チャプター7
ご愛読と評価本当にありがとうございます。
セクハラおやじ?に一本背負い
「こんばん・・・・ええ?」
ボクは妹攻撃で武兄ちゃんを説得すると女の子の夜道は物騒だとかいろいろ難癖をつけて無理やりお父さんを説得した。
基本的に子どもの意見を尊重してくれるお母さんの協力のもと今日は初めての道場見学にきた。
そこでみたのは、
「なんで裸なんだよ!!」
道場主の人が説明をするために先に開けてくれているというので一時間も前に来たのだが、それが早すぎたらしくちょうど誰もいないからと、ズボンを下ろしている途中なのか、パンツいっちょの変態オヤジを見てしまった。
「変態ぃぃぃ!!」
家ではお父さんや武兄ちゃんがいるとはいえ、他人の裸はさすがに我慢できなかったらしく、相手の右腕を取ると思いっきり背負って投げ飛ばした。
その時道着を着ていなかったのでつかみ損なって思いっきり手が滑り2Mほどなげてしまう。
変態オヤジは受け身もとれず地面で気絶してしまった。
30分後
「あの・・・大丈夫ですか?」
「いたた、まさか小学1年生でしかもこんなか弱い女の子に投げ飛ばされるとはおもわなかったから、受け身も取れなかったよ。」
一部始終を見ていたお母さんの話では先ほどボクが投げ飛ばしたのはこの道場の道場主で、田舎の道場なので道場の管理から指導まで全部一人でやっているらしい。
結構強い人らしい。
しかし、投げ飛ばされたあとお母さんが畳の上に運んで介抱しても30分近く気絶したままだったことから相当なダメージがあったのだろう。
「とりあえず、先に着替えてくるよ。また投げ飛ばされてはいつまでたっても道場がひらけないからね。」
そういって笑った道場主は最初の印象のせいで格好良くは見えなかったが人好きのしそうな人柄であった。
今更ながら投げ飛ばしたことを申し訳なく思い、ボクはうつむいてしまった。
ガラガラ
すると道場主さんと入れ替わりに人が入ってきた。
「竜!?どうしたの?」
「“どうしたの?”じゃねえだろが。今日は秋がくるって言ってたからなお前の時間にあわせてきたんやないか。」
そうなのだ。
この道場、ボクの家からは少し遠いが、竜の家からは歩いて5分くらいで昼間にボクが今日から行くと言っていたのを覚えていてわざわざ様子を見るために早くきてくれたようだ。
「まぁ早い人は15分くらい前からくるからそんなに早くもないんやけどな。」
「うん、でもありがと、いきなり失敗しちゃったみたいだから竜が来てくれて助かったかも。」
「ん?失敗ってなにしたん?」
ガラリ
ちょうどよく道場主さんが来たようだ。
「おまたせしました。お、竜くん早いね。」
「はい、秋が来るって聞いてたんで。」
「そうか友達だったんだね。私はこの道場で柔道を教えている林勝矢だ。よろしくね。秋ちゃん。」
「よろしくお願いします。」
どうやら林さんは怒ってはいないようでほっとした。
それからお母さんとボクに道場のことや道着などの準備するものを説明するとおもむろにボクの方をみてこういった。
「秋ちゃんは前にどこかで柔道を習っていたのかい?」
「え?ボクは完全な初心者ですよ。テレビで見たこともないので今日初めて柔道をしりました。」
「いや、さっき君が私を投げ飛ばしたのは、一本背負いといって柔道の技の一つなんだ。それにさっきから話をしているととても小学一年生には見えないから。」
「そう言われても、本当に初めてです。」
「うん、確かに嘘をついているようにも見えないし、まぁ今日はお母さんと一緒に稽古の風景を見くといいよ。
あんなにきれいな一本背負いができるなら是非とも入ってほしいけど、様子をみて決めてくれたらいいから。」
「はい。」
話している間に時間になっていたのだろう。
林先生が何か指示をする前に大人の入門性や上級生らしい人たちが中心になってストレッチなどの準備運動を終えていた。
ふと見ると同い年の子も結構いるみたいで女の子もいる。
思っていた以上に敷居は高くないようだ。
一か月もかけてお父さんを説得したのはボクだけのようで、みんな入学からすぐにはじめているのだろう練習もさまになっている。
思っていたような血なまぐさい稽古ではなく受け身をとることを大事にした稽古内容だったが、普段から危険が多いボクにとってはこれでも十分やりたいと思えた。
帰りの車の中
「お母さん、ボク柔道するよ。」
「ええ、あれだけ頑張ってお父さんを説得したんだもの、今さらやめると言わないとは思っていたわ。がんばりなさい。」
そう言ってお母さんはあまり長くはない道のりをゆっくりと車をはしらせていった。
明日は竜に一番に報告してやろう。
ついでに一本背負いのことは誰にも言わないように口止めをしようと、考えながら車にゆられていた。
「おはよう!!」
「おはよ。」
通学団で登校するのでみんなが学校につく順番は決まっている。
竜は学校から少し遠いのでバスで通学しておりボクや司よりも先に学校についていた。
「竜、昨日の道場での話誰にもいっちゃだめだからだぞ。」
「ああ、それはもうおそいわ。昨日のうちにいっといてくれんと。」
「ええ?もう誰かに言っちゃったの?」
「まず道場ではほとんどみんなしっとるし、通学の途中とか学校ついてからもその話でいまもちきりだからな。しゃあないやん。」
「ふざけんな!えせ関西弁!!」
そういうと竜の鳩尾にボクのこぶしがクリティカルヒットした。
教室にいた友達から
「あれ?投げ飛ばしたんじゃなかったん?殴り飛ばしたの間違えやった?」
うぅ・・・お母さん、秋はお嫁に行けないようです。
全部目の前で悶絶している竜が原因なので、恨むならボクじゃなくてこいつをうらんでください。
「秋ちゃん。もう既にお嫁のもらい手はこの学校にはないから心配ないよぉ。」
口に出ていたようだ。
まぁそんなことは自分でもわかっていたので溜息をひとつはくと普段通りに席につく。
「おい、俺のことは無視か?」
「ん?とりあえず口チャックしとこうか?」
笑顔でこぶしを握ると竜も言いふらした負い目があるので口を閉じた。
しかし、小学一年生でこの会話はハイクオリティすぎないか?
元々都心で過ごしていた竜はませたところがあるし、前世の記憶なんてもののせいで普通の小学生よりも大人びたボクとそれと一緒に過ごした司ならではの会話といえば納得がいくが、ちょっと変な気分だ。
「まぁ、竜の部屋のお菓子は全部秋ちゃんのおなかに入ることがきまったねぇ。」
「マジかよ。わるかったって。」
「しょうがないな、じゃあ道場いり決まったから稽古の時相手してくれたらゆるしてあげる。」
「おお、マジか、それくらい任しとき。一か月も説得にかかったんやしホンマよかったな。」
「よくあのおじさんを説得したよねぇ。」
「えへへ。でも昨日女の子もたくさんいたって言ったら手のひら返してがんばってくるんだぞっていってたんだよ。」
「おじさん、まだ秋ちゃんが女の子らしくなるの諦めてないんだねぇ。」
「無理無理。いきなり先生を一本背負いするような奴が女の子らしくなるわけないやん。」
「竜は本当に自殺したいんだねぇ。」
「そうだな。その願い友達としてはかなえてやらないとな。」
「ちょま、ぐはぁ!!」
本日二度目の悶絶は秋の黄金の左足が脇腹に突き刺さることによって完遂された。
三人の様子をみていたクラスメイトから、
「やっぱり蹴り飛ばした。のまちがいじゃない?」
なんて声が聞こえてきた気がしたがこちらは放置だ。
キーンコーン
学校が終わると竜と別れて司と一緒に下校した。
普段なら最終下校時間まで三人で遊んでから帰るのだが、竜も早く帰るというし、今日は何となく久しぶりに司と二人で遊びたくなったのだ。
「小学校に入ってから遊びに来るのは初めてだねぇ。」
「確かにそうかも、なんか今日は竜が早く帰る用事があるっていってたからな。」
「入学式で秋ちゃんの隣に座っちゃった時から竜の運命はきまっていたんだねぇ。」
「どういう意味だ?まるでボクのせいで不幸になっているみたいじゃないか?」
「そういう意味じゃないけどぉ、あれからでしょぉ?三人でいっつも遊ぶようになったのはぁ?」
「そんなこと言ったら入園式でポニテを引っ張らなかったら司とも仲良くなかったかもしれんぞ?友達なんてそんなもんじゃないか?」
「まぁそうなんだけどぉ、僕はいいの、どうせあそこで仲良くなってなくても仲良くなってたからぁ。」
「まぁそうだな。それを言ったら竜だって同じなんだがな。」
「そう?竜の場合は先に他の友達ができていたらこんなに仲良くないかもよ?」
「いや、たとえ竜が先に違う友達ができていても、絶対にボクらと仲良くなっていたさ。」
「そうなんだぁ。じゃあしょうがないねぇ。」
「おいおい、少しは疑わないのか?」
「う〜ん。秋ちゃんのそういうのって外れたことないからぁ。」
そんな話をしているともう家の前までついていた。
道場は週に二回しかないが、お父さんの奨めでピアノやらいろいろ習い事をしているので小学校にはいったことと、道場が増えたことであまり長くは遊べないがそれでも習い事の時間まで家で司とトランプをしたり司が好きなアニメを見たりしていた。
「お疲れ様でした。」
今日は道場の日だった。
初日の一本背負いが逆にみんなとの話題になったおかげですぐにうちとけることもできた。
やっぱり前世の記憶の影響だろう、さりげなく道場に通う生徒の中で一番強いのが発覚した。
さすがにそれはまずいのでパニックになっていて無我夢中だったと真実と多少のごまかしを入れて皆に説明すると実力を隠して稽古に参加していった。
竜あたりには、バレてるかもしれないが、あれ以来誰にも言ってないし、約束を守ってくれるのもわかったから竜にはしばらくたったらきちんと説明してやろう。
「竜、一本背負いのことで話があるんだが。」
「え?もう俺は誰にもあのこと言ってへんよ?」
「違う。口が堅いのはわかったからそんなに身構えるな。」
また鉄拳制裁があると思ったのか柔道の構えをとった竜に訂正をいれる。
「実はな、これもまた誰にも言わないでほしいのだが、どうやらボクは柔道をしっていたらしい。というか一本背負いもまぐれではなくリアルに林先生よりも強いやもしれん。」
「やっぱりか。林先生よりもっていうのはオーバーだけど、この前できてたはずの型がなぜかみんなができひんってわかったら次の時からできなくなってたから変だとおもったわ。」
「あいかわらず変な関西弁だな。」
「ほっとけ、自分らのがうつったんやろが!!」
「まぁ、そんなわけでボクは力を隠すから、さっさと強くなれ。」
「は?なんでそうなるん?」
「竜相手なら何かあってもごまかせるだろうが、入門が決まった時に稽古相手になると約束しただろ?わすれたわけじゃないよな?」
「いや、あの時は秋がめっちゃくちゃ強いなんてしらなかったから、みんなよりも一か月も遅れて入ってくるんやから俺が相手をしてやるよって意味やし。」
「あの時の言葉をそのまま言おうか?
[しょうがないな、じゃあ道場いり決まったから稽古の時相手してくれたらゆるしてあげる。] そして、竜は[任せとき]と言ったわけだ。
どこにも慣れるまでとか、ボクが強かったらやめる。なんて文章はないわけだ。」
「相変わらずの天才児だな。そんな言葉普通おぼえてないぞ。」
「しかし、引き受けた記憶くらいは竜もあるだろ?約束をやぶるのか?」
「ああ、もうわかったわ。俺が秋の稽古相手になったる。でもしばらくはまだ猫かぶっとけよ。俺も始めたばっかで全然わからへんのやから。」
「うむ、それはわかっている。早くボクを守れるナイトになってくれ。」
「バカ!!そういうことを平気でいうな。」
そういうと竜は真赤になった。
マセガキだとは思っていたが小学一年生のくせに意識しだすなんて、
まったく最近の・・・・・・ボクはまぁ、前世の記憶とかあるし??
「指きりげんまんな。」
そういって小指をたててきたのでここでからかっても面白いが、竜が約束してくれる気持ちがうれしかったので茶化さずに指切りをした。
「あらら、将来を誓いあう二人の場面をみちゃったかしら。」
「お母さん!!」
迎えにきてるんだったら先に声をかけてくださいよ、お母さん・・・
司の時もそうだったが、男勝りな性格ではあるものの、男の子と仲良くしているボクにお母さんは将来については心配ないと考えているようだ。
こうして竜や司のことをたきつけたり、からかったりは日常茶飯事だ。
司はそれこそもう慣れてしまったから平気だが、竜はまだ免疫がついていないようだ。
さっきよりも真っ赤になっている。
「そんなんじゃないよ。まぁ約束をしたのは事実だけど、あと二人の秘密だからおしえてあげないよ。」
「ふふふ、いいのよ内容なんて、でも本当に竜くんありがとうね。いつも迎えに来るまで一緒にいてくれて。」
道場に通いだしてもうずいぶん経つが、竜は家が近いので歩いて帰るが、家の遠いボクの迎えが来るまで道場で一緒にまってくれる。
お母さんも竜がいることを知ってからはこうしてちょくちょく遅刻するので結構帰る前に二人で話すのはよくあることだ。
「じゃあ、また学校でな。」
「お、おう。」
まだ少し恥ずかしがりながら挨拶して、竜は家の方に向かってあるいていった。
「さあ帰りましょ。今日は先生と話していて遅くなっちゃったから。」
どうやら今日は時間を忘れたのではなく、先生と話をしていたようだ。
何を話していたのか気になったボクはお母さんにたずねると。
「お母さんも秘密よ。お互い秘密なんだからおあいこね。」
どうやら今回もお母さんの方が一枚上手のようで、上手に丸めこまれてしまった。
この時お母さんを追及しなかったことが後で後悔するとは思いもよらなかった。
それから、3年ちょっともすると竜は本当に実力をめきめきと伸ばし、小学五年生とはおもえないほど強くなった。
ボク相手に稽古していたのもあるが、約束を守ろうと頑張ってくれたのがわかってちょっと嬉しかった。
中学生になると部活で忙しくなって道場も辞める人も多いので、ボクと竜は道場で一番強い二人になっており、男子では竜、女子ではボクという感じになっていた。
秋の性格、すごさ、かなりのものですね。しかし、一応ちょっと周りよりも強い、普通の女の子ですよ。お母さんの秘密も気になりますが、AKI的には二人の今後の展開がすごく気になります。
今回のテーマは”成長”です。だいぶ男勝りな秋ではありましたが、竜と一緒になって成長の兆しが見える秋が皆さんに伝わればうれしいです。
それではここまで読んでいただきまして本当にありがとうございました。
次回はちょっと秘密が解消されます。ちょっとだけネタばれ、今の秋が好きな人は、ちょっと悲しいことがあるかもしれません。