【112】真相
創造の女神から謝罪を受け、俺という存在を受け入れられてからしばらく。
現在俺たちは謁見の間から離れ、女神の私室と思わしき城の一角にて例の相談の内容とやらを聞かされていた。
といっても、大まかな内容は既に天使長のプレアニスから聞いている。
自分で言うのもなんだが、ようするに俺という存在がいるとアルスの教国での試練があまりにも楽勝になってしまうため、手出ししないようにお願いしますということなのであった。
むしろ手出しをするなら、試練を与える側で調整したいから天界で作戦会議を開こうぜ、ということだ。
そういった事情を知っていたので天界までノコノコついてきたし、女神の悪癖にも注意喚起だけで済ませた節がある。
「先ほどは失礼しましたカキューさん。それと、エルザさん。お二人には大変不愉快な思いをさせてしまいましたね……」
「もういいって。俺がどういうやつかっていうのを周りの神々に知らしめるためにも、必要なことだったんだろう?」
まあ、異世界の魔神とまで女神に言わしめる存在がどういう力量を持ったどういう人物なのかというのを知らなくちゃ、対等に取引なんてできないだろう。
故に女神はさきほどまでの茶番を演じる必要があり、こいつには「手を出すな」ということを理解させる必要があったというわけだ。
それは俺もエルザも納得しているところなので、良しとする。
まあ、この女神の性格がちょっとひねくれているっていうのは間違いないことなんだろうけど。
「それにしてもまさか、旦那様が天界の神々を相手に啖呵を切る次元の魔族だったとは知りませんでした……。私、いまもびっくりしてドキドキしています」
いや、俺は魔族ではないぞ。
しがない地球次元の下級悪魔だ。
明確にどういう違いがあるのかというのは、どちらも魔に属する者ということで間違いないわけだから見分けにくい。
だがどちらかというと、こっちの世界の魔族は生物寄りなんだよ。
悪魔はもっと精神生命体に寄っているというか、なんというか。
たとえば魔族は死んだら復活することはないが、悪魔は力を半減させて普通に生き返るといえば分かりやすいだろうか。
肉体という器の中に魂が入っているのが人間。
その肉体が少し精神寄りになって特殊能力や不死性が上昇したのが魔族。
最後にほとんど精神と魂で構成されて、世界に顕現するために肉体の方を自分から作っているのが悪魔だ。
もっといえば、こっちの世界の神々や天使もどちらかというと悪魔寄りの存在だろう。
だからチビスケは心の在り様が変化しない限りずっとチビスケのままだし、歳を経て見た目がかわらないということになるな。
まあ、そんなことをエルザママにいってもしょうがないことなので、言わんけども。
ただ、神々あたりは俺の性質に気付いているっぽい。
「で、具体的に俺はアルスの試練にどう関わればいい? 言っちゃなんだが、あいつの本領は敵を倒すことではなく、他者を救うことにある。単に立ちはだかる強力な壁として試練に参加しろっていうんなら、断るぞ」
当然のことと言えば当然のことだ。
しかしその辺は女神も納得していることなのか、ニコニコと笑顔で頷いている。
とはいえ、さきほど騙し打ちされた影響のせいかもしれないが、なんか妙に胡散臭いんだよなこの女神の笑みは。
一緒に会議に参加しているチビスケなんて、テーブルの上に配られたお菓子をもぐもぐしながら「あたちの勘が、なにかエゲつない未来を感じとっているの」とか、「勇者はちょっとかわいそうなのよ」とか、なにやら特殊なセンサーを働かせて首をかしげているくらいだ。
いままで観察してきた感じ、こいつの直感は寸分違わず百発百中なので、こういう時には便利である。
これは女神の行動に要警戒だな。
「あらあら。ずいぶん警戒されてしまいましたね……」
「当然だろ」
「それもそうですね? 納得しました」
納得するんかい!
そこはもうちょっとゴネるところだろ!
この女神、性格がエゲつないわりに妙に素直だからやりづらいぞ……。
過保護なプレアニスに、やること成すことがだいたい意味わからんチビスケもそうだが、天界の住人っていうのは個性が強すぎやしないか……。
いや、むしろ魔界側がまとも過ぎるのか?
悪意の強い連中だが、思考回路はいたって真面目で分かりやすいからな、こっちの魔族は。
「なに、要求はいたって単純なことです。いわゆる、マッチポンプですね。私が勇者の心をこれ以上なく追い詰める試練を用意しますので、カキューさんには追い詰められてボロボロになった勇者をちょっと救ってあげて欲しいのですよ……」
いや、マッチポンプて。
俺も人のことを言えたものではないが、もう少し抵抗を持とうよ。
いま自然にアルスの心を追い詰めるっていったよな、こいつ……。
はやくもチビスケの直感が的中してしまった。
フラグ回収が早い。
そもそも、俺が直接救わないといけないレベルの窮地って、いったいどこまでギリギリのラインを攻めていく気だよ。
というか、それをすることになんか意味があるのだろうか。
勇者の試練ってなんなんだろうか。
疑問は尽きない。
これに関してはエルザママも同じく疑問に思ったのか、ママ友になった天使長プレアニスと目を合わせて不安そうにしている。
「もちろん、普通は勇者にここまでの試練は施しません。いつも通りであれば魔王を倒す力と覚悟を試し、合格ラインに到達するまで少々下級神が鍛えるだけで済んでいたでしょう……。しかし、今回に関しては話が別なのです」
そう言って真っすぐに俺を見る創造の女神。
なんだなんだ、俺が原因だっていうのか。
どういうことなんだ。
「なにせ、今回勇者が生まれたのは魔王の活動が活発になった影響などではないのだから。今回勇者が生まれたその一番の理由は、あなた。……そう、魔神カキュー、あなたが異世界から来訪してきた影響によるものなのです」
…………。
…………えっ?
…………俺っ!?
「そんな顔をしてもダメです。ちゃんと理解してください。いいですか、まずあなたがこの世界にやってきて────」
それから数時間ほど、なぜアルスが勇者として生まれて来たのか。
なぜ俺がアルスを拾うことになったのか。
また、今代の勇者がなぜ、いままでの勇者と同じ次元では試練の完成に至らないのか。
そういった理由をこれでもかというくらいに説明されるのであった。
一緒に聞いていたエルザママはあまりにも衝撃的な事実のはずなのに、むしろ俺に関することは「ふふふ」と笑って軽く受け流すし、プレアニスは「そうなりますよねぇ」なんていう始末だ。
なんだなんだ。
俺がいったいなにしたっていうんだ。
チビスケもそうは思わんか。
「このお菓子、もっとほちいのよ」
「おい、話を聞け」
ダメだ。
こいつ、長い話になるととたんに興味を失ってお菓子に夢中になりやがる。
さっきまでアルスメインの話だった時には「勇者学第一人者のあたちが~」とか言って話に割り込みたがってたくせに、あまりにも現金な性格だ。
まるで子供だ。
いや、正真正銘、どこからどうみても子供だったわ。
「────ということなのです。いいですか、ですから……」
「わかったわかった。あんたの言いたいことはよく分かった。確かにこれは俺が原因だ。ようするに、世界のバランスを崩す存在である俺の登場により、危機感を覚えた世界が考え得る最強の対抗手段を求めたんだろう?」
ということらしい。
だからアルスが生まれた理由、その真の最終目的とはつまり魔王を倒すことではなく────。
「────脅威を、駆逐することか」
「端的に言えば、そういうことになりますね」
いや~、まいったね。
時代によって勇者の役割が変わると聞いたけど、まさか親子喧嘩が最終着地点だったとは。
さて、どうしたもんか。
だがこの時、俺は心のどこかでアルスと本気でぶつかり合うその未来を、楽しみにしていたのであった。
カキュー「( ゜д゜)えっ?」
カキュー「( ゜д゜)……」
カキュー「( ゜д゜ )俺?」
【お知らせ】
一週間休みたいです。
休みたい…!!
……休みます( ・`д・´)