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再転の姫君  作者: 須磨彰
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チャプター76

突然の出来事





最近クーちゃんの周りで不幸な出来事が起きなくなったの。みんなは心配することないと言っているけど、それでもやっぱり心配してしまうわ。特に、最近美術部に行くようになって、河合部長と話すことが増えたから余計に不安なの。以前部長は、

“今まで中学時代の心友たちの側にいたから起きなかった不幸が、一気にしわ寄せとして高校に入ってから起こっただけだ。”

と言っていたということを知っている。どうしてその現場にいなかった私が知ってしまったかは秘密なの。そういうわけで、私は最近クーちゃんの周りで不幸が起こらないのは、側に誰かがいるからだと思うの。河合部長は本当に言うことが未来予知みたいにズバズバ当たるから、このことに関しても、信用しても良いと思うの。そうなってくると怖いのは、しわ寄せとして起こるかもしれない大きな不幸が心配なの。

「おはよう。」

クーちゃんは今日も元気に登校してきたわ。高校に入ったばかりの時は一人でいることの多かったクーちゃんだけど、最近では滅多なことがない限り一人でいることはないのよ。朝は竜くんと一緒に登校しているし、教室までの道のりだって竜くんがいないときも誰かが一緒にいるわ。教室に入ってからは、女の子も男の子も特に用事が無い時だってクーちゃんの席の周りに集まっているわ。こんな風に誰かが側にいることが、クーちゃんの不幸を退けているみたいなの。

「おはよう。クーちゃん。今日は部活が休みなんだって?」

「そうなのよ。だから、優花に頼まれてちょっとだけね。そういえば、ミーちゃんの家に完成した絵を渡す準備があるから、今日はミーちゃんも呼ばないとね。」

「完成したのに展示場に持っていったから仕方がないんだけど、ツン先生の作品を見て驚くミーちゃんの顔が早く見たいわ。」

優花は本当にいつもクーちゃんにべったりって感じよね。朝教室にクーちゃんが着いてから体育館に向かう敦くんとクーちゃんと竜くんを見送るまで四六時中一緒にいたがって、甘えん坊将軍よろしくクーちゃんに付きまとってるわ。

「それにしても、最近ボクが教室に着くと同時に優花と明実が席に寄ってくるのが当然になってきたよね。明実なんて本当の席は教室の逆側でしょ?もうすぐチャイムがなっちゃうわよ?」

あ・・・私も優花のことをとやかく言えないんだったわね。確かにどうしてかクーちゃんには色々な人を呼び寄せるような雰囲気があって、私も一緒にいないと他の人に取られちゃいそうで不安なんだもん。

「グッドモーニング秋ぃ!」

「おはぁよぅござぁいまぁす。」

英語であいさつをしてクーちゃんに飛びついて行ったのは和美ちゃん。相変わらず過剰なまでのスキンシップにクーちゃんは困っているみたいだけど、横にケイティを連れてきたので無下に断れないみたい。ちょっと抑揚がついちゃってるけど、きれいな日本語で挨拶をしたのはケイティよ。彼女はこの一月で留学を終えて帰っちゃうんだけど、欧米風のスキンシップに慣れているためか、和美ちゃんと一緒になって抱きつくことが多いわ。こうなってしまうと、優花も同じ様に抱きついちゃうから、クーちゃんはタジタジなのよね。

「明実・・・た、助けて・・・」

「はいはい。挨拶は終わったんでしょ?そんなにみんなで一気に抱きついたらいくらクーちゃんでも圧死しちゃうわよ?」

「そんなこと言って、またポイントを稼ごうとしてるんでしょ?この前いつも助けてくれるお礼に、って特別に中学校時代に作ってたのと同じアクセサリーを秋からもらってたの、知ってるのよ?」

「ええ!!明実だけずるいぃ。ツン先生、私には??」

和美ちゃんは抜け目なく気づいていたらしいわ。みんなにばれないようにって思って学校には持ってきてないけど、お気にいりのネックレスで、休日には首から下げて買い物に出かけているの。

「しょうがないな。今度作り方を教えてあげるよ。」

クーちゃんは基本的に甘い方だと思うわ。優花がああして上目遣いをしてお願いをしたことを断っているところを見たことはあまりない。というよりも、優花が本当に望んでいることをくみ取って、ただプレゼントをするという形ではなく、一緒に作ろうと言っている辺りは流石だと思うわ。

「やったぁ。じゃあ、今日はミーちゃんの絵のために集まるんだから、今度教えてね。」

優花はまたクーちゃんが美術室に来てくれることを喜んでいるみたい。クーちゃんもそんな優花に笑顔だから、悪い気はしていないと思うわ。そんな話をしていたらチャイムがなっちゃったので、私は自分の席に戻る。授業中なんかはクーちゃんの席は一番後ろだし、見ることはできないけど、お昼は一緒に食べれるし、今日は美術室に来るって言ってたから、放課後も一緒にいられるわ。

「ヤバイ。今日の英語の訳をしてくるの忘れてた。お願いツン先生。ノート見せて。」

後ろの方で優花がまたクーちゃんにおねだりをしている。そういえば、こういう勉強に関してはクーちゃんが優花のお願いを聞いてる所って見たことないかも。今回もノートを見せる代わりに、ヒントを上げながら自分で解かせているみたい。まぁ、これも優花のためを思ってさせてるみたいだから、周りから見てもほほえましいみたいだけどね。


お昼も一緒に過ごしたけど、やっぱりこうしてクーちゃんが美術室に来てくれるのは嬉しいの。私も随分美術関係に詳しくなって優花とばかりしていたお話ができるようになったから、こうして絵を描いているクーちゃんを見るとほんとうにすごい上手なのが解るわ。

「すごい。どうしてここの部分がこんなに立体的になるの?」

「ああ、これはね・・・」

クーちゃんが美術室に来るとこうして私や和美ちゃんの様に絵を描きだして間もない人間に丁寧に教えてくれるわ。河合部長もすごく教え方が上手だけど、クーちゃんと描くときは自分でも信じられないくらい絵が上手になるし、何よりもすっごく楽しいの。

「君がこうして来てくれるとみんなのレベルが上がってすごく助かるよ。今後もこうして来てくれると嬉しいよ。そうだ、いっそのことバスケ部のマネージャーを週一くらいにして基本はこっちに来るようにしたらどうだい?」

「以前にもお断りしましたが、ボクはバスケ部でも必要としてくれる人がいるのに、あちらをないがしろにするつもりはありません。今日は用事があったので来ましたが、基本はバスケ部のマネージャーをさせてもらいます。」

河合部長の勧誘はこの半年近く止むことが無い。むしろ最近では簡単な用事などを理由にして美術室にいる時間を増やそうと、以前よりも執着しているような気がするわ。クーちゃんもバスケ部を辞めるつもりはないみたいだけど、河合部長の熱心な勧誘に少しずつだけど美術室を訪れてくれる頻度が増えた気がするわ。

「どうしたの?今日の明実はなんだか変よ?いつもちょっとぼーっとしたところがあるけど、今日は何かを考えてるみたいに、ずっと集中してないでしょ?」

色々考え事をしていたこと、クーちゃんにはお見通しだったみたい。私も直接クーちゃんの不安になるようなことは言えないから、言葉を濁すしかないんだけど、それでも最近のことについて考えていることは伝えなきゃいけないわ。

「ちょっとね。もうすぐ進学だし、クーちゃんとみんなと一緒のクラスになれるとも限らないし、センチメンタルになってるかもしれないわ。」

「確かに、進学したら文系クラスは二つに別れちゃうからね。特に今年はボクが文系に進むって公表したら、文系希望者が増えたみたいだから、一緒のクラスになれる確率さがっちゃったかもしれないね。」

「そういえば、ツン先生は文系で本当にいいの?竜くんはたしか理系に進学を決めてるんでしょ?」

「そのあたりに関しては色々考えておくよ。ボクと竜が一緒のクラスにいた方が安全ならそっちにするかもしれないしね。勉強よりもまずは安全な高校生活が優先だから、文系の方が優花たちと一緒のクラスになる可能性が高いでしょ?」

「そりゃ、私は理系なんてちょっと無理だとは思うけど、ツン先生と同じクラスになれるなら、頑張るよ?」

「コラコラ、文理選択は大学に関係するってことは、自分の将来に関係してくるんだから、友達が一緒に行くからなんて理由で決めたら一生後悔するぞ。」

「う~ん。確かにそれはそうなんだけど・・・」

実のところ、優花以外はクーちゃんの本当の気持ちに気づいているの。優花のために文系を選択フリをしているってことにね。だって、クーちゃんはそういう子だもん。私は優花と一緒に文系を選択するつもりだけど、和美ちゃんはやっぱりクーちゃんを追いかけて理系を選択するみたい。うちのクラスではミーちゃんと森くんと敦くんがクーちゃんと一緒の理系を選択するから、クーちゃんの周りに友達がいなくなるわけじゃないけど、私と優花が文系を選択してクラスが違うのはちょっと不安だわ。

「明実、そんな不安そうな顔しないで、ボクは大丈夫だからさ。さぁ、絵も仕上がったしちょうどミーちゃんも生徒会の仕事が終わったみたいよ。」

廊下を誰かが歩くような気配がしてクーちゃんが言ったように、ミーちゃんが現れる。

「あらみなさん?私の顔に何かついてまして?」

入口にみんなが注目していたので、ミーちゃんも驚いたみたいで、ちょっと赤面しながらも、中に入ってくる。

「何も無いよ。それより、早くこっちに来てよ。優花も大絶賛してくれたから、きっとミーちゃんも気にいってくれると思うんだ。」

優花がクーちゃんの絵を絶賛するのはいつものことだと思うんだけど、素人同然の私から見ても素敵な絵だと思ったから、別にいいんだけどね。クーちゃんは美術室の奥に立てかけられている大きなキャンバスを持ってくる。

「アトリエで描いてくださったら良かったのに、結局最後の方は持って帰ってしまいましたし、途中だって私が部屋を訪れると二人して隠してしまって、しっかりと見れたことなんて無くってよ。」

今まで見せてもらえなかったことに対する不満を言いながらも、ミーちゃんの目は布がかかったキャンバスに釘付けになっているあたり、怒りよりも、期待の方に心が向いているのが解るわ。

「じゃじゃ~ん!」

クーちゃんがかわいらしく布を取り去ると、ミーちゃんの目が点になっちゃったわ。ミーちゃんよりも先に見せてもらっていた私たちはそれほど驚かなかったけど、それでも目が話せないような絵になっているの。

「す、すごいですわ。」

「どう?きにいってもらえたかな?」

ミーちゃんは言葉が上手く出なかったみたいで、先ほどの一言の後はずっと首を縦に振って応えているの。確かにクーちゃんの絵は素敵だもの。これくらいのリアクションがあって当然よね。

「北条くんにはこの絵の素晴らしさが解るみたいだね。蟹津くんの一番の特徴は、絵の題材たちが生き生きとしていることだろう。女性を描いても男性を描いてもその表情から心の奥底に隠された特徴が浮かび上がっているような、そんな絵を描ける人物は中々いないさ。」

「中学の時の秋はどっちかというと男性目線の絵が多かったわよね?高校にはいってというか、誰かさんと付き合いだしてから、女性からの目線にも磨きがかかったわよねぇ?」

「ふむふむ、それは誰なの?ひょっとして?ひょっとすると?」

私と和美ちゃんがクーちゃんを冷やかすと、真赤になりながら反論しようとモゴモゴと口を動かすが、上手く言葉がでてこないみたい。こうなった時のクーちゃんはみんなの格好の的なわけで、悪戯心満載な私たちはしばらくクーちゃんをいじって過ごすの。

「そろそろ、帰ろうか?結構大きな絵だけど、どうやって持って帰るの?」

「問題ありませんわ。絵を持って帰ると言ったら迎えに車をだしてくださるそうですの。」

「そういえば、ミーちゃん家ってお嬢様だったんだっけ。」

「そういう言われ方は侵害ですわ。普段は皆様と同じように電車で通ってましてよ。」

ミーちゃんは電車の乗り方なんて知らないみたいだから、ちょっとみんなと同じことをしていることに優越感を感じているみたいだけど、本来なら乗り継ぎなんかをしないと通えない場所から、学校のひとつ前の駅まで車で送ってもらっていることを私たちはこの間しったわ。どおしてもみんなと同じ方法で学校に通いたいというミーちゃんの我がままに両親がこの方法をとったみたいなの。

「あの車かな?ちょうど来たみたいだし、今日はこのくらいにして帰ることにしようか?」

「そうですね。」

河合部長の進言もあって私たちは正門に向かう。そこには意外な人物がいて、ミーちゃん以外のみんなが驚いてしまった。

「やぁ!久しぶりだね。あれから何度も連絡しようと思ったんだけど、忙しくてね。」

「お久しぶりです。迎えの車って要さんのことだったんですね。」

「ああ、君に一目会いたくって、美香ちゃんが重い荷物を運ぶために学校に迎えを頼んだことを聞いて、その役目を代わってもらったんだよ。」

「そうでしたの。じゃあ、願いも叶ったみたいですし、行きますわよ?」

ミーちゃんが無情にも車に戻るように要さんに言っているけど、ここで引き下がるようならまずこの役目を買って出るなんて大胆な行動すらとらなかったはずよね?

「ちょっと待ってもらえるかな?良かったら、連絡先を聞きたいんだけど、美香ちゃんに聞いても本人に直接聞きなさいって言われちゃってね。」

「う~ん。ボクには彼氏がいるので、彼氏の許可なしに男の人に連絡先を教えることはできません。」

クーちゃんはきっぱりと断った。竜くんの話題になるとあんなにしどろもどろになるのに、他の男の子の前では全然へっちゃらみたいで、クールなイメージがすごく良いわ。

「僕はまたフラれてしまったみたいだね。でも、まだあきらめるつもりはないから、きっと連絡してね。」

そう言って、要さんは自分の名刺をクーちゃんに渡すと、車に絵を積み込むと颯爽と乗り込み、走り去ってしまった。

「悪い人ではなさそうなんだけど・・・」

「だったら、私が代わりに連絡しようか?お金持ちっぽいから、ちょっと遊ぶくらいならしてあげようかな。」

「ダメ。文化祭の時みたいにボクの写真とかを売ってお金儲けするつもりでしょ?」

「えへへ。バレたかぁ。」

クーちゃんは要さんに興味は無いらしく、今日は竜くんと一緒に帰らずに和美ちゃんと一緒に帰るみたいで、私は電車通学だから、正門のすぐ先の角で別れたの。

この時、竜くんがいないでも平気だと思っていたのは本当にうかつだったわ。


書き終ってから後悔。明実視点とか無理。絶対におかしい。ああ、なんでこんな視点で描いちゃったんでしょうか。

今回のテーマは~秋の周りの様子を描き切る~というテーマのもと明実視点で、普段ではありえない状況や今後の展開を予見するような内容にしたつもりだったんですが、ひたすらに難しかったです。といいますのも、中学時代のキャラたちとの違いを演出しなければならないという使命感があったからです。中学時代のキャラたちは麻美も鈴もすっごく書きやすかったのですが、明実ってどんなキャラだっけ?ちょっとオトボケで、勘違いが激しい系だったはずだけど、でもおっとりとした雰囲気を語尾に出したら司と被るし・・・

うきゃぁぁぁ!

って感じで悩んで結局このような形でまとめました。皆様にとっては読みにくい回になってしまったやもしれませんが、どうかご容赦いただきたいと思います。

次回は、きっと書きやすい視点でお送りしたいと思います。

それでは、ここまでお付き合いくださいまして本当にありがとうございます。



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