チャプター72
わ、わたくしと踊って頂けません?
今日はクリスマスイブ、ボクらはミーちゃん主催のダンスパーティーに参加するためにミーちゃんの持つ別荘の一つに来ている。しかし、ボクはミーちゃんの家の恐ろしさを理解していなかった。
「蟹津さん?何をそんなに固まっていますの?今日は個人的な友人を招いてのささやかなパーティですので、そんな硬くならずに楽しんでらしてください。お~っほっほ。」
ミーちゃんのセリフをきちんとボクらの解る言葉に翻訳すると、
「これでも、人数や招待した人を選んで気さくなものにしたんだから、安心してね。まぁそれでもあなたたち庶民にとっては敷居が高いかもしれないけどね。お~っほっほっほ。」
といったところだろう。そう、ボクらにとっては広い邸宅にたくさんの人があふれているこの状況も、ミーちゃんにとっては小さなパーティなのだ。実際先ほど確認した情報によると、招待客の量は普段の半分にも満たないらしい。
「うちら浮いてないかな?やっぱり、自作のドレスなんてまずかったんじゃない?」
「そ、そんなことないわよ。さっきも北条さんのお母さんに褒められたばかりじゃない。」
「そうだぜ。自分の分もお願いしたいって言ってたあの顔はマジだったぜ。」
優花と明実と敦君もかなり緊張しているらしい。入口でミーちゃんのお母さんに挨拶をした以外は先ほどから誰にも話しかけずに部屋の隅の方でできるだけ目立たないように固まっている。しかし、ボクらみたいな人間が部屋の隅にいれば逆に人々の目はこちらを向くわけで、注目をあびてしまっているかもしれない。
「あんなぁ。注目されてる一番の理由がんなこと言ってもしゃあないやろ?あいつらを楽にさせたりたいんやったら、少し離れたれって。」
「うるさいな。せっかくボクがこの状況を説明してあげているのにぃ。」
そういえば、竜はあんまり緊張していないみたいだ。神経が太いボクですら結構緊張しているっていうのに、先ほどからボクの隣で堂々と胸を張っている。うん、ボクが作ったタキシードもすっごく似合ってる。。。。いかんいかん。こんなことを考えてるせいでさっきから顔の熱が引かない。
「テレビ中継でも緊張しなかった秋が緊張しとるなんて、大丈夫か?顔真っ赤だぞ?」
ちょま、顔が赤いのは緊張のせいだけど、たぶん竜は緊張の理由間違えてるから!ってか顔近い!心配ないからお願いだからもう少し離れて!
「ほらほら、竜くんも秋もそんなところでいちゃいちゃしないの。人が多くいる場所で秋の不幸が起きないか心配なのは分かるけど、もう少し二人は離れた方がいいわよ。あきらかに嫉妬の対象になってるわよ。」
そうそう、こんな状況にも関わらず、あまり緊張していないのが、和美だ。和美は先ほどからボクらに話しかけてくる男の人たちを相手にしてくれている。主に男性恐怖症の明実あたりが被害を受けるので、和美が上手くかわしてくれるので本当に助かっている。
「もう、秋は本当に、自分のことになると解ってないんだから、ほら、そんな顔してると悪いお姉さんに食べられちゃうわよ。」
そう言って和美はボクのことを抱き寄せると、軽く髪に口づけをする。文化祭前に同性愛者であることを暴露してしまってからは、こうしたスキンシップが増え、竜の前でも女の子という立場を利用して結構大胆なことをしてくる。
「ちょ、和美。やめてよ。みんなが見てるじゃないか。」
「あら?みんなじゃなくて竜くんが見てるからでしょ?大丈夫よ。竜くんが浮気して他の女に目を奪われでもしたら、放っては置かないけど、これだけ綺麗な女の人が集まっていても秋以外に見向きもしないんだもの。私もそろそろ諦め時かなって思いだしたわよ。」
「ちょ・・・べ、別に俺は・・・」
「あら?私なんてさっきからドッキドキよ。あんな綺麗なお姉さま方に声をかけられたらうれしくってなびいちゃうわ。」
和美が緊張してないわけじゃなかったんだね。緊張の方向がボクらとはずれていたみたいだ。先ほどから男しか話しかけてこないので問題なかったが、和美の趣味に走りだしたら、暴走しないとも限らないので、きちんと見ておかないと。
いろいろと間違った状況の中、ボクがここに来た目的の一つが向こうから声をかけてくれた。
「こんばんは。美香から友達を紹介したいと言われた時は驚いたけど、こんな素敵な人とはね。」
「北条美香さんのお父様ですか?はじめまして、蟹津秋と言います。それとも・・・大木鈴と自己紹介した方がよろしかったでしょうか?」
「なに?いや、そうだね。君が噂の子か、美香はいつも君のことを話ているよ。あのとおり、跳ねっ返りなもので、こんなに仲良くなった友人は君が初めてなんだ。これからも、仲良くしてあげてくれるかな?」
「はい。もちろんです。今日も私から彼女にパーティーに参加したいと言ったら、快く招待して下さいましたよ。」
ふっふっふ、はっはっはとお互いに笑いあっているが、互いに牽制しあった状態をこのまま続けても意味がないので、ボクの方から踏み込んだ話題を出す。
「そういえば、以前絵を一枚描いて欲しいと依頼したことがありますよね?少し私のお願いを聞いて下さるのでしたら、引き受けようかと思います。」
「なに?それは嬉しいね。それで、願い事というのは?」
「まず、描き上がった作品は一度展示場の人に許可をもらいに行かせて下さい。これは、私の願いというよりも、展示場の管理をしている人の願いです。」
「ふむ、1番に見れないのは残念だが、仕方が無いだろう。君の若さではバックアップ無しでは辛いこともあるだろうからね。」
ミーちゃんより何倍も手強いよ。言葉に隠された真意を読み取られてるかも、まあ、問題ないんだけどね。
「もう一つは、絵のモデルをして下さい。この二つの願いを聞いて下さるなら、描きましょう。」
「まさか、絵のモデルとは・・・一本とられたね。構わないだろう。君と美香に日取りは任せるから、いつでも遊びにおいで。」
そういって、ミーちゃんのお父さんはニコリと笑うと、他にも挨拶があるらしく、優雅にお辞儀をして立ち去ってしまった。
「ちょ、ちょっと。蟹津さん!?お父様に何を言ったのですか?いきなりわたくしの挨拶まわりを中断させると、「今夜はいいから、友人と楽しみなさい」なんて言われてしまいましてよ?」
「前に北条さんって人が絵を描いて欲しいって言って来たのを話たでしょ?絵を描く約束をしただけだよ。」
嘘は言っていない。実際表面だけを見ればそのとおりなんだから仕方がないよ。ミーちゃんは納得がいかないといった顔をしたが、それよりも重要なことがあったらしく、その話は打ち切りとなった。
「まぁいいですわ。それよりも、わ、わたくしと踊って頂けません?」
・・・いきなり何を言い出すんだこの子は、和美の視線が物凄く危ない物になってるから止めて欲しい。
「先に理由を聞かせてよ。普通女の子同士で踊るのはおかしいでしょ?」
「そ、そうですわね。実はパーティーの最初に踊るパートナーは婚約者と決まっているのですが、わたくしはまだそんな相手を作りたくありませんの。自分の可能性を狭めるような気がしませんこと?」
「なるほどね。だったら、ボクには竜がいるから、誰か別の人に頼んでよ。」
「私達は無理よ。秋と一緒に特訓したとはいえ、いきなり踊れる自信なんて無いわ。」
「そういうことですわ。それに、あなた達は今回初めての参加ですもの、そういった制約がかかるのはわたくしだけですわ。」
「だ、そうだけど、竜が決めて良いよ。」
確かにボクら一般市民にとって全く関係のないことなので、最初に誰と踊っても問題ないだろう。その一回でミーちゃんのことを助けられるならそれも悪くない。
「どうせ、ミーちゃんのためになるならとか思っとるんやろ?俺とは二回目からでええよ。その代わり、二回目以降と最後は俺とやで?」
いや、確かにそう思ってたけどさ?竜がいなければって気持ちだってあるんだよ?まぁ二回目から一緒にって言ってくれたからいっか。
「ダメよ。ミーちゃんの次は私達と踊ってくれなきゃ。特に明実ちゃんは男性恐怖症なんだから、秋が一緒に踊ってくれないとね。」
「ちょま、それは流石に酷ないか?」
ボクも竜と一緒に踊ってみたいって気持ちがあったけど、確かに男性恐怖症の明実を放置する訳にもいかないだろう。結局、竜の順番は後の方にまわされてしまった。
音楽が鳴り響き、ダンスの始まりだ。結局ミーちゃんはじめ、女の子たちに負けてボクはまずミーちゃんと踊ることになる。
「男性のステップなんてよくできますわね。」
「まぁね。何度も優花たちの練習相手をやってたから、自然にできるようになったよ。それにしても、ミーちゃんはやっぱりこういうのに慣れてるんだね。すっごく踊りやすいよ。」
「それほどでもありませんわ。むしろ、このような場所が初めてとは思えないほど蟹津さんのダンスは様になってましてよ。」
『今まで一緒に踊った中で一番踊りやすいほどですわ。本当に、この人は女性が惚れる女性というのが嫌でも理解できてしまいますわ。』
「おほめにあずかり光栄です。お譲様。」
「お・・・いえ、本当にパートナーに選んで良かったですわ。」
女の子なら誰でも良いというわけにもいかず、ある程度踊れる人が良かったのだろう。ミーちゃんも恥をかかずに済んだのでボクを選んだことは間違いじゃなかったのかもしれない。本人たちの申告どおり、こんな場所でのダンスは初めての優花・明実・和美の三人だったら、婚約者云々はごまかせても、別の場所で問題があったことだろう。
「そろそろ、一曲目が終わるね。次は男性たちからのダンスを断るためにも、明実とおどってあげないとね。」
「そ、そうですわね。周囲に婚約の意思がないことを伝えるためとはいえ、このようなダンスをしてもらい本当にたすかりましたわ。そ、それに、とっても楽しかったですわ。」
「ふふ、ボクも、初めてが慣れているミーちゃんだったおかげですっごく楽にダンスをさせてもらえてよかったよ。ありがと。」
一曲目が終わると、次のダンスパートナー探しをするもの、もう一度踊るもの、二曲目から参加するもの、二曲目は休む者と様々だが、そんなボクの元へ明実が寄って来た。
「ボクと踊ってくれますか?」
「喜んで。」
緊張している明実に、少しだけおどけた態度でダンスを申し込む。すると、明実は最上級とはいかないまでも、笑顔をくれた。
ボクと明実は軽く会話しながらダンスを踊る。正直ミーちゃんと踊ったようにスムーズに躍ることはできなかったが、それでも楽しく踊れたと思う。それに、ボクらが失敗するよりもはるかに多くの回数足を踏み、もつれあう二人がいたことも影響されて、周りの目を気にする必要がなかったのも大きい。
「ふふ、またあの二人、喧嘩してる。」
「いいんじゃないかな?優花と敦君は、ああやって仲良くしてるんだもん。それに、曲が進むにつれてだんだんリズムが合ってきた気がするしね。」
「そうね。喧嘩してたと思ったら、仲良くなっちゃうんだもん。どうしてかしら?」
「喧嘩したから仲良くなったのかもね。お互いに言いたいことをいって、やりたいことをやっても認めあっているから、だから二人の仲は良いんだと思うよ。ボクと明実だってそうでしょ?最初から解りあっていたわけじゃないじゃない?だけど、今はこんなに仲が良いんだもん。」
「きゃ!」
そういって、少し体を引き寄せて振り回してみる。明実は少し驚いたみたいだけど、すぐにニコリと笑うと、ボクに体を預けてくれた。
「そうね。喧嘩したから、仲良くなれるのかもしれないわね。」
優花と敦君がダンスにずいぶん慣れてきたころ、二曲目は終わり、今度は和美がやってくる。まだ曲が終わったばかりだというのに、人込みを抜けてボクのところに一直線といった様子だ。
「本当に、今日初めてダンスを踊ったなんて知らなかったら分からないわね。」
「そんなことないよ。がんばってはいるけど、やっぱり慣れた人と比べたらちょっと浮いちゃってるんじゃないかな?」
「浮いてるかどうかって言われたら確かにそうなんだけど、全然変じゃないわ。さぁ、私のことも、エスコートしてちょうだい。」
「はいはい。明実は竜のところにいてくれる?竜なら他のひとよりもは安心でしょ?」
「うん。クーちゃんが嫉妬しない程度に竜くんの側にいるね。」
「もう。」
明実とお別れして、和美の手を取る。和美は本当にうれしそうに体を寄せてくると、一生懸命練習したステップを何度も間違えながらも、ボクと踊れるというそれ自体に楽しみを感じているらしく、始終笑顔だった。
「きゃ!」
何度目かの転倒、和美は普段よりも10センチも身長が高くなるハイヒールを履いているので、仕方がないのだが、ダンスもあることをきちんと理解していたボクは動きに支障の出ない程度のヒールを履いているので、きちんと受け止めてあげる。
「ありがと。」
「大丈夫?そんな高いヒールを履いてくるからだよ。今日はボクよりも身長が高くなっちゃってるもんね。」
「いつもは、秋に抱きつく時は下からだったけど、これなら上から見れるでしょ?竜くんがどんな風に秋のことをみているのか体験してみたかったの。上目遣いの秋は最高よ?」
「もう、そんなことばっかり言うんだから。ダンス中に会話を聞いてる人なんていないとは思うけど、そういう勘違いしそうな発言はやめてほしいな。」
「あら?そんなこと言ったらもう遅いと思うわよ?三曲続けて女の子と踊ってるんだもの。そっちの趣味のある人からみたら、秋は既にそういう対象よ?」
「それが解ってるなら、和美だけでも竜の後に踊って欲しかったよ。っていうか、ボクを餌にして自分と同じ趣味の人を見分けようとしてない?」
「それもちょっとだけね。でも、一番は、竜くんに独占されるのが嫌だったんだもん。秋の気持ちはわかってても、嫉妬しちゃうんだから仕方がないでしょ?」
「ボクの気持ちを分かってくれてるなら、余計に助けてよね。ボクはノーマルでいたいんだよ。」
「秋って普通にこだわるけど、元々普通じゃないんだから、そんなにこだわる必要ないんじゃないかしら?前世の記憶があるから女の子を好きってなっても誰もダメだとは言わないわよ?」
「確かにこだわってる部分はあると思うけど、竜を好きなのは、前世とか関係ないよ。いつも一緒にいて、守ってくれた人を好きになるのはいけないことじゃないでしょ?ボクだって気にしている前世の影響だけじゃなく、自分の気持ちに素直になった結果なんだもん。」
和美は少し残念そうな顔をしたけど、また笑顔にもどると、ダンスを目一杯楽しんで、三曲目が終わる。周りに合わせてペコリとお辞儀をすると、今度こそは竜が来てくれると思って期待していたら、優花に阻まれた。
「みんなとは踊ってもうちと踊ってくれないなんて言わないよね?」
「優花は敦君と踊ってたじゃない?そろそろ竜と踊りたいんだけど?」
「一曲くらい竜くんは待ってくれるわよ。そうじゃなくても普段からマテをさせられてるのを知ってるんだからね。」
ボクは呆れと諦めを込めて竜にアイコンコンタクトを送ると、相手が優花では仕方がないと思ってくれたらしく、楽しんで来いと送り返してくれた。
「解りあってるって素晴らしいわね。」
「解りたくない時もあると思うけどね。」
優花は敦君と二曲踊ったことにより、随分と余裕があった。それでも何度も躓いてしまうことはあったが、先ほどの敦君とのダンスと比べたら随分上達している。あまりにも待たせてしまったので、申し訳なく思い竜の方を確認すると、敦君と二人で明実を男たちの手から守っていた。和美はどこかのお姉さんと何やら話こんでいるので、あまり戦力にならないらしい。
一曲目の時はずっとボクとミーちゃんが踊っているのを見ていたのに・・・
「ツン先生って本当に何でもできるよね。さっき敦と踊った時よりもずっと踊りやすいよ。」
「一番最初に慣れてるミーちゃんと踊ったからね。もう、この会場の雰囲気に慣れてきたよ。そうそう、さっき北条パパに絵を描く約束をしたけど、優花も一緒にくるでしょ?」
「うん。絶対に行く。どんな絵ができるのか楽しみだし、先生が絵を描くのを近くでみれるなんて得点見逃せないよ。」
優花も笑顔になってそのあともダンスを楽しめた。明実や和美と違って運動が得意な優花なのでちょっと難しいステップなんかをしても着いて来れたので、ボクも結構無茶な要求をしてしまったが、良いアクセントになったらしく、十分に楽しめた。
「お譲さん。ずっと女性とばかり踊ってますが、良かったら僕と踊ってくれませんか?」
ダンスが終わったあと、竜が来てくれるのを待っていたら、お金持ちのボンボンって雰囲気の男性にダンスの申し込みをされてしまった。優花は竜が来るまで隣にいてくれたので、不幸が起きる予兆ではないとは思うが、それでも竜と踊りたいので丁寧に断る。
「先約がいますので申し訳ありません。今までは全員友人だったので彼も許可してくれましたが、ずっと一緒に踊りたいと思ってくれている人がもうすぐ来ますから。」
ボクはできるだけ相手を刺激しないように言ったつもりだったのだが、相手は断られることを念頭に置いて話していたのか、引きさがってはくれない。
「君のような綺麗な人がずっと相手を決めずに踊っているのはもったいないよ。そういう趣味じゃないんだろ?きちんと男の人を相手に踊った方がいいよ。」
図々しい。おそらくどこかで和美か誰かの会話をきいていたのだろう。ボクがノーマルであることは間違いないのだから良いのだが、確かに見た目は悪くないが、こういう軽い男は趣味じゃない。
「待たせたな。優花ちゃんは明実ちゃんのところに言ってくれへん?坂本一人じゃどうにもおさえられへんみたいやねんて。俺らはパーティに参加したのは初めてやし、秋の作ったドレスの効果で全員一級の美女になっとるから目立ってしゃあないわ。」
「うん。ツン先生も竜くんと楽しんでね。」
「じゃあ、パートナーが来たので私はこれで。」
ボクは竜が着いたことに安心して、ナンパ男を遠ざけ、ダンスフロアの中央に逃げるように竜の腕を引いて行った。
「来るのが遅いよ。まぁ、明実のことがあるから仕方がないんだけど、おかげでボクは大変だったんだからね。」
「悪かったな。にしても、俺は初めておどるんやで?中央は流石に目立ち過ぎやないか?」
「ボクが初めて女性のステップを踏むんだから、これくらいで丁度だよ。それとも、自信がないの?」
「しゃあないな。俺は秋の彼氏やねんから、これくらい乗りきってみしたるわ。」
やっぱり、今日の竜はいつもと違って全然緊張してない。なんでだろ?運動神経が良いから、あんまりダンスの練習も必要ないだろうと、ちょっとだけしか練習してこなかったのだけど、まるで踊れることが当然のようにしてふるまっている。
「この一曲は俺のために踊ってくれるんやろ?お姫様のエスコートが遅くなったことは許してくれよ?」
「う、うん。」
曲が始まり、体を近づけると、竜の心臓の音が聞こえてくる。見た目よりも緊張してたのかな?すっごくドキドキしていて、でも、なんだかボクと同じってことに安心しちゃった。せっかく竜と一緒に踊れるんだから、楽しみたい。
ボクたちが動き出すと、そこだけ別の世界になったような気がした。音楽も周りで踊っている人も、ボクたちを引き立てるためのものでしかない。竜はボクが望んだとおりに足を動かしてくれるし、ギュッと握った手はまるでボクを違う世界へ導いてくれるような気さえした。
「秋、やっぱり俺って嫉妬深いのかもしれんわ。女の子相手にカッコ悪いんやけど、嫌やった。秋が男に声をかけられたのみて、相手のことブン殴ってやりたい気持ちになってもた。」
「ごめんね。優花も、竜はいつも我慢してるって言ってた。そんなにボクって竜のこと我慢させてるかな?」
「我慢っていったら確かにそうなんかもしれへんけど、秋のためやったら、意外と平気やぞ?それに、俺がどうしても無理になったら、秋は俺のために手を差し伸べてくれるんやろ?」
「うん。だから、我慢しないで何でも言ってね。ボクは竜のためなら、結構いろんなこと、できると思うよ。」
「そっか、じゃあ今度・・・・ゴニョゴニョ。」
「ば・・・う、うん。考えておくよ。」
竜に耳元でささやかれた言葉に真赤になってしまったけど、優花が我慢してるって言った意味も理解できたし、実際に悪いと前から思っていたので、否定だけはしないでおく。そのあと、竜はさっきの言葉をごまかすように無理やり大きなステップをしたりしたので、意識をダンスの方に持っていかれる。
そのあとボクたちはパーティ会場から抜け出すと、ミーちゃんに呼ばれて別荘の見学に出かけた。ドレス姿のままだと、問題があるので、ボクたちはそれぞれお泊まりセットを持って来ているので、普段着に着替えてしまった。
「ドレス姿の秋はすごく綺麗やったけど、その方が落ち着くな。」
「ありがと。竜もタキシード似合ってたよ。」
「おう。秋が俺のために作ってくれたんやから、当然やろ。」
「もう、変なところで自信過剰にならないの。」
「ツン先生、今夜は一緒にお風呂はいろ。夜もみんなで同じ部屋だし、楽しみ。」
「今夜は寝かせないよ。」
「ちょっと、和美ちゃんが言うとなんだかエロいわよ。あ、でもクーちゃんは夜苦手なんだっけ?」
「最近はだいぶ遅くまで起きていられるようになったけど、やっぱり夜更かしは苦手かも。」
こうして、クリスマスイブの夜、ミーちゃんの家に呼ばれてのパーティは一旦落ち着くのだった。あとに、大きな課題を残して。
お久しぶりでございます。
この話はクリスマスが近づくまで更新を控えようと以前から考えていました。しかし、なんだかクリスマスイブの夜はまだ続きそうな内容ですね。
今回のテーマは~秋のダンスと新たなライバル~で、おおくりしました。前半こそ美香の父との会話などを入れましたが、美香と一緒に踊ることになったあたりからは完全にあの一人のナンパ男を出すために、今後の展開のために書いてあります。
年末年始と忙しくてまた次回投稿が遅くなります。読者の皆様には大変ご迷惑をおかけします。そんな作品でも良ければ、また遊びに来ていただけたら幸いです。
ここまでご一緒いただけまして本当にありがとうございました。