【137】最恐からの挑戦状
長らくお待たせしてすみません。
最新話です。
アルスとハーデスちゃんの結婚式が一段落してから、数日後。
最後の決着をつけるためにとある準備を進めようとしていた俺ことカキューは、天界でのんびり魔法の研究に勤しんでいた魔法神のもとへ突然押しかけ、準備への協力を打診していた。
ちなみにこの天界への出張にはエルザが同行するまでは予定通りだったのだが、なぜか俺の行動に興味を持ったチビスケまでがくっついてきている。
「あたちにも、たまには里帰りが必要だと思うのよね~。おじいちゃんもそう思うかしら?」
「な、なんだこの態度のデカい天使は……。この魔法神オルデミルを前にして、お、おじいちゃんだと……」
「おじいちゃんは、おじいちゃんなのよね~。あたちはオルデミルのおじいちゃんのことは大好きよ?」
「む、むぅっ!! そ、そうであるか……。うむ、おじいちゃんと呼ぶことを許そう」
と、こんな具合である。
なぜこのチビスケが上司にここまで強気なのかというと、近々下界を担当する部署の最高位天使としての出世が約束されているかららしい。
雑用天使たちをまとめる天使長をも超える役職で、地球次元で例えるならば熾天使級への昇格なんだとか。
あまりにもエリート街道まっしぐらだ。
天使長であるプレアニス曰く、世界を救う勇者を導き未来をより良いものにしたこと、さらには下界でのあらゆる功績が認められ、上司である神々の総合判断でこの出世は決まったと言っている。
まあ、いますぐにというわけではないが、熾天使はこの世界の天界基準だと下級神のワンランク下くらいの立ち位置だ。
とんでもない大出世だな。
ちなみに、このチビスケの出世を最も強く推していたのは魔法神オルデミル本人らしく、チビスケなりに頑張って起こしまくった奇跡の数々を知った時の反応は、まるで孫の活躍を微笑ましく思うおじいちゃんそのものだったそうだ。
なんでも、オルデミルの爺さんは理屈で物事を考えるクセがあるため、理屈をすっとばしてノリと勢いで問題を解決に導くチビスケのことを昔から興味を持って観察していたそうな。
そうして観察しているうちに愛着がわいてしまい、いまじゃ孫扱いというわけである。
なお、このことは本人には言わないでやってくれと情報源であるプレアニスから口止めされていたので、天界では割と有名な出来事らしい。
そんなこともあり、魔法神への打診ついでにチビスケをセットで連れてきた俺は、孫が大好きでしょうがない爺さんに大歓迎で迎えられていたのである。
「して、異界の魔神よ。この異空間の設計は確かに下界への被害を防ぐことが可能かもしれん。だが、もし仮に想定された出力以上のエネルギー同士がぶつかり合えば……」
「ああ、わかってるさ。そのことは承知の上だ。それと何度も言っているが、俺のことは魔神ではなくカキューと呼んでくれ。神だのなんだのと言われるほど、徳の高い存在じゃないんでな」
妻であるエルザに威圧感を与えないためか、それともチビスケをその手でよしよししたいがためか。
スケールのデカい巨体を人間サイズにまで縮めた爺さんは、俺に忠告を促す。
爺さんの懸念はもっともで、話を聞いてすぐにこの設計の危険性に気付いたあたり、やはり魔法を司る神というだけあって抜け目がない。
だが、今回ばかりはそれでいいのだ。
最低限、人間界への被害さえなければ、異空間が弾け飛ぼうがなんだろうが、どうということはない。
「オルデミルの爺さんも知っての通り、アルスが生まれた目的はこの世界が異世界からやってきた異物を排除するためでもある。……いや、もっといえば、その排除するという機能が正常に働くことを世界が確認したいといったところなんだろうな」
「そうだ。世界の意志と神々の意志は別だが、我々も同様に想定している」
で、あるならば話は簡単だ。
しかしここまできて気づかないとなると、爺さんは魔法に関しては深い理解を持っているが、それ以外のことにはけっこう頭が固いな。
むしろこの異空間の脆さは、その異物の排除を想定しているためのものとも言える。
「ならば、この設計でいい。むしろ、ある程度は異空間が脆くないと困る。そうだろ?」
「なにを言っておるのだ? 勇者との戦いに耐えられずに異空間が壊れれば、お主はこの世界から……、いや、待て! そういうことか!!」
どうやら気づいたらしい。
まあ、そういうことだ。
いまや五年前の最終決戦とは比べ物にならないほどに成長したアルスが本気で戦えば、想定されている以上のエネルギーで空間を木っ端みじんにすることはむしろ想定内。
むしろ問題は、その余波から下界をどう守るかであったわけだが、それも魔法神と共同で設計する異空間が問題を解決に導いている。
あとは、俺がどう頑張って生き残るかというだけの話でしかない。
なにせ、いまのアルスはこのカキューさんでも油断できないほどに強い。
世界を救うとかいう使命でもない以上、人類の力を束ねた裏技みたいなパワーアップはできないだろうが、それを抜きにしてもあの時くらいの出力を個人で出せるのだ。
自分で育てておいてなんだが、とんでもない男になったものである。
「まあ、そういうわけだから頼んだぞオルデミルの爺さん」
「なるほど、理由を聞けばこれ以上は無いほどの解決方法である。……あい分かった、お主にはこの天使の旅を見守ってもらった借りがあるでな。その礼も兼ねて、この仕事は責任を以て請け負うことにしよう」
ということらしい。
まったく、ツンデレな爺さんだ。
チビスケのことを見守っていたのは確かだし、その礼として、というのも嘘ではないだろう。
だが、本心は別。
この爺さんは単純にお人よしなのだ。
自分と同様に魔法への理解が深く、切磋琢磨できる友とも言える俺に対しての情があるのだろう。
いちいちデビルアイで感情を見透かさなくとも、こんなことはチビスケですら気づいている。
「あたち、やっぱりおじいちゃんのこと好きね~。よしよし、なのよ」
「むっ!? わ、悪い気はせんが、しかしこれでは立場が……」
ツンデレな爺さんがなんか言ってら。
そうこうして、天界で魔法神との議論を交わしつつも数ヶ月が経ったのち、ようやく完成した異空間へと主役を誘うために、下界でイチャイチャラブラブな新婚生活を送っているアルスのもとへ、一通の手紙を差し出したのであった。
タイトルをつけるなら、そうだな……。
最恐からの挑戦状、といったところだろうか。