彼は確かに大英雄であり救世主ではあったが、決して全知全能ではなかった。
だからだろうか。
このような結末もまた起こり得るのだ。
彼の死後一千年後に再び魔族の大侵攻が起きることも。
平和を享受できたはずの一千年の間に、人々がかつての悲劇を忘れて腐り始めることも。
そして何より、大勇者「■■■」の成した功績と尊厳が踏みにじられることになることも……。
当然、起こり得てしまうのだ。
故に、彼は呪った。
世界を呪ったのだ。
かつて勇者だった「■■■」の成れの果て。
その歴史が、闇の中で僅かに蠢いた。