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【013】覚悟と決着

【注意】

本日2話目の投稿となります。

読む順番にお気を付けください。



 このまま戦闘に突入することを決めたエキナたちが作戦を組み立て、先手必勝とばかりに黒装束たちに襲い掛かるのを見ていたカキューは、いますぐにでも飛び出して五人の賊を始末しようとしている妻エルザを宥めながらもその様子を観察していた。


「おお、やるなあアベルのやつ。やっぱりその気になると雰囲気変わるねぇ。なぁ、ハーデスちゃんっ! エキナのやつも我が孫のカッコいい姿を実に、それはもう実にっ、昔の君みたいに見つめているっ!」


 賢さを活かすフラダリアや嫌がらせが得意なエキナの行動は予想通りだが、いざという時に本領を発揮するアベルの勇姿を確認したカキューは大絶賛する。

 そんな子供たちの様子を隠れて見ている最後のメンバー。

 ついでのようにカキューの光学迷彩魔法で隠れ潜んでいるハーデスは、昔の自分と夫アルスの関係を思い出して赤面した。


 当然の如くその様子を記録に残そうとシャッターを切るカキューだが、同じく当然のように顔を背けるハーデスと堂々巡りのようにぐるぐると周り、ついに下級悪魔のちょっかいに痺れをきらした元祖ツンデレ魔界姫が声をあげる。


「くっ……! い、言われなくたってわかってるから言うな! そして録画しようとするなぁ! こうなるのが嫌だから、今回はアルスのやつとポジションを交代したかったのによぉ!」

「フハハハハハ! 愉快爽快!」

「う、うぜぇ……!」


 過去の自分と比較してしまったのだろう。

 息子アベルを見つめるエキナの表情が自分と重なり、むかしむかし今と同じように、夫である勇者アルスを恋する乙女の表情で見つめていたことを思い出したハーデスは羞恥心のあまり悶絶する。


 それはもう床を転げまわる勢いで頭を抱えて暴れるので、見かねたエルザが頭をひっぱたいて正気に戻しているくらいだ。

 他者が一番恥ずかしがる思い出を的確に射貫いて来るとは、さすが魔界姫に邪悪なおっさんと呼ばれる下級悪魔。


 実にえげつない精神攻撃であった。


「お、おおおお、覚えてろよ邪悪なおっさん! アルスが闇ギルドの連中を殲滅して帰ってきたら、絶対に言いつけてやるからな!」

「はっはっはっはっは! 自由にしたまえ!」

「くそがぁあああ!」


 そしてもちろん、アルスに言いつけられても特に困ることはないカキューは余裕の笑みで承諾する。

 ちなみにこの闇ギルドの殲滅というのは、現在アルスとガイウスのペアが行っているラドール子爵領の大掃除のことだ。


 子供達が依頼を受ける際、以前からエキナが冒険者になりたそうだと察しいろいろと見透かしていたカキューは、事前にアルスやガイウスと連携し受けるであろう依頼の包囲網を作っていたのである。

 冒険者ギルドでエキナが新人として正式登録できないのはルールとして知っていたし、強引に連れて行くだろうフラダリアのランクを利用して、子供達が受けられるもっとも高難易度のB級依頼の数を絞っていたのだ。


 ガイウスとアマンダが日帰りで達成できる範囲のB級の依頼をほぼ全てこなしてしまえば、エキナの性格からして残った最高難易度の依頼を手に取るのは明白。

 こうなれば、子供達にどの依頼を選ばせるかを調整しつつも、その依頼が成功するようにバックアップを整えるのは実に簡単なことであった。


 今回もエキナたちが後腐れなく依頼を達成できるように、黒装束たちの背後にいる闇ギルドの連中を始末する殲滅隊と、依頼達成までをこっそりと見学する見守り隊のポジションをじゃんけんで決め、二手に分かれて行動していたのである。


 余談ではあるが、実は既にラドール子爵領に蔓延はびこる闇ギルドと、ついでに似たような悪の組織を見つけ次第殲滅する形で、各地を点々としつつ大掃除を終えていた。

 あとは合流してのんびりするだけなのだが、たまには昔のように師匠と弟子の語らいをしたくなったようで、二人はカキューの家でくつろぎ談笑して時間を潰している。


 つまり、この場でハーデスの援軍にアルスが駆けつけてくることはないのだ。

 それを自分だけ分かって煽りまくる下級悪魔の、なんと邪悪なことだろう。


「いまは子供達のいいところなのですから、少しは自重しなさいハーデス。……ほら、ついにエキナが頭領らしき男を追い詰めましたよ」

「わ、わかってる! くっそ……。おっさんのせいでアベルの活躍を集中して見れないじゃねぇか」


 大人組の茶番が一段落すると、奇襲を終えて五人の黒装束たちを追い詰めた子供達の姿がそこにあった。


 一連の流れとしてはまず最初に、エキナが光と爆音が発生する特殊な爆弾石を投げつけ目くらましをしたらしい。

 その後、エキナの戦略を知って耳と目を塞いでいた子供達が突撃し、まずはフラダリアの支援魔法で子供組全体の基礎身体能力をブーストしつつ、本気になったアベルとノリノリのワサビがボス以外の黒装束を制圧。


 最後にエキナが気配を隠してボスに近づき、後ろから首元にナイフを突きつける形で決着をつけたようだ。


 だが、さすがに冒険者狩りを生業とする黒装束のボス。

 簡単には諦めていないらしい。


 今も余裕の表情で侵入者を俯瞰する彼はくつくつと怪しげに笑い、エキナに交渉を持ちかける。


「おい嬢ちゃんよぉ。大した腕じゃねぇか」

「……黙れよゲスやろー。ここで死ぬか、あいつらの家族を解放するか選べ」

「おお怖い。だが大丈夫なのかぁ? お前さんの声も、そしてナイフの切っ先も、なんだか震えているみたいだぜぇ?」


 ボスの言う通りであった。

 まだ経験が浅く人を殺す覚悟のないエキナにとって、いや子供達にとって、命のやり取りの中で降伏を迫ると言う状況は荷が重かったのである。


 それを察していたボスはニヤニヤしながら徐々に距離を取り、図星を突かれたエキナたちはそれ以上追撃することができない。


 いくら戦略的に優位に立ち、上位精霊であるワサビの実力がズバ抜けているからといっても、殺す覚悟のない者に対して、相手が自分の命を盾にしてしまえばそれ以上の追撃は困難になるのだ。


「いやぁ~! これは一本取られたわ! 部下からまだ冒険者にすらなれないチビ共がいるっつぅから油断してたが、確かにお前らが相手じゃこいつらにはどうしようもないわな。ま、だからといってこの俺が追い詰められるなんてこと、あるわけないが。おいお前達、撤退だ」

「了解」


 ボスの行動を見た他の黒装束も同じ判断に至ったのだろう。

 制圧したはずのアベルやワサビから同じように距離を取り、もう一つの出口である入口とは反対の抜け穴に向けて移動を開始した。


 子供達との実力差を痛感したことでその足取りは慎重で、若干の冷や汗を流し緊張感を感じさせるものの、逃げ切れる確信はできているようで淀みがない。

 それはもう悔しかったのだろう。

 自分達に殺しの覚悟が出来ない不甲斐なさのあまり、少年たちを救いたかったアベルはたまらずに絶叫した。


「ま、待て! 彼らの家族はどこへやったんだ!?」

「あ~? さぁな」


 とはいえ、そんな質問に答えてやるほど悪人というのは優しくない。

 いくら劣勢であったとしても、逃げ切れるならわざわざ足取りを追えるような証拠を残す意味がないからだ。


 故に悪人の視点からみれば、彼らの行動は実に正しかった。

 ……まあ。

 それもこれも、最初からここに隠れていた人類最高峰の元暗殺者が居なければの話であるが。


「まあここからは撤退するから、あとは自分達で勝手に探し────」

「────いいえ、それはもう結構でございます」


 ピィン……、とげんを弾くような音が鳴った瞬間。

 抜け穴へと向かっていた黒装束の装備が一瞬にして粉みじんになり、いつのまにか周囲に無数の糸が張り巡らされているのを理解する。


 何が起こったのか分からないといったボスの表情も束の間。

 ある程度は修羅場を潜り抜けてきた経験から、自分達に死を運ぶようなあまりにもヤバイ存在が近くにいることを知覚するのであった。


 というより、信じられないほど濃密な殺気を背後からあてられ、身動きが取れないどころか意識を保つのさえも危うい状態にあるようだ。

 いまもその膝をガクガクと震わせて、全身に張り付く細い糸に肉体が切り刻まれないよう硬直するのが精一杯なのだから。


「な、なにもんだ、おまえ……」

「その汚い口を閉ざしなさい。下衆の言葉は娘たちの教育に悪い」

「ガハァッ!?」


 問答無用の一撃必殺。

 エキナたちの前に音もなく現れたエルザが賊の意識を的確に刈り取り、手刀によって自力では再起不能の仮死状態に追いやる。


 その時点では糸は解けたようだが、あくまで完全に殺さなかったのは子供達にショッキングな映像を見せない為であるらしく、本当はここで殺してしまいたそうにしているのが分かる。

 なにせ名残惜しそうに関節を鳴らして、娘の前であるというのに珍しく深呼吸をしていたのだから。


「か、かーちゃん、なんで!?」

「説明はあとです。それと帰ったら覚悟しなさい。あなたの無茶な行いは、この母が一部始終を確認していました」

「げぇえええええ!? 助けてアベルっ、ねーちゃんっ!」


 まさに阿鼻叫喚。

 いままでの全てを見られていたと知ったエキナは絶望のあまり幼馴染に助けを求める。


 あまりにも姑息な手段であるが、父カキューのように泣き落としが通用しない母エルザに見られた以上、こうなったらもう仲間に縋る以外に手段がないらしい。

 まあ、だとしても……。


「わ、悪いエキナ。俺も母さんに捕まった」

「はぁっ!? ……あっ!」


 ようやく気付いたらしい。

 よく見るとアベルの首根っこを捕まえて、仁王立ちするハーデスが息子を回収していた。


「……ってぇ訳だ。アベルもガイウスの娘も、んでエキナももう諦めろ。今回の冒険はここまでだ。……あとのことは邪悪なおっさんにでも任せて、家へ帰んな」


 そうして再び周りを確認すると、父カキューが少年達の家族と思わしき少女を転移で回収してきており、泣いて再会する感動のシーンが繰り広げられているのであった。


 確かに賊を取り逃がすようなピンチだったとはいえ、いきなり乱入した大人組の対応に頬を膨らませて拗ねてしまったエキナは、納得がいかない様子で地団太を踏んだ。


「とーちゃんのバカー! ケチー! もうちょっとやらせてくれたっていいじゃんよー!」

「ん~でもな~。エキナが冒険したいのはよく分かったが、今のお前達では色々と準備不足だ。能力はともかくとして、心構えの方が危うい。しばらく父ちゃんと母ちゃんが鍛えてやるから、それまで大人しくしておけ」


 そう言うや否や、仮死状態になった賊を転移でまとめてどこかへ転送したカキューはエルザを指さす。

 そこには口元だけがかすかに歪んだ、不気味な笑顔を浮かべた母エルザが……。


「あなたには暗殺者としての気配の隠し方や目利きは教えてきましたが、殺すことへの心構えや攻撃的な技術はまだ未修得でした。今後はそちらにも力を入れていくので、今日のところは我慢なさい」

「うげぇ~! めんどくさっ!」


 ちぇっ、でもやっぱ、世界には面白いことがまだまだありそうだったなぁ~。

 そうぼそりと呟いたエキナだったが、地獄耳な大人組以外には聞かれることなく時は過ぎ去っていくのであった。


 この時、エキナ五歳。

 初めて自分の意志で計画した冒険で得られたものは数多くあったが、やはりというべきか、今回のことでより一層未知への期待を高めるのであった。


 今後この五歳児が黙って静観しているはずもなく、数々の騒動を巻き起こすのは想像に難くないだろう。





というわけで、今回の冒険はここで終了となります。

今後少しの間エピローグを挟んだのち、また続きを書いていくのでよろしくお願いします!


次はグランベルト君も参戦しますよ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔に関する女はツンデレになる運命なのか?この作品が結構出てるけどツンデレ好きなんですねたまごかけキャンディーさん
[一言] ま 五歳児にはまだまだ酷というものだろうね 続き楽しみに待ってます~
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