【016】戦士の過去と、下級悪魔の企み
「────と、いう訳だ。まあ、簡単に言えばただの意地だな」
「なるほど、だいたい事情は察したよ」
しばらくガイウスの事情を聞いて、だいたいの過去を察することができた。
ようするに、彼は自分に呪いをかけ、戦士として土をつけた相手にリベンジをしたいらしい。
それまでできることならば目は治さないし、リベンジを果たした結果として呪いを打ち破りたいと、そう考えての行動だったようだ。
気持ちは分かるので俺もこれ以上はとやかく言わない。
彼の好きなようにさせればいいと思う。
だが、一つ懸念点がある。
そのリベンジの相手とやらが問題であった。
「ふわぁ~。ガイウスはすごい冒険をしてきたんだね!」
「ああ、すげえ戦いだったぜ? 高位冒険者として戦争クエストに参加していたら、突然魔族の集団が現れてしっちゃかめっちゃかにしていったんだからよ。さすがの俺も死ぬかとおもった程だ。あの時はなんとか引き分けには持ち込めたが、最後の最後に呪いを受けちまった。まあ、全体を通してみれば俺の負けだな」
そう、魔族である。
この強靭な戦士に土をつけたその存在は、突如戦場に現れ両陣営を蹂躙していったらしいのだ。
そりゃあ、両陣営が戦っている時に魔族が横やりを入れたら、指揮系統は混乱するだろう。
人間にちょっかいを出すという観点から言えば、これ以上ない程に有効な手だ。
だがガイウスも黙って傍観していた訳じゃない。
戦場を荒らすその魔族の群れに向けて単騎で勝負を挑み、なんとか粘って両者撤退、といったところまで持ち込んだらしい。
その撤退戦の中で呪いを受けたらしいが、このガイウスの功績がなければ被害はさらに広がっていた事だろう。
ただしギルドの戦争クエストとしては失敗しているというか、そもそも魔族の乱入によって功績がどうとか、どっちの国の小競り合いが勝ったとか、そういうのはうやむやになってしまったらしい。
クエスト参加費としての報酬はたんまりもらえたらしいが、運のない男である。
だがこれで、セバス氏に話をつけながらも、戦士としてさらに戦場を求めていた理由が分かった。
おそらく再びその魔族と相まみえることがあったのなら、今度こそ決着をつけ呪いをかけた根源そのものを解除しようとしているのだろう。
それこそが勝利の証になるしね。
まあ、その魔族がまた戦場に現れるかどうかは運次第なので、かなりギャンブルなところもあるが。
なんだったら、俺がガイウスに掛かった呪いを逆探知して、その魔力の流れから魔族をピンポイントでおびき寄せてやってもいいくらいである。
アルスの護衛でもある彼を安易に戦争になど駆り出せない以上、視力の回復についてはこれが最速の回答だろう。
しょせん地球に比べてレベルの低い、この世界の魔族がかけた魔法だ。
向こうの公爵級悪魔とタメをはれる実力であるこの下級悪魔の手にかかれば、やってやれんこともないという程度には可能だ。
ガイウスもちゃんとした一対一であれば勝算があるからこそ、こうしてリベンジを望んでいる訳だし、悪い話ではないな。
そして同じようなことをアルスも思ったのか、何かを言いたそうな瞳で俺を見つめてくる。
「……お父さん」
「あー、そうだな。うむ、できないこともないぞ?」
「えっ! 本当っ!」
本当、本当。
お父さんこのくらいのことなら朝飯前よ~。
ただちょっと、天界や魔界に気取られるかもしれないことだけが懸念点だが、創造の女神とかが出張って来るでもしない限り、俺が力で負けることはないだろう。
すごいやすごいやと跳ねまわるアルスのためにも、その期待を裏切らない父親でありたいところである。
「お、おい。いったいどういうことだ? お前たちが何を言っているのかさっぱり分からないんだが」
「気にするな、そのうち説明する」
まあ、魔族をおびき寄せるにしてもある程度準備は必要だろう。
ガイウスが勝つにしても、負けるにしても、最低限その戦闘後のフォローを考えなくてはいけない。
その準備ができ次第、彼にはこの事を説明することにする。
それに武器も必要だろうしなあ。
「う~む、しかし店売り程度のものでは力不足だな。……仕方ない、俺が作るか」
「は? 何をだご主人?」
「いや、お前の装備をだよ、ガイウス」
今更だが、各大陸の拠点を含めてこの城を建てたのは俺である。
もちろん二千年の研鑽で積んだ悪魔としての能力によるものであるが、その中でも俺は魔法の他に錬金術が得意であった。
まあ錬金術も魔力を使う以上、広義としては魔法みたいなものだが、それは置いておく。
それよりも能力の話をすると、基本的に俺は魔法と同じくらい錬金術が得意である。
地球次元の地獄界でも自作の戦争回避シェルターを創造し、あの神様の攻撃を二十分も耐えたくらいの練度だと言えば、どのくらいか伝わるだろうか。
そのくらい俺の錬金技術は卓越している。
その俺がちょっとやる気になれば、この世界の鍛冶師が作った業物の装備など、軽く超える程度の武器防具が用意できるという訳だ。
ガイウスがこのまま魔族とやり合う気があるのであれば、最低限の支援としてこのくらいのことはしてやりたい。
最初は一般的な武器を用意して、あとは本人の意志に任せるつもりであったが気が変わった。
アルスが魔族との再戦に期待の眼差しを向けている以上、この男の敗北など許されないのである。
ふふふ、俺の悪魔的サポートに驚愕するがいい。
「フフフフフ…………。覚悟しろよガイウス」
「な、なんだか恐ろしいな、ご主人よ」
「お父さんすごい! かっこいい!」
そうだろうそうだろう!
はーーーーーはっはっはっは!




