【121】メルメルの情報収集
こんにちは、たまごかけキャンディーです。
今回は転生悪魔のカバーイラスト公開を兼ねて、後書きにて発売告知をさせていただきます。
アルスが勇者の試練を乗り越えて、仲間達のもとへと帰還してから数週間後。
魔界で下級悪魔と魔王の密談が交わされたことも知らずに、サングラスの似合うとあるエリート天使は情報収集を行っていた。
なぜならば、唯一繋がりのある海を隔てた南大陸では既に魔族の活動が活発になってきており、いまや人類の平穏は魔族の手によって脅かされつつあることを、情報に敏感な一部の人々は知っていたからだ。
そうなると天界の大事なエネルギー源である信仰心にも変化が……、というのは建前で、もしかしたら情報の中に自分の活躍がこっそりと噂されているかもと思っているからである。
エリート天使としてはそろそろ下界でも注目を浴びちゃったりして、人々の信仰の対象になり大天使への階段を駆け上がっていると思ったらしく、この辺で自分の評価を調査しておきたかったのだろう。
もちろん、導きの天使としては勇者のバックアップも怠らない。
なぜならエリートだから。
話がだいぶ逸れたが、魔族の暗躍を知る機会があるのは一部の特権階級とはいえ、人の口には戸が立てられないことを証明するかのように、緊迫した空気感は徐々に広まっているようだった。
そんな緊迫した空気感は人々の不安となり、陰謀論も含めて噂は瞬く間に一般市民へと流れていく。
また、噂の中にはれっきとした真実もあり、南大陸における港町での魔族襲撃、そして砂漠に位置する迷宮王国ガラードでの四天王暗躍等々……。
英雄譚は尾ひれがつく勢いで、勇者アルスの旅路として吟遊詩人たちの手で広まっているようであった。
そして、決定的になったのがカラミエラ教国の教皇が発した「勇者誕生」宣言。
ここまでくれば勘の鈍い者でも気づくだろう。
いまこの世界では再び、絶大なる力を持つ魔界の王、魔王による人間界侵略が始まろうとしているのだと。
……そして時を同じくしてこんな噂も流れていた。
一つ。
ときどき目撃される、高速で空を飛行する翼を生やした謎の珍生物。
二つ。
街中で突然背後に現れては声をかけてきて、金メダルを自慢しつつエリートを自称する謎のちびっこ。
三つ。
怪しげな幼女が居酒屋に突撃し、度々無銭飲食で捕まりそうになるものの、なぜかサングラスを掛けたオールバックの偉丈夫か、もしくは黒髪黒目の優男が現れて代わりに金を支払ってくれる。
といった、各地で目撃される都市伝説のような噂も存在した。
また目撃した時間も土地もバラバラであるのにも関わらず、その噂にはあまりにも関連性があったため、一部特殊な研究者達が魔王の手先なのではと注目し始めているのも事実だ。
この噂のちびっこを生け捕りにできれば、暗躍する魔族の情報源になるやもしれない、という考えを持っていた者も少なくはない。
だが調べれば調べるほど研究対象の行動原理が理解できず、しばらくすると気が触れ発狂する者すら出てしまったらしい。
以降、研究者の間ではこのちびっこに関する研究はタブーとされたとか、なんとか。
そんなことを思案しながら、一通りの情報収集を終えたちびっこ天使は、ちょっとだけご満悦な顔で一息ついていた。
「……と、いうわけなのよね~」
「おいチビ。何が、というわけなんだ。全く分からねえ。というかお前、突然いなくなったと思ったら、数週間もなにやってたんだよ」
「ハーデスには分からないのよ。これは、あたちの昇進に関わることなの」
「ハァ?」
カラミエラ教国の皇女イーシャの自室で、肘をつき一人で黄昏ているメルメルは独り言を呟く。
ちなみに、現在他のメンバーはハーデスを除いて教皇と謁見の間で正式に旅立ちの儀式を進めている。
ここが宗教国家である以上、勇者という戦力をただ野放しにすることはできない。
どう動くにも建前として、これからは教国と教皇自身が後ろ盾になる、という明確な意志を諸外国に示す必要がある。
故に諸外国の重鎮たちを集め、勇者のお披露目を兼ねて公の場で王命を与えているのだ。
ハーデスがその場にいないのは、魔界出身である彼女に人間としての後ろ盾がないからであろう。
そういった者はたとえ勇者の仲間であろうと揚げ足をとる貴族に舐められる傾向にあるため、仲間達満場一致の可決で聖女イーシャの自室にてお留守番が決まった。
魔族であることを理解しているのはアルス達だけではあるが、彼女の性格を熟知しているイーシャなどは、「煽られたあげく、暴れ出す未来しかみえないわ」と言って謁見を断固拒否したらしい。
もちろん、本人は不服のようだが。
「かぁ~! どいつもこいつも俺様のことを無視しやがってよぉ! アルスの傍では、こ、このハーデス様が支えてあげなくちゃ、締まらないだりょ……。将来は、ど、どうせ一緒になるんだしぃ……。えへ、えへへ……」
「フーン」
「…………」
「え? なんなのよ?」
「死にてぇようだなチビ」
その後、なにやら聖女イーシャの自室から幼女の悲鳴が聞こえてきたとか、なんとか。
憐れメルメル。
どうやら色恋はまだちびっこには難しく、空気を読むことができなかったようだ。
そして他愛もない日常と平和なひとときのあと、再び世界の運命は動き出すのであった。