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再転の姫君  作者: 須磨彰
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チャプター73

サンタさんに逢いたい








秋たちの別荘見学は予想外の人物の登場でいきなりの波乱の予感がした。



「あら?要さん?パーティの方はもうよろしいんですか?」



「僕もこっちの方が楽しめそうな気がしたからね。美香ちゃんは日に日にきれいになっていくね。来年こそはダンス相手が現れるよ。」



「あら?今年だって色々な方からお誘いはありましてよ。でも、今はそういった方々と踊る気にはなれませんでしたの。要さんだって、誰とも踊っていなかったのではなくって?」



「僕の場合は本命に断られてしまっただけの話だよ。そこにいる、きれいな女性にね。」



「先ほどはどうも。」


秋は竜の隣で体を半分隠しながらもきちんと挨拶だけはしておく。先ほどパーティ会場で声をかけてきた男性はどうやら美香と仲の良い人物のようだ。



「そんなに警戒しないでくれないかな?僕は無理やり何かをするような人間じゃないよ。美香ちゃんからも、僕のことを弁護してくれよ。」



「まぁ、そうですわね。要さんは私の親戚になるのですが、それほど悪い方ではありませんことよ。今は御実家のあとを継ぐべく、叔父様の経営しているおもちゃ会社で働いていますの。傾きかけていた経営を彼が入ってから持ち直したって財界では噂で、将来有望な方ですわ。」



「ミーちゃんの親戚の人だったんだ。ボクの名前は蟹津秋です。よろしくお願いします。」



美香の親戚と聞いて警戒を緩めた秋を筆頭に他の者も自己紹介をしていく。パーティ会場でいきなりダンスを申し込んでくるような人物だったので積極的な性格の人間なのかと秋は思っていたが、実際の要はそんな人物ではなく、謙虚な態度が見られ、他のメンバーもそれほどいやな顔はしなかった。



一人の人物を除いては、



「はじめまして、長田和美です。秋とは竜君といっしょで中学から一緒なんです。竜君の場合は小学校から秋と同じで幼馴染ですけどね。私も小学校、いえ、それ以前から秋と一緒にいられたらって思うことはありますが、それは不可能なことですよね。竜君と秋の絆は強くって、二人の仲を裂く方法なんてないんですもん。」



「ちょ、和美、いきなり何を言うのよ。ボクはノーマルだから、って要さんに変なことを吹き込まないでよ。」



「あら?本当のことを伝えただけよ。要さんは秋のことが気になっているみたいだけど、あきらめた方がいいって早めに教えてあげるのはやさしさよ。秋はこういった話には鈍いから、心友として秋のためを思って言ったんだけど?」



「手厳しいね。確かに彼と踊っている蟹津さんの様子を見ていたら、彼との絆を感じさせられたよ。でもね、和美ちゃんだったっけ?幼馴染だから、過ごしてきた時間が長かったからって、愛するとは限らないと僕は思うんだ。もう少しだけあきらめないでいさせてくれないかな?」



「無理よ。同じことを考えて頑張ってきた私が保証してあげるわ。二人の絆を裂くことはできないわ。だって、秋にとって一番大切なものを彼は持ってるんだもの。」



「一番大切な物?・・・・・それは?」



「誰よりも、何よりも、秋を大切に思う気持ちよ。私、負けてないつもりだった、だけど、竜君の秋への気持ちは私なんかとは比べ物にならないくらい大きくって、広くって、越えられないとはじめて思ったわ。私、すっごく悔しかったけど、諦めがついたもの・・・。」



和美の独白に秋は驚く、和美にとって、愛する相手というのはかなり特殊な意味を持っていると感じていた。そんな相手に自分が選ばれたことも、複雑な気持ちもありはしたが、誇っていいものだと思っていた。そんな和美が竜に対してそんな風に感じていたなんて思っていなかったのだ。



「竜・・・そんなに・・・」



「誰かと比べたことなんてないからわからないよ。」



「そこでなんで標準語なのよ。何を隠してるの?」



竜は困ったような顔をして要をチラリと確認すると、今度は普段と同じちょっと関西弁の混ざった竜独特の話し方で話し出した。



「え・・・まぁ、またあとでな。隠し事ってほどのことでもあらへんのやけど、ここではちょっとまずいんやわ。」



「解ったわ。」



秋は竜の言葉に自分の不幸に関することかもしれないと辺りを付けることができたので、それ以上は追及しない。竜の視線から自分に話したくないのだと理解できた要は、元々消極的な性格が彼女に対してだけなぜか放っておけない自分に複雑な心境になる。



「と、とにかく、ミーちゃんの別荘見学しようよ。みんなで行っても問題ないでしょ?」



「そうだね。要さんも一緒に行きますか?態々抜け出してきたみたいですし、このまま追い返すのも悪いですから。」



優花が場の雰囲気を読んでその場にとどまるのではなく先に進むことで話題をそらす。秋も同意し、一応年上らしい要のことも気遣って誘う。要も無理に追求するよりも先に警戒を解いて仲良くなっておくほうが得だと感じたらしく、快く承諾すると、何度も来たことがあるらしく、美香と一緒になって別荘内の色々な部屋やその他の施設について説明しながら一緒に歩き出す。





「すごい広いお風呂だね。」



「それほどのこともありませんわ。以前は近くに温泉が湧いていましたので作ったものの、地殻変動で今では普通の露天風呂となってしまいましたもの。」



「ミーちゃんにとって普通はどんなのを言うのよ。ボクの家のリビングがまるごと入っちゃうよ?」



北条家の財力は一般人である秋たちにとっては理解できないレベルであった。美香が謙遜?したように彼女にとって大したことでは無いものも、秋達にとっては十分過ぎるほど凄いものばかりなのだ。



「良かったら君のために僕が温泉つきの別荘をプレゼントしようか?」



「もらっても使う機会がありませんよ。それに、ミーちゃんと仲良しのボクらはミーちゃんにお願いすれば使わせてもらえるでしょ?ね?またここでみんなで集まったりしても良いでしょう?」



「私は構いませんわ。手入れが大変なだけで普段はあまり使いませんもの。友人達が集まる場所としてなら私も喜んで提供いたしますわ。」



鼻歌でも歌い出さんばかりに美香が許可を出したことに秋達高校の友は喜び要は項垂れる。先程から何か喜ぶものはないかと秋が反応する度にプレゼントしようと申し出れば秋は自分の身の丈にあった物で良いと断ってばかりだ。



「最後に見せるこの部屋は絶対に気に入ってもらえますわ。蟹津さんと鈴木さんはまたここに来ることになるはずですしね。」



そう言って美香が扉を開けた時、一部の者には嗅ぎ慣れた、一部のものには少し異臭に感じる匂いがした。



「わ~凄い。ひょっとしてミーちゃんの先祖に芸術家の人でもいたの?」



「私の祖父の代には専属の芸術家を雇って家族の絵を描かせていたらしいですわ。この別荘はそのためのものだったらしいもの。」



「そうだったんだ。だから、ミーちゃんのお父様に絵の話をしたらあんなに驚いていたのかな?意外なことを言ったと言うよりも、希望どおりの答だったから驚いたのか…。」



秋達は今までの部屋とは違い乱雑に筆やキャンバスが置かれた部屋へと入って行く。優香はそこにある物を見て何やらふむふむと嬉しそうにしているが、名前だけに近い形で美術部に所属している明実や和美はもちろんのこと、竜や敦はさっぱり解らないようである。



「気に入って頂けたかしら?」



「うん。すっごく良いよ。絵を描くときここを使って良いの?」



「是非使って頂きたいわ。ここにある物は全て使ってもらって構いませんし、何か必要なものがあればある程度の物でしたら準備しますわ。」



「ここにある物って、クーちゃん。これは何に使うの?」



明実が机の上に置いてある物を手に取って質問をしてくる。



「そんな物まであるんだ。だからここは掃除あんまりしてないんだね。正直何が必要で何が不必要かわからないでしょ?」



「ええ、私をはじめ、家の者ではどこをどう弄ったら良いのか皆目検討がつきませんわ。ただ、川瀬さんが持っている物はあまり手に取りたい物では無かったような…。」



「そうだね。たぶんそれは鳥の糞を乾燥させたものだと思うよ。」



「キャ!」



明実は軽く悲鳴をあげると持っていた物を机に落とした。乾燥したそれは少し砕けたが特に問題無いようだ。



「な、何でそんな物が…」



半分涙が出そうな顔で抗議の声を挙げる明実をなだめながら秋は先程砕けた物を片付け、説明をする。



「今の時代は絵の具とかいっぱい種類があるけど、昔は自分の理想の色を出すために沢山の自然の物を使ってたんだよ。例えば、マリーゴールドの渋染めとか、聞いたことあるでしょ?宮廷画家なんかだと宝石を砕いてなんて話も聞くわ。」



「凄い!じゃあここにも宝石があったりするの?」



「ここで絵を描いていた人は自然画を好んで描いていたみたいね。だからより自然に近い色を出したくてそういった物を集めてたみたいだから、宝石とかはないと思うわよ?」



「ツン先生はそういった物で絵を描いたことがあるの?」



「う~ん。あったにはあったんだけどここまで種類を集めて描いた訳じゃないし、背景の一部に使った程度よ。優香も一緒にここに来るなら使ってみたら解るけど、個性が有りすぎて使い所が難しいのよ。」



秋と優香の二人で話が盛り上がっているが他の5人には解らない会話へとどんどん移って行く。こうして何か自分たちが解らない会話になっても聞いているだけで平気な者は問題無いが美香は我慢が出来なくなったため秋たちの会話を止めるとこの場を離れることを奨める。



「ごめんね。でも、これならミーちゃんが驚くような素敵な絵を描けるかも知れないよ。構想に腕がついて来てくれたらだけどね。」



「それなら大丈夫やろ。秋が描きたいと思ったんやったらきっと上手く行くんやないかな。」



「竜…ありがとう。」



「何を赤くなってるの?今日のクーちゃんはなんだか可愛いわ。何かあったのかしらぁ?」



竜の発言に過剰に反応している秋に対してすかさず明実が突っ込みを入れる。益々顔を赤くする秋に要を除くみんながいつものように呆れたりニヤ着いたり、微笑ましく見守ったりとしていたが、もう随分な時間になったと言うことで最後にみんなで美香の部屋に着くとそこからは美香の部屋に置いてあった昔のアルバムなどを見て過ごした。



「お嬢様。お風呂の準備が出来ております。本当にあのような形でよろしいのですか?」



「あら、もうそんな時間に?解りましたわ、さぁ、皆さん一緒に行きましょう。」



案内をしてくれたあの大浴場でお風呂に入れるとあって喜ぶが、秋と事情を知っている和美だけが心配そうな顔をする。



「どうかなさったの?蟹津さんも長田さんも早く行きませんこと?安心なさって、覗きなど絶対に出来ないようにきちんと対策はしてありますわ。」



覗きなど心配していなかったのだが、言われると気になるもので、後に入ることになっている男たちに厳重注意をするとお風呂へと移動を始める。



「ミーちゃん、あのね…」



「大丈夫ですわ。蟹津さんのことを考えて万全の準備をしてますの。」



秋が言おうとした言葉を遮って美香が自信満々といった様子で言葉を発してしまったので何も言うことが出来なくなってしまった。


「大丈夫よ。私が一緒にいるんだし、パーティーに出席していた人たちはもう帰ったって言ってたから、今夜は何も問題なんて起こらないわよ。」



「う、うん。」



それでも不安をぬぐい切れない様子の秋だったが、好意からの誘いを断りきることもできずに美香たちに連れられて脱衣所まで来てしまった。そして、渡されたものに唖然とするのだった。



「これなら、蟹津さんも安心して入れるのではなくって?」



「た、確かに、そうかもしれないけど、こういうものを使ったことがないから何とも言えないわ。」



秋がたじろぐのも無理はない。秋の隣では優花たち三人もそれぞれ自分用に渡された物を見てやはり戸惑っているようだ。しかし、秋ほど抵抗なく受け入れると、さっさと服を脱ぎだして浴室の方へと移動を始める。



「ツン先生。一緒に入ろうよ。これなら男子たちが来ても平気だし、何よりも怖いあそこでじーっと見つめてる子に対して防壁になってくれるでしょ?」



優花の目線を追いかけると、そこには和美の姿が、明実は初めての体験にそれどころではない様子だ。和美が暴走する前にさっさ湯船につかった方が不幸が起きないかもしれないと考えて秋も服を脱ぎだす。



「秋ぃ。私が手伝ってあげようか?こんなの初めてでしょ?」



「上から被るだけなのにはじめても何もないよ。それより、変なことしないでよ?ボクも早くお風呂に入りたいんだから。」



和美の返事は微妙だったが、それなりに温泉などが好きな秋は先ほどの北条家案内ツアーの中で広い浴室を確認しており、入ってみたいという誘惑に負けてしまった。優花に促されるまま服を脱ぐと、準備を整えて浴室へと足を踏み入れる。



「わ~。すごいねぇ。」



先ほど見た時はお湯がまだ入っていなかったのだが、この短時間に入れてしまったらしく、元々近くにあった温泉を引っ張ってきていたということもあって、かけ流しのお湯が滝のように流れ出ている。



「気にいっていただけたようですわね。私もあまり使わない別荘の中でもここだけはお気に入りですの。」



「うん。こんな素敵なお風呂があったら、ボクだったら一日に何度も入りたいと思っちゃうよ。温泉がでなくなったって言ってたけど、なんでお湯が濁ってるの?」



「今日は特別なお湯を流してもらうようにメイド達にお願いしておいたからですわ。さぁ、そんなところで突っ立ってないで中にお入りになって。暖房がきいているとは言っても、そのような格好ではお寒いでしょ?」



美香に誘われて秋は掛け湯をすると、湯船の中に入っていく。長い髪は今日はドレスを着たのでアップにしてまとめてあるが、湯船に少し入ってしまう。



「う~ん。これは生き返るみたいだよ。最初にこれを渡された時はどうやって入って良いのか解らなかったけど、別に気にならないね。」



「服を着ながらお風呂なんて初めてだったけど、それほど違和感なく入れるものなのね。」



「日本ではあまりしませんが、湿度の低い地方でお風呂に入る時などはこうやって入る場所があるみたいですわ。私も海外に旅行に行った際に一度経験していても、日本ではあまりしませんわ。」



美香が言っていた対策というのは、この服と濁り湯のことだった。和美などは逆に色気が増したとか心中思っていたりするのだが、秋は一枚あるというだけで少し安心して入ることができているようだ。お湯が濁り湯であることも湯船の中に入ってしまえば他人からの目を気にしなくて済むことが秋にとって楽になっているようだ。



「それにしても、なんでこんな方法を思いついたの?」



「以前からきいていた話から、私なりに考えたのは、蟹津さんは周りの目を気にしすぎているように受け取ったのですわ。私の様に自分の道をひたすらに信じて突き進めとは言いませんが、もう少し自分勝手になってもよろしいのではなくって?」



「そうだよ。あんたもたまには良いこと言うね。私もずっとツン先生は気にしすぎだと思ってたよ。敦から聞いたバスケ部の話でも、あれだけ周りから必要とされてるのに気がつかないかと思えば、周りの人に嫌われていないか不安だったからじゃないの?」



「それは・・・」



反論する言葉が思いつかなかった秋にさらに明実や和美が追い打ちをかける。結局秋が思っている以上に周りとの関係は良好なのだから、気にするなということで落ち着くと、次は別の話題が秋を襲う。



「今日はクリスマスイブでしょ?私と和美ちゃんとミーちゃんは良いとしても、優花とクーちゃんは本当は彼氏と過ごしたいんじゃないの?」



「そんなことないよ。だって、こうしてパーティにも一緒に出られたんだし、今年はこれで十分だよ。ボクとしては“今夜だけ”は二人っきりになりたくないんだよ。」



「ほほう。“今夜だけ”ということは、ダンス中にでも何か約束をしたんじゃないの?」



「え゛・・・そ、そんなことは・・・」



慌てふためく秋にみんながバレバレだと言って話を聞き出す準備を始める。逃れられないことを理解した秋はしぶしぶながら、ダンス中に竜とかわした内容を説明する。説明を聞いた面々はそれぞれ応援するもの、意外そうな顔をするもの、複雑そうな顔をするもの、真赤になって身もだえるものと様々な反応をする。



「ツン先生としてはどうなの?やっぱり自分でも嬉しいんでしょ?」



「もっと進んでいると思ってましたわ・・・そうでしたの・・・」



「秋が決めることだけど・・・」



「クーちゃんも大人の一歩を・・・」



「ちょ、ちょっと待ってよ。みんな、ボクはまだOKを出してないんだから、特に明実!そんなんじゃないから。」



「ええ?でも、これってそういう意味じゃないの?私にはそういう風にしか解釈できないけど?」



「そうよね。私でもそういうことだと思うな。ツン先生としても何もないんだったら即OKだしてたでしょ?」



「そ、それはそうなんだけど・・・」



ガールズトークが盛んになってきたが、明実がそろそろのぼせそうになってきたこともあって話は一端中断され、女の子たちの部屋に集まってこの話の続きをすることになる。秋としてはこれ以上過激な話になる前に辞めてしまいたいところなのだが、優花の様子を見る限り決断するまで許してくれそうにない。



















時間は深夜、竜は大きなお風呂に敦と二人で入ってすっきりすると自分たちのために用意された部屋へと入って寝るための準備をしていた。要も泊っていくのかと思っていたが、大事な用事があると言ってお風呂に入る前に帰ってしまったので、この部屋には敦と二人きりのはずだったのだが、その敦も先ほど優花と明実によって部屋から連れ去られてしまったので誰もいない。敦がいればもう少し起きていても良いかと思っていたのだが、一人住みなれない部屋で何もすることがなくなったので、眠ってしまおうかと思っていたところだった。



コンコン



「ん?どうぞ。」



ノックの音に敦が帰ってきたのかと一瞬思ったが、敦だったらノックなどせずに入ってくることだろう。扉の向こうの気配を読むと数人感じ取れたので、女子たちが寝つけずに遊びに来たのだろうと考えた。



ガチャ



「起きてたんだね。」



扉の先には秋が一人、先ほどは何人かの気配がしたはずなのだが、小さく開かれた扉の向こうに他の人の姿は見えない。



「ああ、敦もおらへんし、これから寝るところやったんやけどな。どしたん?入ってきてええよ?」



「ね、寝るところだったんだ。じゃあ、悪いか、キャ!」



バタン、ガチャ



どうやら竜の感覚は正しかったらしい、明らかに遠慮しようとしていた秋がなぜか自分の力じゃない力によって扉の中に押し込まれると、扉を閉められてしまった。



「あいつらは何をやっとんのや?まぁええわ。敦もおらへんし話し相手がほしいと思ってたんや。どうせしばらくは出してもらえへんのやろ?」



「う、うん。さっき鍵がかけられる音がしたから、ひょっとしたら朝まで出れないかもしれない。」



「まったく・・・まぁこれもあいつらなりに、秋のためにやっとるんやろうから強くしかれへんのやけどな。」



「そうなんだよねぇ。これで相手が悪人だったら、楽なんだけどねぇ。」



秋がそういうと、竜は笑って、秋に中に来て椅子にでも座るように勧める。こういった自分の良く分からない状況にされることは、中学の頃に司や麻美たちに良くされていたので今更驚くことはない。



「ほんで、高校の心友たちは何を俺らに期待しとるんや?」



「実は・・・」



優花たちと話していた時はあれほど緊張して話をしていたというのに、竜の呆れたような、どこか慣れ切ってしまった態度を見て緊張を解くと、お風呂からのいきさつを説明する。すると、もう一度竜に大きな声で笑われてしまった。扉の外にはまだ優花たちがいるのだから、その大きな声は確実に届いているだろう。



「せやったら、十分やな。秋としても、こうしてみんなで馬鹿やってほんで俺とこうして笑ってられるんやから十分やろ?」



「ふふふ、そうだね。優花たちの望みとはちょっと違うかもしれないけど、せっかくなんだから、クリスマスイブらしく、プレゼント渡さないとね。」



「せやったな。ちょうど前に話してたのにいいんとちゃう?こうなったら俺も半分手伝おか?」



「そうと決まったら、みんなには早く寝てもらわないとね。」



二人は小声で扉の向こう側にいるみんなに聞こえないように約束を交わすと、寝る準備を始める。しばらくたって何の音も聞こえなくなったことを残念に思いながらも扉から離れた心友たちは自分たちの部屋に着いて絶句する。



そこには、メッセージカードと共に秋が自分で作ったのだろうプレゼントが置かれていた。


(夜更かしをするとサンタさんに会えないぞ)



メッセージカードには秋の綺麗な字でそんな風に書いてあった。扉の前で張り付いていたが音が聞こえなくなったのは当然だろう。竜の部屋の窓から秋と二人して脱出してこうしてプレゼントを配っていたのだから、そのことに気付いた心友たちは秋の手ごわさに舌を巻くのだった。



「しかし、「プレゼントはリボンを巻いた秋」だなんて言っておいてこれは竜君は相当な奥手なのかしら?」



「ちがうとおもうな・・・」



敦がそう言っても女子たちはその後竜がどれだけヘタレかという議論に終始し、明実が寝むそうにし始めたのを見て自分たちも寝ることにした。優花と敦は議論の途中でちょっと用事があると言って出て行ってしまったので、別の部屋で寝ていることだろう。



敦の言葉を気にしなかったことを後で後悔するとは思わずにそれぞれ眠りに着くのだった。


大変遅くなりました。


サンタさんはもちろん秋サンタさんです。竜と一緒にみんなにプレゼントを配っている様子が秋らしいですね。



今回のテーマ~秘密~です。


たくさんの秘密を隠してたくさんの幸せを隠してみました。

竜からのメッセージから始まって、すぐにバラしてしまうものからまたまた次回以降に持ち越すものまで中には幸せじゃない秘密があるかもしれませんしないかもしれません。それらについてはまたこれから解って来ることと思います。



クリスマスが随分過ぎてしまっていますが、ここまで読んで下さってありがとうございます。

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