【126】光よあれ
カクヨムでの先行公開、なんかやりにくいので、やめました(`・ω・´)
ほぼ同時公開でいきます。
人と魔が己が誇り、命、信念を懸けて、まさに雌雄を決するといわんばかりに衝突する決戦の地。
そんな南大陸の、……いや、人の世に顕現した地獄の中心とも言える戦場にて。
大陸の中心国家である魔法大国ルーランスは窮地に陥っていた。
「報告いたします! 魔族、そして魔物の混合部隊一万二千からなる強襲により、迷宮王国ガラードとの国境を支えていた東砦が陥落! 指揮官はアンデッドの上級魔族、おそらくヴァンパイア種かと思われます!」
「……わかった。報告ご苦労。下がってよい」
「はっ!」
戦いの最中、既に満身創痍とも言える騎士からの報告を受理し、ルーランス王国第一王子、マルスレイ・ルーランスは目を伏せる。
数週間前に始まった魔族との戦い。
その戦況は人間側の不利、……どころか、既に各国の軍は壊滅しつつある。
それもそのはず。
数十年に一度現れただけでも一国が動くレベルの上級魔族が百体、そのすべてが一度に襲い掛かってきているのだから手に負えない。
さらにルーランス程の魔法大国ですら一体を相手にしただけで揺らぐレベルである、四天王級の魔族の姿すら確認されている。
こんな状況下で善戦できるほうがどうかしているのだ。
もはや戦略や戦術といった次元の話ではなく、圧倒的に戦闘力が足りていない。
しかし本来であれば、人間側は常に数の利を生かして、この絶望的な状況にも戦線維持くらいはできるはずだった。
だが、なぜか今回は無尽蔵に魔族や魔物が湧き出ており、まるでどこかに、魔界と人間界を繋ぐ穴でも開いているかのようにあふれ出してくるのだ。
このようなことは、過去の歴史や伝説を鑑みても前代未聞であった。
「教国からの援軍は……」
「未だ到着しておりませぬな。件の勇者は、いまごろようやく教国を発った頃合いでしょう。しかし、それでも早い方ではあると思いますがな」
マルスレイ王子は共に戦場に立つ将軍へと声をかけ、ありえないと理解していながらも、僅かな希望に縋るように問いかける。
王子とて理解しているのだ。
この地から教国に連絡が届くまで、最速でも一ヶ月はかかる。
超一流とも言える情報特化の部隊でも、数週間。
つまり、通常は往復で二ヶ月だ。
そんな中、どんな奇跡が起きようとも戦争が始まって三週間で援軍が到着するわけがないと。
故に勇者を恨むのはお角違いであり、むしろ魔族の動向をいち早く察知し、いままで数々の問題を解決に導いてくれたあの者達には感謝しかなかった。
だが、それはそれとして、過程はどうあれ、いまここで生き延びなければならないことには変わりはない。
どうにかできないものかと王子は数々の作戦を脳内で組み立てるが、現実的な解決案は浮かばない。
今回の魔族侵攻は、なにもかもが圧倒的過ぎるのだ。
「いかが致しますかな、殿下よ」
「……我が国の戦力で魔族に対抗できるのは、あと何日だ」
「およそ、三日。なに、西からの援軍が間に合わなくとも、やりようはあります。現在、古の盟約によって動き出したダークエルフの里が、常闇を中心とした暗殺部隊を結成し各地の魔族を食い止めおりますゆえ。運がよければさらにもう二日延命できましょう」
もっとも、その時はもう、我が国は大陸の地図から消えているかもしれませぬが。
将軍はそう言い、戦場に目を向ける。
既に目の前まで迫ってきた魔族と魔物の群れ。
それらは兵士や騎士を易々となぎ倒して進軍してきていた。
もはやこれまでか。
彼はそう感じ取り、せめてこの国の王子だけでも守り通すため剣の柄を握りしめ外に目を向ける。
さきほどは三日と言ったが、それはあくまでもこの大陸の人間が侵攻に耐えうる時間だ。
この国が落ちる速度のことではない。
魔族は南大陸における戦力の要となる魔法大国ルーランスを、まるで目の敵にでもするかのように集中的に狙ってくるのだ。
あと半日もすれば自分の首どころか、王都にすら手が届くだろう。
我が国の戦力で、という問いに対する答えとしては不適切かもしれないが、将軍はこのタイミングで王子を絶望させたくなかった。
人類が勝利したあとの復興のためにも、王子だけはせめてエルフの隠れ里か、ダークエルフの隠れ里に逃げ落ちなければならない。
逃がされる本人は知らないことではあるが、そのための予備戦力は用意してあるし、ルーランス王も了承している。
戦い傷つく者達を差し置いて、王族がこのような状況で逃げ出すのは多くの者に恨まれるだろうが、ならばせめて、全ての罪は自らの独断専行であるとして、自分が背負おうではないかと決意した。
「クックック……。未来の歴史書では、きっと私は大犯罪者だな。なあに、人類の勝利に比べれば、安いものだ。勇者よ、あとの世界は頼んだぞ」
将軍が意を決し、王子ですら知り得ない極秘の命令を下そうと、呟こうとした時だった。
「グルォォオオオオオオオオオオオン!」
「な、なんだっ!?」
突如として、巨大なドラゴンの影が戦場に落ちる。
そして次の瞬間────。
────邪悪なる全てを蹴散らせ!!
────ブレイブ・ブレード!!
今度は眩いばかりの閃光が、まるで迫りくる魔族を打ち払うかのように、辺り一帯を黄金の光で照らしたのだった。
これはいずれ、遥か未来で御伽噺として語り継がれる、伝説の勇者アルスが起こした代表的な奇跡。
「光よあれ」その一幕である。
◇
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「な、なんか言え、なのよ」
火竜の上で黙りこくる勇者、聖女、剣聖、超戦士。
そして若干チビりながら腰を抜かし逆切れする天使。
彼等は一様にして、たったいま起きた惨状を、上空から目の当たりにしていた。
というのも、さきほどアルスが戦場に放ったブレイブ・ブレードの威力と範囲に問題があったのだ。
かつては本人がブレイブエンジンのオーラを剣の形に留めて、武器として扱うのが精一杯なスキルであったのだが、今回のは規模が違う。
多くの人々が傷つき、魔族の侵攻に晒された地獄を目の当たりにしたアルスは一瞬でブチギレてしまい、無意識に自らの限界を超える力を発揮してしまった。
……するとどうなったのか。
結果は御覧の通りである。
「まさか、押し寄せる魔族の大群と同じだけの本数のブレイブ・ブレードを、戦場に雨あられと降らせるたぁな……。ついに俺の弟子は人間をやめちまったようだ……」
一部始終を目撃したガイウスは、冷や汗を流しながらも、やけに静かになった戦場で淡々と告げる。
なにせ上空から戦場を見下ろす彼の眼下には、既に動いている魔族は存在していない。
ようするに、全てを怒りでぷっつんしてしまったアルスの一撃で葬ってしまったのだ。
これにはさすがの勇者一行も、本人を含めて唖然とするしかない。
具体的な戦果で言えば、ルーランスに押し寄せていた魔族と魔物を合わせて、十五万程の敵を瞬殺したことになるのだから。
しかも有り余る力を暴走させた黄金の光は、敵を打ち滅ぼすどころか、余剰エネルギーだけで傷ついていた全ての騎士、冒険者を癒してしまう。
もはやお前一人でいいじゃん、状態であった。
とはいえ、さすがに勇者本人も全力を出し切ったのか、限界を超えた代償として既に魔力はガス欠。
体力も底を突き、肩を上下させながら膝立ちで精一杯のようではあったが。
「あたち、いままで逆らっちゃダメなヤバいやつは一人だけだと思ってたけど、もう一人いたのよ」
「はぁ……、はぁ……。あ、あの、メルメル?」
「ま、いまは休むといいのよ。よくやった、なのよね~」
結果的に多くの人々を救ったアルスの頭を、エリート天使のちっちゃな手のひらがよしよしと撫でる。
これはメルメルにとって、なによりも最上級のご褒美なのだ。
ちなみにこの間、イーシャはショックのあまり気を失い、エインは開いた口が塞がらず、金魚のようにパクパクさせていたのだった。