【125】辺境伯の一手
転生悪魔1巻発売まで、あと5日!!
本日2話目の投稿です!!
※読む順番にお気を付けください。
「ついに魔界からの侵攻がはじまったか……」
「はっ! 南大陸からの言伝によりますと戦いは激化し、既に夥しい犠牲者が発生しているとのことです。幸いなぜか死者よりも、戦線復帰可能な負傷者の数が圧倒的に多いようですが」
「それこそが魔族の狙いだろう。戦場での足手まといを増やそうとしているように見えるな」
カラミエラ教国の重鎮、ザルーグ・ドラシェード辺境伯の領主城にて。
彼は今、各地に張り巡らせた網によってもたらされた情報を元に、震える手をごまかすように必死にとある人物への報告書をまとめていた。
しかし封筒には宛先が書かれておらず、ただ差出人である自らの名前と「我が神へ捧げる」との文言が表に存在するのみ。
通常であればこのような形式で手紙が目的の人物へと届くことは有り得ないが、既にこの形式でのやり取りは十年近くも続けられていた。
情報をもってきた暗部もそれが分かっているのか、特に不安視はせずに静観している。
実際になぜかその手紙は必ず相手に届くし、これまでこのやり取りを行うことで数々の問題を解決してきた実績があるからだ。
「敵勢力はおおよそ魔族十万。魔物を入れればその五倍……、いや、さらに十倍はあるな。これは勇者がいまから向かったのでは、到底間に合わぬだろう」
最初に狙われた侵攻先は魔法大国ルーランス。
勇者アルスの母、エルザの故郷である。
もちろん南大陸の総力を結集すれば、敵の数に対抗する規模の戦力をかき集めることはできるだろう。
しかし、それではダメなのだ。
下級魔族であればいざしらず、中には中級魔族、上澄みともなれば上級魔族も含まれているだろう。
なにより人間界で表立って指揮をしているのは四天王の一人であるとも言われている。
そんな化け物が束になってかかってきたのでは、いくら数を揃えたところで勝ち目は薄い。
もちろん攻め込んできた上級魔族の数など、十万の連合からなる魔族全体の千分の一にも満たないだろうが、それを踏まえて尚、脅威度は計り知れない。
魔物に至ってはその十倍もあるのだ。
いくら大陸の総力を結集しようとも、分の悪い戦いになるのは目に見えていた。
西大陸に位置するカラミエラ教国は、そんな南大陸の最大国家である魔法大国ルーランスに援軍を送ると言っているが、もはやどうにもならないだろう。
もちろん、カラミエラ教国の意図が分からないわけではない。
見えている範囲で最大の脅威となる四天王と、その直属の配下である上級魔族おおよそ百。
騎士や冒険者では対応困難なこれらさえなんとか駆逐することができれば、十分に勝機はあると踏んでいるのだろう。
それは分かる。
上位個体を失った群れなど、烏合の衆だからだ。
その上、伝説に語り継がれる勇者と聖女、教国が誇る最強の近衛騎士である剣聖、彼等が任務を失敗するとも思わない。
実際に自らの目で見て暗部に調査もさせてきたが、彼等の実力はまさに規格外。
かつて教国で開かれた武術大会の優勝者である超戦士や、聖騎士団が誇る団長すら霞んで見えるほどの猛者だからだ。
しかし、あいにくと辺境伯が気にしている問題はそこではなかった。
「間に合わぬ。どうやっても無理だ。……せめていますぐにドラゴンにでも乗り込んで、空から南大陸を目指すならともかく、皇都から港町まで旅をしてさらに船での移動となると、時間が足りん」
そう、問題は時間であった。
連絡に特化した暗部が、戦争が激化する地から情報を持ってくるまで、実に数週間がかかった。
情報の重要度が高いため、それこそあらゆる手段を講じてこれだ。
勇者たちがルーランスに到着する頃には、もはや南大陸は死に体。
よしんば勇者が到着したとして、一個人では対応しきれない、数だけは多い中級以下の魔族や魔物をどう処理するというのだろうか。
どれだけ戦闘力が高くとも、この数が相手では先に体力が尽きる。
これこそ騎士や冒険者が露払いするべき案件だ。
「しかし、我々人類にはまだ魔族すらも知らぬ切り札がある。勇者でも、聖女でも、剣聖でもない、あの御方がいるのだ」
「勇者の父親、ですか……」
「口を慎め。貴様如きが軽々しく神を語るな。貴様の言動にはあの御方への敬いが感じられぬ」
辺境伯が睨みを利かせると、暗部は全身が硬直し額に脂汗を浮かべる。
情けないように見えるが、彼とて一流の戦士であり暗殺者だ。
だが政治的手腕だけでなく、武力という面でも辺境の地を任せるに相応しい男の殺気には対応に苦慮しているようだった。
「し、失礼致しました……」
「まあ、土台ただの人である我らには理解できぬ次元の存在。貴様が信じきれぬのも無理はないがな」
それだけ言うと、手紙にまとめ終えた情報を部下である暗部へ持たせ「いつものところだ」とだけ指示を出すのであった。
◇
「おいおい。辺境伯のおっさん、独自にここまで調べたのかよ。人間の身でよくやるわ」
「旦那様。そもそもザルーグ・ドラシェードさんは教国きっての政治家であり、守護者でございます。純粋な武力では聖騎士団長に及ばないでしょうが、知略戦略等の搦め手を用いた総合力では、おそらく教国でも敵うものはいないでしょう」
場所は人跡未踏の東大陸に聳え立つ、この世界に四つだけ存在する魔法城の拠点にて。
息子と元部下であるガイウスの顔合わせを終え、少し時間に余裕ができた下級悪魔は妻であるエルザとバカンスに来ていた。
最近は天界だの試練だのと、なかなか二人きりの時間をとれていなかったため、少しだけ不機嫌になったエルザへの家族サービスを行っていたのである。
「しかし、今回ばかりは相手がわるいぞ辺境伯のおっさん。そもそも仕掛け人が俺だからな、これ」
送られてきた手紙には、敵対する魔族の人数構成、予想される敵戦力の配置、人類の勝利という観点から優先的に救済すべき人間の候補、その他あらゆることまでまとめられていた。
辺境伯が組織している暗部がもたらした情報から、まだ半日も経っていないでこれである。
窓口となっているミニカキューに手渡した手紙が、いくら転移によって一瞬で届くとはいえ、仕事の処理速度が尋常ではない。
まさにカラミエラ教国最強の守護者といっても、決して過言ではなかった。
剣や魔法といった個人技だけであれば剣聖やその父親である聖騎士団長に劣るものの、全体的な影響力は彼等を上回るだろう。
「まあ、だからこそ類を見ない程に優秀な暗部が数多くついてきているのだろうがな」
下級悪魔は少しだけ思案する。
辺境伯に仕える暗部は時と場合によってピンキリだが、特に今回の作戦に用いられている一族は、彼にとっても切り札と言える最精鋭の猛者たちだったな、と。
下手をすれば、世界を見ても飛び切り優秀な暗部かもしれない。
というのも、教国を裏から支えるザルーグ・ドラシェードという人物が動かせる家は多岐にわたるのだ。
唯一動かせないのは皇家が管理している暗部組織だが、数ではなく質という面でみるのであれば、南大陸で活動している暗部一族は歴史に名を残してもおかしくないほどの腕前であった。
だからこそ四天王の目を掻い潜って情報を収集することもできているのだ。
知っていたこととはいえ、まさか魔王の直属の配下である者達の目を掻い潜るとは「人間の身でよくやるな」という評価が下されていた。
「とはいえ、うちのエルザママには及ばんが! ぬはははは!」
「あら、私はもう暗殺者としての足を洗いましたので、なんのことやらさっぱり。……いまはちょっと変わった旦那様と結ばれた、世界一幸せな妻でございますから」
「おっと、そうだった」
とはいえ、それはそれ、これはこれ。
下級悪魔、もといカキューはいまバカンスの最中なのである。
そもそも問題となっている移動手段については火竜を利用すれば、明日にでも南大陸に到着するだろう。
そのために火竜にガイウスを乗せて来たわけでもあるので、何も心配していなかった。
人間に否定的な意見を持つ魔族との戦争で犠牲になった者達には申し訳ないが、彼等としてもあと少しの辛抱だ。
なにせいま向かっているのはまさしく人類の希望。
最恐の下級悪魔が鍛え上げた歴代最強の勇者、アルスなのだから。
転生悪魔2巻を出すためにも、1巻を宜しくお願いします(`・ω・´)
また、オーバーラップ様の転生悪魔公式サイトでは、アンケートを実施しています。
キャラクターの投票等もありますので、ぜひぜひご確認ください(`・ω・´)
【キャラクターアンケート&公式サイト:短縮URL】
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※短縮URLなので、一旦URL短縮サイトを経由するかもしれません。