表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/163

【141】転生悪魔の最強勇者育成計画



 黄金の勇者となったアルスの剣が異空間内部の大地を割き、荒野のような大陸の一部が砕ける。

 その壮絶な剣閃を紙一重で避けた父カキューも大概ではあるが、地球でいうところのオーストラリア大陸ほどの広さを持つ異空間の一部が欠けるほどの攻撃を、ただの物理攻撃で発生させている勇者も勇者だ。


 いまの攻撃で、凡そオアフ島半分の面積は軽く吹き飛んだことだろう。

 環境の違う異空間である故、現実世界と同じ強度を誇っているわけではないが、それでもその一撃がどれほどの威力を秘めているのかは一目瞭然。


 開幕早々に全力で放たれた衝撃に、さすがのカキューも一旦上空へと逃げざるを得ない。

 何の準備もなくまともにあの黄金の剣から一撃をもらえば、さすがの彼とて大ダメージを免れないからだ。


「おいおい、アルス! お前いつの間にこんな強くなった!? さすがに今のはヒヤッとしたぞ!」

「さて、いつでしょうね! でも、僕はいつだってあなたの背中を追いかけてきたんです!」


 まるで、父さんならこれくらい余裕でしょう、と言わんばかりの返答にカキューも苦笑いを禁じえない。


 ただ、さすがに最初からはっちゃけ過ぎたのか、島を吹き飛ばす剣戟を繰り出したアルスは肩で息をして体調を整えているようだ。

 大魔法による攻撃ならまだしも、物理攻撃でこの威力を叩き出すのはさすがの勇者にも荷が重かったらしい。


 それでもなおこうして実演してみせたということは、もう自分に手加減は必要ないということを示すための、息子アルスが父へと向けたメッセージだったのだろう。

 どのような目的でこの異空間へと誘ったのかを凡そ察しているアルスは、ここで手加減した父に打ち勝った程度では世界を認めさせることなどできないと理解しているのだ。


 だからこそ最初にこの全力の力を見せつけ、本気を出した父カキューを正面から超えると態度で宣言した。


「そうかい。まさか、このカキューさんが息子に配慮されちまうとはな。……こりゃあ参ったぜ」


 そして自らの息子にそこまでの気遣いをさせてしまったことを恥じれば良いのか、それともその成長を頼もしく誇りに思えば良いのかで悩むカキュー。

 ただ一つ言えることは、異世界からやってきた転生悪魔が育て上げた最強勇者の実力は、既に自分に追いすがるまでに高まっていたということだ。


 そう思うとやはり誇らしく思ってしまったのか、ふっ、と笑みを浮かべて次なる一手を繰り出す。


 赤黒く禍々しいオーラが剣の姿を象り、まるで黄金の剣や盾と対を成すように周囲を幾本もの魔剣で埋め尽くした。


「死ぬなよアルス。今度は手加減無用の本気の本気。いままでのような授業じゃない、相手を倒すための戦い方で父さんはお前に挑む」

「ええ。そうこなくては意味がありま、────せんっ!?」


 瞬間、アルスの気が少しだけ緩んだ隙を狙って、幾本もの魔剣を置き去りにしてカキューが姿を消した。


 しかしこのことに焦り瞠目したのは一瞬であり、すぐに父カキューが転移で背後を取ったのだと悟る。

 魔力を大量に消費し創造した、あの派手な魔剣の多くをただの目くらましに使うとは、さすがに戦い慣れていると言わざるを得ない。


 これには勇者の反応速度や物理防御力を以てしても無傷とはいかなかったようで、いざという時のために背後へと回していた盾と自身が身に纏う鎧を切り裂き、その脇腹へと魔剣が突き刺さる。


「なかなかの反応速度だ。一昔前のお前なら、いまごろ胴体が上下に泣き別れているところだったぞ」

「そりゃ、どう、も……!」


 とはいえお互いにただではやられない。

 ダメージを受けてすぐに後退した勇者は無詠唱で自らに回復魔法をかけると同時に、去り際に回し蹴りで相手を吹き飛ばしていた。


 これには父カキューもひとたまりもない。

 ただの蹴りとはいえ、剣で島を吹き飛ばす人間の放った物理攻撃だ。


 腕でガードしていたのにも関わらず骨はバキバキに折れ、内臓にも重い痛みと衝撃が走っていた。


 どうやらこのやり取りを見るに、魔力や手札の多さ、戦いのテクニックには父カキューに軍配が上がり、純粋な物理攻撃力や防御力、また瞬発力は勇者アルスの方が数段上らしいことが分かる。


 どちらも一進一退の攻防があるとはいえ、まさに互角と表現するに相応しい戦いだ。


 そうしてしばらく、お互い死力の限りを尽くし戦い続け、傷を負っては回復をして再びぶつかり合うこと一時間。


 持久戦など最初から考えておらず、全身全霊で衝突しつづけた両者の余力は徐々に削られていった。

 もはや広大であったはずの大陸は半壊しており、ところどころダメージに耐えられなくなった箇所から次元の裂け目のようなものすら見えてきている。


「すっげえな……。俺様の夫が最強なのは分かっていたけどよ、あの邪悪なおっさんも、まさか一歩も引かねえどころかまだ余裕のありそうな顔してやがるぞ」

「当然です。私の旦那様を見くびってもらっては困りますよ、ハーデス。旦那様があの子の前で無様な姿をさらすなどありえません。それよりも、私はあの子がここまでの成長を遂げていたことに驚いております」


 ハーデスとエルザ。

 それぞれの妻が自らの夫を愛し、心から信頼しているからこそ驚きを隠せない。

 まさか自分にとっての世界一に拮抗するほどの勝負を見せるとは、と思っているのだろう。


「すごいです……。アルスお兄ちゃんは、やっぱり世界を救った勇者様だったんだ……」

「ヤバいのよ……。あたちが思っていた通り、逆らっちゃダメなやつらだったのよ……」


 初めて見る勇者の活躍に感動するフラダリアと、やっぱりこいつらヤベーかも、という感じに戦々恐々とするメルメル。


 片や物語の登場人物である生きる伝説の力を目の当たりした興奮で、五歳児らしくぴょんぴょん飛び跳ねては運動音痴ゆえに足をくじき泣きかけ。


 片やヤベーと思ってたやつが本当にヤバかったかもと思い、ちょっとドンパチやっている映像にビビっておトイレに行きたくなっちゃう年齢不詳の幼女。


 性格的にも正反対の二人ではあるが、くじいた足を聖女イーシャに癒してもらうと再び元気になるフラダリアと、不安だったけど魔法神のおじいちゃんになでなでしてもらったら、なんだか不安でもなくなった気がする調子の良いメルメルは似た者同士なのであった。


 そうこうして外野のメンバーが彼らの戦いを見届けていると、いままで拮抗していた両者の雰囲気が遂に変わる。


 どうやらある程度暴れ回ったことで空間が歪み始めているのを察した二人は、頃合いを見計らって最後の一撃を放つつもりのようであった。


「次で決着をつけるよ、父さん」

「ぜぇ……、ぜぇ……。お、おう! どんとこいアルス!! 受けて立つ!!」


 肩で息をし満身創痍ではあるものの、どこか楽しそうに語り合う父カキュー。


 戦闘力は息子と互角のようだが、膨大に内包する魔力のリソースはともかくとして、肉体面における体力に関してはやや押され気味のようである。


 正直、こうして語り合うことで休憩できる一時ですら、ぶっちゃけて言えばありがたかった。

 どんとこいとは言っているが、なんだかんだで父の威厳を保つための痩せ我慢である。


 だがずっと休んでいるわけにもいかない。

 最後の一撃を放とうと黄金の光を収束していくアルスに呼応するように、その手を頭上に掲げて赤黒い魔力の球体を作り出す。


 まるで黒い太陽のようにも見える膨大なエネルギーが周囲の異空間を歪ませ、これでもかというほどに吹き荒れた。


「……最後かもしれないから言っておく。アルス、お前は凄いやつだ。父さんと同じくらいの力だから、というだけじゃない。何よりもその強さは仲間と共に育み、手を取り合い、皆を守ることで手にしてきた力だから、凄いんだ。誰かを倒し続けて強くなってきた父さんには、とてもじゃないが真似できないぜ。……お前はもう、俺を超えている」


 果たして、この呟きが聞こえていたのかどうかは分からない。

 しかし父カキューが晴れやかな顔で言い終えると同時に、泣き笑いのような笑みを浮かべた勇者アルスは黄金の極光をレーザーとして撃ち放つ。


 赤黒い太陽と、それを貫かんとする黄金の極光。


 果たして勝利したのは────。


「いままで、ありがとうございました。父さん」


 ────勇者アルスの放つ、黄金の極光で、あった。






 はい、どうも~。

 息子にボコボコされてしまった地獄界最恐の下級悪魔、カキューさんです。


 現在、二十数年ぶりとなる次元の狭間とやらをふよふよと遊泳中。

 いや~懐かしいね。

 こうしてみると、この世界に降り立ってからもう二十数年も経ったのかと感慨深くなってしまう。


 この分だと、たぶんまたどこかの世界に漂着するんじゃないかな~という感想があったり、なかったり。


 ちなみに、なんで俺が次元の狭間を遊泳しているのかというと、その答えは簡単だ。


 俺が全力で放つ攻撃。

 つまりは大陸すらも一撃で吹き飛ばす黒き太陽を粉々に砕いた極光は、その衝撃波が異空間を歪ませ次元に大きな風穴を開けたのだった。


 運が良いのか悪いのか、次元への大穴が空いたことで俺が吸い込まれて行き、黄金の極光からの直撃から逸れて無事にあの世界から脱出できたということのようだ。

 俺が一番懸念していたのはこのタイミングで死んでしまうことだったので、まずは作戦成功といったところだろうか。


 これで世界は勇者が俺に対処できるワクチン足りえると認識できただろうし、一つの問題が解決したと思えば悪くない結果だな。

 残りの問題はどうにかしてあの世界に舞い戻り、一人にはさせないと約束したエルザのためにもこっそりと姿を現すことなんだが、どうしたもんかね。


 言ってしまえば戻るのは簡単だ。

 世界に魔法神の爺さんと異空間を創造したことで、あの時間軸の開拓村の空間に魔力のマーキングをしておいてあるからな。


 だから戻ろうと思えばそのマーキングを辿るだけで戻れるのだが、いかんせんそのことを世界が受け入れてくれるかは別である。

 一度追い出されてしまった以上、世界が俺という外来種の存在を意識してプロテクトを強化している可能性も高い。


 無事にマーキング箇所に辿り着いたところで、世界のプロテクトに阻まれて入場できませんでした、となるパターンも想定できるのだ。

 そのことが気がかりといえば、気がかりだ。


 だが、まあ。

 それすらも、なんとかなりそうではあるんだけどね。


 だって、ほら……。


「父さん!!」

「おう、相変わらず自分以外の人のために無茶するなあ、お前。誰かを助けるために、次元の狭間まで追ってきた勇者は世界広しといえどもお前くらいなんじゃないか?」


 ほらね。

 世界のプロテクトとかいうものを力技でブチ抜いて、光の翼で次元の狭間を滑空し、俺の手を掴み取る勇者がここにいるのだから心配なんてする必要はない。


 たぶんアルスが世界の維持する次元の壁を越えられた理由は、力技である部分も大きいが、それ以上に世界に認められた勇者だからというのも大きいのだろう。


 つまり、世界が勇者の行動に制限をかけず、ジャマをしようとしていないということだ。

 だから俺が対処しようと思えば強固なプロテクトも、勇者というマスターキーがあればすんなり通れちゃうというわけである。


 いやはや、これでもし我が息子が助けにきてくれなかったら、地球次元の神様じいさんにでも泣きつこうかなって思案してたくらいである。

 さすがに異世界で世界を救う勇者を育て上げた俺のことを、あの神様じいさんも敵視とかはしないだろう。


 もともと温厚な存在だったしな。


 だが、今回は狙い通りアルスが助けに来てくれたおかげで、こうして万事解決したってわけだ。


「帰ろう、父さん」

「そうだな。エルザのことをこれ以上待たせてやるわけにもいかんしな」


 いっちょマーキング箇所までひとっとびしますかね。


「それにしても、息子が父親を超えるっていうのは、存外気分がいいものだな」

「え? なにか言いましたか、父さん」

「いや、なんでもないさ」


 変なところですっとぼけるアルスのやつに呆れつつも、俺は再びあの世界のみんなが待つ場所へと帰還するのであった。


 あっ!

 いっとくが、アルスのやつが俺を超えたっていっても、それは一部分だからな!

 まだまだ能力の汎用性や器用さでは、このカキュー父さんが圧倒的だし、今後も負けるつもりはないぞ!


 伊達に地獄で二千年も修行してないからな、そこらへんは俺の独壇場だ。

 よし、帰ったらエルザとの子供をもうけて、今度は魔法の天才か、なんかこう凄い感じの錬金術師にしてやる!


 してやるったら、してやるんだからな!



これにて、転生悪魔の最強勇者育成計画、第一部完結!


というわけで、ひとまずの大団円を迎えました(`・ω・´)

ここまで読んでくれた読者の皆様に感謝を!


そして、今後は次世代の子供達に焦点を当てたカキューたちの物語、第二部を書いて行こうかと思います。


もしよければ、引き続きこの小説をお楽しみいただけると幸いです!


転生悪魔の書籍版もよろしくお願いしますっ!

それでは、また!


ここまでの物語を楽しんで頂けたら、感想や評価、またはレビュー等で応援してくださると幸いです!



挿絵(By みてみん)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なんというか、2000年地獄にいた時よりこの二十数年のほうが充実というか内容が濃そう
[良い点] 第一部完結おめでとうございます 障害となる大ボスを倒した後で、世界の趨勢とは別勘定で仲間内での一騎打ちで占めるのはロマン(スクライド感 父が息子に一番上げたいもの、父が息子から一番受け取…
[良い点] 第一部完結おめでとうございます&ありがとうございます!!!!!毎話楽しく読ませていただきました!!!!カキューJr.とアルスお兄ちゃんがどんな仲良しになるのか楽しみに待ってます!!!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ