【015】メルメルのタマゴ
【注意】
本日2話目の投稿です。
読む順番にお気を付けください。
「ホワァァ~~~タタタタタタタッ! これでっ、最後っ、なのよっ!」
ポンポンスポポンッ!
スッポンポンッ!!
ほのかに輝く純白の雲っぽい大地に聳え立つ天界の執務室にて。
下界におけるあらゆる出来事をまとめる部署では、最高位責任者であるメルメルがノリと勢いで書類にハンコを押し続けていた。
そんなんで本当に大丈夫かと思わずにはいられないが、ご安心あれ。
エリートなちびっこ天使が直感で引き抜いてきた優秀な部下の天使たちが、これでもかと吟味しつつ上へ回してきた情報なので、基本的にはちょっと目を通してから思考停止でハンコを押すだけでも成立する案件ばかりなのだ。
しかし何事にも例外はあるのもまた事実。
では、そのような時はどうするかというと……。
「あっ、これとこれ、あとこれ。こういうのはなんだか怪しい感じがするから、要注意なのよね~。あたちの直感では、もう少し調整が必要な気がしていたり……」
そう、それこそ全てを謎の幸運と超直感で解決していくエリート天使がいる限り、全て問題なしなのである。
むしろ理屈で考えられる範囲のことは優秀なちびっこの部下が全てを解決してくれるので、主なメルメルの仕事はその理屈をすっとばして閃くノリなのだ。
もはやメルメル無双。
このちびっこのピーキーな特性をどうやったら最大限活かせるか、魔法神オルデミルが一年ほど考え抜いた末に編み出した必殺のポジションなのであった。
魔法神曰く。
昔のように難しい計算に頭を悩ませることなく、ただ書類の結果に納得がいくか、もしくはいかないかだけを判断するだけで済むため、実にこの天使向きの仕事だ。
……ということらしい。
そしてその判断を確認する部下の秘書天使は、不採用となった書類を見てうんうんと頷く。
「ふむふむ。なるほど。不安要素が必ずあるという答えを知った上で見直せば、確かに粗が見えてくる。相変わらず見事な采配だ最高位天使メルメル。君の秘書である僕も、なかなかに鼻が高い」
「FHOOOOO!」
「フフフフ……。それはよかった」
しかもこの秘書天使、インテリなだけではなく未知のメルメル語も分かるらしい。
このタイミングで飛び出した「FHOOOOO!」が何を意味するのか、魔法神オルデミルすら謎すぎて研究対象にしているというのに、なかなか実力派の天使だ。
まあ、それもそのはず。
彼はなんと……。
「では、今日の仕事はこれで終わりさ。あとのことは僕に任せて、君は楽しみにしているタマゴの世話をしてくるといいよ」
「ふぁ? いいのかちら? それだとあなたの仕事が増えてしまうのよ?」
「もちろん大丈夫さ。僕を誰だと思っているんだい。泣く子も黙る情報課の最高位天使レコードがこの程度で根を上げていては、この肩書は今すぐにでも返上しなくてはいけなくなるね」
おちゃめにウインクしながらも、少しくせのあるふわふわな髪を揺らす。
この通り彼はメルメルに部下としてヘッドハンティングされながらも、下界課のナンバーツーと情報課のトップを兼任しているのであった。
最初は二つの部署でひと悶着あったようだが、ありえない奇跡を起こし続けるメルメルの判断を信用した魔法神と、なんだか面白そうな子が出世したなぁと感じたレコード本人が乗り気だったことで、案外早くこの話はまとまったらしい。
故に二人には特に上下関係というものはなく、責任者と秘書という立場でありながらも一緒に働く相棒というスタンスが強かった。
「そうなのね~。なら、あとはあなたに任せてあたちは休暇を満喫するの。それじゃまた半年後くらいに、なのよね~!」
「うん、また半年後だね。いってらっしゃい」
どうやら天界の仕事はけっこうな長期休暇を取れるらしく、三年くらいほぼぶっ続けで無双したメルメルは有給を消化すべくどこかへと去って行った。
その足取りは非常に軽く、楽しみなタマゴの世話をしたくてしょうがないといった様子が見受けらる。
「しかしあのタマゴ。確かあの子が三年前に下界の視察をしたあと、唐突に自分もペットが欲しいとか言い出して天界通販のガチャコーナーで注文したものなんだよねぇ……」
いまから三年前というと、ちょうどエキナとアベルが初めて冒険をしたあのタイミングだ。
あの時に彼らの冒険を覗き見して、冒険の仲間としてホタテ精霊のワサビを連れ帰った光景をメルメルは覚えていたのだろう。
一応報告書からそういう話には目を通していたレコードではあるが、当時はまさか本当に相棒がガチャを回し始めるとは思わなかったようだ。
どんな危険な神獣や幻獣が出るかわからないために止めようとしたのも束の間、天界の自宅にてタマゴの状態で既に魔法契約を済ませてしまったメルメルが、「ふぁ?」とかいってサングラスをくいっとしていたのは記憶に新しい。
どうやらその時はもう手遅れだったようだ。
まあ、あの豪運天使な相棒のことだから、きっと相性の悪い神獣や幻獣が生まれてくることはないだろうと、情報を生業とする最高位天使にしては楽観的に考えている。
「あれから三年。まだ孵らないところを見るに、優秀な幻獣が生まれてくる可能性は高そうだ。過去のデータからも神獣の孵化日数と能力の比率はよく議論にあがってきているし。……それと癪ではあるが、この僕よりも情報収集に長けた異界の魔神からも、今後を楽しみにしておけなんて言われているからね。ほぼ間違いない、かな……」
異界の魔神。
つまりはあのおせっかいな下級悪魔のことであるが、彼はなんと天界にちょくちょくお邪魔してメルメルや魔法神と接触しているらしい。
魔法神とは魔法談義のため、そしてメルメルに関しては雑用天使たちが補いきれなかった細かい下界の情報を、ミニカキューを通じて得た経験や知識を元に無償で提供しているのだ。
カキュー本人は彼らに気を遣わせないため、代わりに情報課と下界課の資料をちょっと見せろなんていって等価交換っぽさを演出しているが、下級悪魔にそんなものが必要ではないことは明白であった。
そもそもその資料を上回る精度の情報を毎回仕入れてくるのだ。
もはやどうみたって、出世したばかりで仕事が軌道に乗っていないであろうメルメルのサポートをしにきているとしか思えない。
そのことが分かっているからこそ、情報を司る最高位天使のレコードは「あの魔神には敵わない」と納得せざるを得ないのだろう。
魔法神オルデミルからしてみれば、魔法談義できる親友の下級悪魔の良心は実に心地よいのだが、なんにせよレコードからすればちょっと癪なことは事実だ。
そんな感じで物思いに耽りつつ、テキパキと仕事を片付けるレコードはふと外を見てみる。
すると……。
「もしかして、まだまだ孵化しそうにないのは温め方が足りなかったのかちら? なら、このタマゴをマグマで温めるのが吉だったり。今日は火山でキャンプファイヤーなのよね~」
……と、情報課の彼をもってしても理解できない謎の考察を繰り広げるメルメルが、ノリと勢いでタマゴを抱えつつ下界に飛び出していくのが見えたとか、なんとか。
どうやらエリート天使の休暇は、溶岩よりも熱い情熱をもって動き出したようであった。
ガチャで手に入れたタマゴの行く先はゆで卵か、それとも伝説の幻獣、神話の神獣の誕生か。
その結果は……。
まあ、メルメルのことだから後者であろうと予測される。
メルメルのタマゴ孵化作業が、今始まる!!
色違いが生まれるといいね(`・ω・´)