【017】メルメルのタマゴ、孵る!
「火は激しく、タマゴは高温、なのよね~……」
南大陸に存在する、とある活火山の山頂にて。
どうみてもこの場には似つかわしくないちびっこが、ただでさえ気温が高く暑いというのに、ついでのようにキャンプファイヤーをしてタマゴの様子を眺めていた。
あまりの高温にタマゴは真っ赤に赤熱し、ぶっちゃけ中身が無事とは思えない事態にも拘わらずのほほんとした空気が流れている。
このちびっこ、もといエリート天使のメルメルの直感ではこれで正解らしいので、きっとそうなのだろう。
いまも赤熱したタマゴの中からゴトゴトという音が聞こえ、その激しい揺れがもうすぐ孵化することを伝えてくるのだから。
「この子の名前は何にしようかちら? スーパーフェニックスアルティメット号とかがいいかも?」
なぜガチャで買ったはずのタマゴの中身が分かるのかは謎だが、メルメルの想定では既にこのタマゴは神獣でも最上位の存在、フェニックスで決定されているらしい。
もはや超直感はなんでもありである。
これでもう少し戦闘力が高かったら恐ろしい存在になっていただろう。
幸い、このちびっこ天使に直接戦う力は無い。
かなり限定的な範囲として、魔族に対して天使の炎がものすごく有効に作用するだけである。
まあ、それはさておき。
スーパーフェニックスアルティメット号と名付けられたこのタマゴは、そのセンスの無いネーミングを否定するかのように再びゴトゴトと揺れた。
どうやらお気に召さなかったようだ。
「……ふぁ? どうしていやなのかちら。わがままなタマゴなのよね~」
タマゴからしてみれば甚だ遺憾である。
ただちびっこの感覚ではこのスーパーフェニックスアルティメット号というのは至高らしく、なんど頭を捻ってもハイパーがいいかしらとか、じゃあインフィニティならどうなのよとか、そういう話じゃないという路線から変更できていない。
どうしてもインフレが激しいネーミングにしたいようだ。
しかしこの拘りの強さから、このちびっこがどれだけタマゴに期待し、そして孵化するのを楽しみにしているかが窺える。
メルメルにもけっして悪気はないのだ。
「だめね~。あなたはわがままな子みたいだから、あたちが最初に言った案で進めることにするのよ。これからいっぱい楽しいことが待っている気がするから、一緒に楽しみましょう、……なのよね~」
……しみじみ。
やっぱりどうしても意見は変わらないみたいだったが、それでもタマゴのことをたくさん愛していることが伝わったのだろう。
ちびっこ天使に声を掛けられたタマゴはゴトゴトと音を鳴らして抵抗するのをやめ、再びキャンプファイヤーとマグマの板挟み攻撃で温まる。
そうしてしばらく、じっくりコトコトと煮込まれた溶岩のスープの中で、タマゴが一際眩い光を放ったのである。
「きたぁぁああああ! なのよ! FHOOOOO!」
チュドーーーーン!
テンションの暴走したちびっこ天使の魔力と、タマゴが発するパワーが交わりとてつもない大爆発を生み出す。
その勢いに呑まれたメルメルは台風に巻き込まれた新聞紙のような勢いでクルクルと吹っ飛ぶが、顔だけはとても満足そうに笑っていた。
そうして爆発の勢いが収まるとそこには……。
「……ふぁ?」
なんと、もの凄いイカツイ表情をしたハシビロコウが鎮座していたのであった。
メルメルとしては予想外の生き物が孵ったらしく、サングラスを外してしきりに目をしぱしぱさせる。
生まれてくるのがフェニックスかと思ったら、なんとハシビロコウだったのだ。
それは困惑するだろう。
しかもその顔は思ったよりも百倍厳めしく、目を合わせただけでチビってしまいそうなほど怖い。
「グァッ!」
「…………」
「グァッ! グァ?」
「…………!!」
現実を受け入れたのだろう。
再びサングラスをかけなおしたメルメルは、タマゴガチャで当たったハシビロコウに愛情を注ぐつもりで抱きしめるものの、怖すぎて目を合わせられない。
というよりも現状既に足がぷるぷるとしていて、若干チビってしまっているくらいである。
ハシビロコウ、もといスーパーフェニックスアルティメット号が顔を合わせるように声をかけてきても、そのタイミングに合わせて顔を逸らすちびっこの姿は哀れだ。
動物園のふれあい広場で、怖いどうぶつに出会ってしまった幼児のような切ない反応なのであった。
ちなみにこのハシビロコウ。
見た目はフェニックスでもなんでもないが、れっきとした神獣である。
それも本来朱い翼を持つフェニックスの亜種として登場した、黒い翼のタマゴガチャ最大の当たり神獣。
正式名称をフェニックス・マークツー、という。
能力はフェニックスが持つ「神炎」と「再生」に加え、相手を恐怖に陥れる「にらみつける」が最大の武器。
「あ、あた、あたたたたたちはあなたのことを、これからいっぱい大切にすりゅのよ! よ、よよよよおおおろしくなのよねぇ~」
「クァ!」
ビビリまくりの嚙みまくりであった。
まあ、怖いのは最初だけである。
いずれ慣れればこの神獣、スーパーフェニックスアルティメット号と仲良くなれるだろう。
目を合わせなければなんとかチビらずにはいられるので、しばらくはこのままかもしれないが。
ともかくそういう事情もあり、新たにメルメルの仲間に加わった神獣は、このちびっこを背に世界中を喜んで飛び回るのであった。
なお、その道中で沢山の人々が恐怖と幸運を味わったらしいが、それはまた別の話。
それにきっとこのあと、いままさに冒険真っ盛りな小悪魔ちゃんたちと合流することになるのだろう。
その時にハシビロコウの「にらみつける」をコントロールしておかないと、大変なことにはなりそうだ。
なお、余談ではあるが……。
「あなた、だれにでも恐怖を与えちゃうのね~。仕方がないから、あたちのサングラスを貸してあげるのよ」
「クァァ~」
というやりとりが、道中であったとか、なかったとか。