【020】渡りに船
お久しぶり~(*´ω`*)
「……で。俺のところに話をもってきたというわけか、ガイウス」
はいはい、どうもみなさん。
最近はアルスも立派に育ち、娘のエキナたちにも心強い仲間ができて、めっきりと活躍の場が減ってしまった下級悪魔こと地獄からの使者カキューさんです。
まあ、エキナのことはしっかりとミニカキューが追尾し、家族写真の収集に精を出しているのだから暇という訳ではないんだけども。
とはいえ、ちょっと前に返り討ちにした天界のエリート天使メルメルこと、例の超幸運なチビスケが加入してから危険な場面や冒険には遭遇していない。
あのチビスケ。
ちょっとでも罠の気配を察知すると、「FHOOOOO!」とか叫んで有り得ない幸運を起こし危険を回避するもんだから、手に負えないったらありゃしない。
まさに陰謀潰しのチビスケである。
それも本人にイベントを潰している自覚が無いあたり、より質が悪い。
さてさて、それじゃあ、どうしたものかと。
このままでは娘たちの成長に繋がらないし、少々強引なテコ入れが必要かと思っていたのだが……。
そんなことを考えていたちょうどその時。
このガイウスの提案がいい感じで持ち込まれたものだから、それはもう拍手喝采の満塁ホームラン。
よくやったガイウス、これで自然に暗躍ができるというわけよ。
正直な話、渡りに船そのものだった。
なんでも裏社会で暗躍する犯罪組織がアルスやガイウスにビビリ過ぎて、ちょっとでも動く素振りをみせると途端に引っ込み尻尾を掴むことができないらしい。
まあ、ミニカキューを通じて犯罪組織を誘導すれば、いくらでも奴らのコントロールは可能だと判断しているので、何も問題はない。
「すまないカキューの旦那。この町や冒険者のことを大事にしている子爵の頼みは、どうしても軽く見れなくてな」
「いや、別に気にしているわけじゃない。むしろよく話してくれた。礼を言うぜ」
それに、なんていうかなあ。
そもそもの話、例の犯罪組織の実験で、魔族と人間の因子を混ぜ合わせる研究だったか。
そのことについてなのだが。
勇者アルスが世界を救い両者間の融和が徐々に進んできた以上、そういう話題が出てくるのは当然であり必然みたいなところがあった。
そう、これはいわば予定調和である。
人間というのは物事の善悪など後回しにして可能性を追求し、切っ掛けさえあれば何にでも好奇心を持って物事に挑んでいく生き物だ。
これは地球の人類史が証明しているし、この世界の人間だって過去を遡れば似たようなことはいくらでもしてきた。
ただそれが、今回は人間にとって未知の生物。
友好的になってきた魔界の魔族が標的になっているという、それだけの話に過ぎない。
要するにこれも、この異世界における歴史の一ページ。
確かに善悪で判断するならば「悪」以外の何物でもないけどな。
しかし、二千年もの時間を地獄界で過ごし、人類の発展や衰退、悪魔による余計な横やりを見てきた俺からすれば……。
ああ、またそういう時期がきたのか、みたいな感覚だったりする。
地獄の悪魔王と天界の神様が、定期的に喧嘩し戦争になるアレとちょっと感覚が似てるな。
とまあ、俺個人の感覚がそんな適当なものだからかもしれないが。
この腐れ外道の犯罪者集団をエキナたちのイベントに利用し、いい感じにおちょくることに忌避感とかはない。
むしろベストタイミングで暗躍を開始してくれてありがとうと、感謝のお手紙を書いて差し上げたいくらいだ。
「事情は分かったぞガイウス。じゃあ、あとのことはこの俺にドーーーーンと任せておけ! なっ?」
「お、おう? 任せたぜ」
よっしゃぁ!
じゃあさっそくアルスの奴を巻き込んで新イベントの開始だぁ!
待ってろよエキナ、父ちゃんまた頑張っちゃうぞぉ!
そして天然の陰謀潰し、チビスケ。
今回こそはその顔をヒヤっとさせてやるから、首を洗って待っておけ!
「だけどよ、ご主人。なんか知らねえけど、ちょっと嬉しそうじゃねえか?」
「いや? いやいやいや。そんな訳ないだろう。気のせいだ」
そう、気のせいだ。
俺は真剣に悩んでいるやつの前で一人浮かれるほど、空気の読めない阿呆ではない。
だから気のせいっていったら気のせいなのである。
とにもかくにも。
こうして確約を貰った俺ことカキューお父さんは新たな目標を手に入れ、内心ウキウキしながら計画を練り始めるのであったとさ。
外道すぎて安否の心配をしなくてもよい、ほどよい強さの犯罪者集団。
まさにカモがネギをしょってきたみたいなノリである。