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【XXX】とある未来の世界にて

コミカライズ1巻&小説3巻発売の記念エピソードになります。

番外編なので気軽に読んでください。

時系列的には遠い未来の話です。


 後世にて。

 人類史における最強の伝説、勇者アルスが存命していた時代から、遥か遠い未来でのこと。

 かつて人の世に存在したとされる勇者の存在が伝説となり、神話となり、遂には「勇者」などという英雄が必要とされなくなった、平和な未来。


 既に人の世には勇者が生まれることはなく、本当にそのような人物が存在していたかも曖昧になっていた。

 しかし、その神話が偶像となり形骸化した時代の、とある国立高等学院の臨時講師はこう語る。


「え~。では皆さん、教科書の34ページを開いてください。そうです、【人魔聖典第0章:異界の悪魔の節】です。今日はその真偽について、賢者フラダリアの文献を踏まえ、歴史書から軽く解説していきます。皆さんはそろそろ進級試験の前ですからね、追い込みをかけますよ」


 この国の貴族の紳士淑女がこぞって教えを乞う、国内有数の知識と権威を持つ学院の臨時講師が歴史の教科書を手に取り解説を始めようとする。

 講師がその真偽と語っている通り、もうこの時代には人と魔の垣根など存在しておらず、形骸化された勇者の伝説に「悪魔」などという生き物がいたかどうかなど、誰も知らないのだ。


 そもそも、亜人と言う言葉すら人を現すには不適格であるとされ、数百年前に消えている。

 学術的にはベースとなる普人と、エルフ、ドワーフ、魔族、その他多くの区別が数百年前に分類されたが、基本は〇〇国民として判断されるため、種族はひとくくりに人類とされていた。


 だからこそ、そこに待ったがかかる。


「……え? 第0章は後の歴史家による創作と脚色であることが、最古の国、カラミエラ教国で証明されているって? 自称かつての歴史を知る、長命種たる魔王国の国民の捏造? いやいや、違うんですよねぇ、これが」


 人と魔が共に歩み、神秘の薄れるこの時代において。

 もう人の世には姿を見せなくなって久しい天界の女神や天使、そして何より勇者という存在すらも創作の類だと考える歴史家も多い中、少し異端ともいえる講師は「ノンノンノン、甘いですよ」と指を振った。


「いいですか。過去の地質を調べると、異界の悪魔が存在したとされるその証拠がちゃんとあるんです」


 講師は語る。

 大昔に開拓村があったとされるその周辺に、この世の生物が持つ魔力とはまた違った性質を持つ、別次元の魔力の残滓がクレーターから検出されたこと。


 まるで隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターの中からは、【人魔聖典第0章:異界の悪魔の節】の神話で語られる、聖騎士たちの残骸、鎧や骨が見つかったことが説明された。


「まあ、カラミエラ教国にとっては気分のいい話ではないでしょうからね。なにせ、自分の国の高貴なる聖騎士、その祖先がこのような過ちを犯していると説明された0章の存在など、今すぐにでも消し去りたいことでしょう。気持ちは分からなくはないですよ」


 そして最後にこっそりと、わざとらしく「まあ、私の知ったことではないですがね」と付け加えた。


「ですが、この悪魔の存在を認めるか否かというのは、学術的に大きな意味を持ちます。なにせ異界ですからね。この世界以外にも世界が存在する事実は研究に対しブレイクスルーを起こしますし、なによりこの悪魔の存在が証明されるということはすなわち勇者アルスの────」


 などなど、うんぬんかんぬんと解説が続く。

 しかし臨時とはいえ、講師の話にはまるで自分が経験してきたかのような説得力と確たる証拠があり、時間一杯を使って行われた授業が終わる頃には皆、「もしかしてそうなのかも……」と納得せずにはいられなかったのである。


 なぜこの講師が世界中の歴史家すら知らない過去の文献、研究成果、技術力を持っているかなどという、本来一番ツッコミたくなるような本題が一切頭に浮かばずにいるのか。

 その疑問すら挟ませない時点で、この講師の手腕は相当だ。


 その割には、「まあ、信じるも信じないも、それは皆さんの勝手ですよ」なんてお道化るものだから、根拠すら否定する材料のない学生達には彼の言葉を否定しようがない。

 また、異界の悪魔について真偽を述べる合間の解説には、これ以上ないほどに分かりやすく現代歴史学の結晶とも言える高度な知識が詰め込まれていた。


 もはやこの知識だけで論文型の進級試験に合格できそうなほどの授業クオリティである。


 そうしてのらりくらりとヘイトを交わしながら、ウルトラクオリティの授業を進めていた講師は、時間制限ギリギリになるまで、誰も知らないハズの歴史を否定しようのない証拠と根拠付きで突き詰めていったのち……。


「おっと、もうこんな時間ですか。では、シン・キュー先生の授業はここまで。皆さんがよい進級を迎えられることを祈っております。では、解散」


 謎につつまれた黒髪の臨時講師、シン・キューなる男の授業は終わった。


 なお、彼は去り際に「そろそろ戻らねぇとオヤブンとジイさんに修行を抜けてきたことがバレちまう」とか、「あのチビスケ、なにが、そろそろ真実を知るきっかけも必要なのかしら、だ。面倒なこと依頼しやがって」などと意味不明なことを言っていたとか、なんとか。


 この男が何者なのか。

 いったいどこからやってきたのか。

 どのような経歴を持つのか。


 それをこの時代で知る者は、まだ、いない。




興味を持っていただける読者様に報いることのできる、面白い作品であることを願います。


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【発売日】

4月25日

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【表紙】

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] この人(?)なんでもやってるなあw
[一言] 前話を消すんじゃないんだ(目反らし
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