【018】ちびっこ天使、スライディング・パーティーイン!
お久しぶりです(`・ω・´)
メルメルが「いけそうなのよね~」といったノリで火山口に突き落とし、必死に温めたタマゴがついに、満を持して孵化した。
正式名称を火属性の神獣フェニックス・マークツー、もといスーパーフェニックスアルティメット号という。
そんなスーパーフェニックスアルティメット号、略して神獣ハシビロコウの彼は自らの背に跨る自分の親から貰ったイカしたサングラスをつけて、世界中を飛び回る。
時に魔物に襲われている人間をみつけては「にらみつける」で撃退し、時に傷ついた人間がいれば彼の親であるメルメルが「FHOOOOO!」で都合の良い奇跡を起こす。
二人のコンビは強靭無敵にして、最強。
どんな不幸も幸運に反転させてしまう恐ろしい通り魔的ラッキーコンビなのだ。
そうしてしばらくの間、ちびっこ天使と生まれたばかりの神獣が世界をあっちにいったり、こっちにいったりしていると、突然ちびっこ天使メルメルが一仕事を終えたといわんばかりに額を手で拭い、とんでもないことを言い放った。
「う~ん、そうね~。あたちとあなたが揃えば、だいたい無敵なのが分かったのよ。そろそろ次のステップに進むべきかも?」
「クァ?」
次のステップとはなんなのか。
果たしてそのステップの先に何が待っているのか。
そんなことに疑問を抱きつつも、数々の幸運と奇跡をもたらす自らの親の能力を認めていた神獣ハシビロコウは、自然とメルメルの言葉に耳を傾ける。
「いまならきっと、あの恐ろしくてヤバい男にも、十分に立ち向かえると思うのよ。そしてあたち達はヤバい感じの男を見返して、ぎゃふんといわせるの。そのあとはきっと、ビビったところで負けを認めたヤバい感じの男から、降伏の条件としてお菓子をもらえると思うのよね~」
ヤバい感じの男の正体が何かは神獣ハシビロコウにもちょっと分からなかったが、きっと親でありご主人様でもあるエリートな天使が強大な存在に立ち向かうのなら、それはきっと世界にとっても大切なことなのかもしれないと、彼はそう考えた。
なにせメルメルの顔は真剣で、決意を秘めた表情をしているのだから。
いままでビビってお漏らしをしてしまったのは何かの間違いなの、とか、勝利のお菓子は何がいいかちら、とか言っているが、それも含めてメルメルが勝つ気でいるのが頼もしい限り。
「目指すは南大陸の、え~っと……、なんとか子爵とかいう人がいる町! そこにあの男がいると思うのよね~」
「クァーーーー!」
ならば、善は急げ。
この幸運の天使をもってして、「恐ろしくてヤバい」と言わしめる存在に一泡吹かせてやろうと、そう決めた彼は漆黒の翼を広げてメルメルの指し示す方向へと向かった。
果たして、快進撃を続ける二人の旅路の行きつく先は……。
このヘンテコな会話を盗み聞きしていたミニカキュー、もとい下級悪魔のみぞ知る、といったところであろうか。
◇
「……で、何か言いたいことはあるか? チビスケ」
「とーちゃん。これ、なに?」
「力を得て調子に乗ってしまった天使と、何も知らないまま付き合わされた神獣の成れの果てだ」
「ふ~ん」
ラドール子爵が治める町の片隅、いつものように平和なカキュー邸にて。
今日もまたアベルとグランベルト、ついでにフラダリアのねーちゃんを誘って冒険者するか~と庭に出たエキナを迎えたのは、土下座する翼の生えたちびっこと、目を回して意識を飛ばしている黒い鳥のヘンテココンビであった。
何を隠そうこの二人、突然カキュー邸に押しかけては下級な感じの悪魔に決闘を挑み、一瞬にしてノックダウンさせられてしまった哀れなヘンテココンビなのである。
というか、そもそも勝負にすらなっていなかった。
庭のホタテに水やりをしていた下級悪魔に意気揚々と決闘を挑んだところまでは完璧だったのだが、サングラスを外して「にらみつける」をしても、メルメルの必殺技である「BOOOOOO!」を繰り出してもビクともしなかったのだ。
昔はちょっとだけ「BOOOOOO!」も効いたはずなのに、と思うものの、それはもう十年ほど前の話だ。
カキューからすればそんな弱点をいつまで野放しにしているはずもなく、とうの昔に対チビスケ用の魔法を編み出して克服していたのが現状である。
そして、地球次元の地獄界で圧倒的な実力を持つ悪魔王、またその眷属である爵位持ちの悪魔たちと渡り合ってきた地獄界ナンバーツーの悪魔からしてみれば、神獣の特性である「にらみつける」による恐慌ぐらいで行動不能になるはずもない。
地獄でビビってたら命がいくつあっても足りないのだから。
そういった諸々の耐性を獲得していたことで、一切のダメージが入らなかったのを見て取ったのだろう。
敗北を悟ったメルメルは強気な姿勢から一転。
限りなく敗北の被害を抑えるため、お得意の「BOOOOOO!」で神獣の意識を飛ばし、即座に両手を前に突き出し頭を垂れてスライディング土下座を決めたのであった。
この状況判断能力はさすがというか、なんというか。
負けると分かった瞬間に神速の降伏を見せたちびっこ天使に、さすがの下級悪魔も毒気を抜かれて呆れ顔をしてしまうのであった。
「あ、あああああ、あたちにもきっと悪気はなかったのよ! ちょっと、ちょ~っと、腕試しがしたかっただけなの! ほんとうよ? あわわわわわ……」
「はぁ……。分かった分かった。チビスケは俺を倒して、お菓子が欲しかったんだな? ン? そうだな? おおん?」
なんでバレてるのよと思いつつも、やっぱりこの恐ろしい男だけは敵に回したらダメだったのよと、がっくりと力が抜けてしまったちびっこ天使は涙目になる。
その後、この訳が分からないシュールな現場に居合わせた娘のエキナにちびっこ天使はぽいっと投げ渡される。
「そんなにお菓子が欲しいなら働けチビスケ。しばらく娘の冒険に付き合ってくれたら、褒美にたんまりと好きなだけお菓子を食べさせてやる」
ぴくっ。
ぴくぴくっ。
褒美にもらえるらしい「好きなだけ食べられるお菓子」というワードに反応したメルメルは、エキナの腕の中でじゅるりとしながら期待に目を輝かせる。
メルメルとしても、確かにこの男は恐ろしい力を持つが、エリートな直感によると一度交わした約束を破るような存在ではないという分析結果がある。
この話、乗らない手はなかった。
「うぃ。任せてほしいのよ。あたち達がサポートすれば、どんな冒険も無敵に最強な結果になるはず、だったりして」
目当ての報酬が確約されたからだろうか。
敗色濃厚だったころの涙目から一転、急に不敵な態度に戻ったメルメルは神獣ハシビロコウのサングラスを自分にかけてチャキッとすると、任せておけと太鼓判を押すのであった。
「エキナもそれでいいな?」
「え~? このマヌケ面を連れていくのか~?」
「いや、確かにマヌケだが……。だが、そのチビスケは何かと役に立つぞ」
「ま、いいけど。とーちゃんの予想が外れたことなんてないし~」
こうしてメルメルの決闘騒ぎから数分後。
エキナの冒険に新たなメンバーがしばらく加わることになり、物語は新たな幕を開けることになるのであった。
読者の皆様こんばんは!
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表紙イラストなどの詳細はまた追って紹介いたします。
【転生悪魔2巻】&【コミカライズ】の続報をお待ちください(`・ω・´)